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遺産相続
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翌週、宏美が定期預金を解約して、通帳を持って来た。
なんの面倒もみていない宏美に委任するなんて。
死んでしまっても、尚一層、憎しみが湧いてくる。
母が使っていた古い通帳3冊もわざわざ持って来て、3冊分の預金を自分名義に一冊の通帳にまとめられたように説明した。
預金額は約1200万円。
ヘソクリにしては大きい額なのかもしれないが、今どきの年寄りの預金額にしては少なすぎる。
本当はもっとあるのかも知れない。
「1200万って、まさかこれだけではないわよね」
ダメもとだと思い、少しカマをかけてみた。
「これだけって、これだけよ。私がまだ隠してるとでも言いたいの?」
「お母さんの話だと、5000万円あるって言ってたわ」
「はぁ~? 何いってるの、冗談じゃないわ、二人してどこまでボケてるのよ!」
「知らないわよ、私は通帳なんて一度も見てないんだから、本人がそう言ってたのよ」
「全部でいくらあったのかは知らないけど、私が預かったのはこの1200万円だけだわ。じゃあ、この家のどこかにまだ通帳が残っているんじゃないの?」
憤懣やるかたないようすの宏美の様子からして、嘘はないのかも知れない。
「わかったわ。じゃあ、その1200万円だけど、あなたはいくら欲しいわけ? いくらもらう権利があると思うの?」
「お姉ちゃんは5年も面倒をみてくれたから、700万貰って。私は500万でいいわ」
宏美はまるで、寛容さを示すかのように言った。
「この間も説明したと思うけど、お母さんの国民年金は月に3万円程度よ。あなたは介護費用がそれで賄えてたと思う?」
何もしてこなかったくせに、500万ももらう権利があるなんて、よく言えるものだ。
「お姉ちゃんがお母さんから預かっていた通帳にだって、300万は預金があったってお母さん言ってたわ。全部自分たちで払ったみたいに言わないでよね」
「300万なんてすぐに無くなったわよ。介護用ベッドのレンタル料がいくらか知ってるの? それに母の介護のために勤めていた仕事を辞めたのよ。外で働くよりもずっときつい介護を無給で5年間もしてきたんだわ。だのに誰からも感謝ひとつされないんだから!」
「感謝してないなんて言ってないじゃない。じゃあ、お姉ちゃんは一体いくら欲しいわけ? 」
「はっきり言って全部もらっても足りないくらいよ。でも1000万でいいわよ。あなたから怨みを買っても怖いから」
十分な怨みを買ってると言いたげに宏美は私を見据えた。
「じゃあ、いいわよ。お姉ちゃんの好きにしたらいいわ!」
金輪際、姉妹の縁を切るとでも言わんばかりに睨んだ。
1000万は強欲なのだろうか?
そうは思わないけれど、半分は貰えると思っていた宏美はずっと不満を持ち続けるのだろう。
たった1000万ごときのために、自分はカッとなって殺人を行なったのかと思うと、本当にバカバカしいほどの金額だと思う。
宏美が意外とすんなり引き下がったので、
急にお金に対する執着が無くなった。
「じゃあ、あなたには400万あげるわよ。お母さんはあなたを特別に可愛がってたから」
「えっ、本当に? ありがとう。助かります。だけど、お兄ちゃんには本当にあげなくていいの?」
「あげる必要なんかないわよ。電話で葬儀代の話をしても知らんふりよ。あれで長男の自覚があるのかしら。いつだって由美子さんの言いなりなんだから」
由美子に遺産のことなど知られたら、とんでもなく面倒なことになる。
金銭のことでいつまでもわだかまりを持ちたくない。
まだ、小学生がいるから宏美に介護は無理だと思い、ずっと一人で頑張って来たのだった。
だから、宏美が母と共謀して財産を独り占めしたことが許せなかったのである。
本当に預かっていただけだと知っていたら、母を殺すこともなかったのだ。
相続の話はこれでなんとか上手くまとまったような気がする。
なんの面倒もみていない宏美に委任するなんて。
死んでしまっても、尚一層、憎しみが湧いてくる。
母が使っていた古い通帳3冊もわざわざ持って来て、3冊分の預金を自分名義に一冊の通帳にまとめられたように説明した。
預金額は約1200万円。
ヘソクリにしては大きい額なのかもしれないが、今どきの年寄りの預金額にしては少なすぎる。
本当はもっとあるのかも知れない。
「1200万って、まさかこれだけではないわよね」
ダメもとだと思い、少しカマをかけてみた。
「これだけって、これだけよ。私がまだ隠してるとでも言いたいの?」
「お母さんの話だと、5000万円あるって言ってたわ」
「はぁ~? 何いってるの、冗談じゃないわ、二人してどこまでボケてるのよ!」
「知らないわよ、私は通帳なんて一度も見てないんだから、本人がそう言ってたのよ」
「全部でいくらあったのかは知らないけど、私が預かったのはこの1200万円だけだわ。じゃあ、この家のどこかにまだ通帳が残っているんじゃないの?」
憤懣やるかたないようすの宏美の様子からして、嘘はないのかも知れない。
「わかったわ。じゃあ、その1200万円だけど、あなたはいくら欲しいわけ? いくらもらう権利があると思うの?」
「お姉ちゃんは5年も面倒をみてくれたから、700万貰って。私は500万でいいわ」
宏美はまるで、寛容さを示すかのように言った。
「この間も説明したと思うけど、お母さんの国民年金は月に3万円程度よ。あなたは介護費用がそれで賄えてたと思う?」
何もしてこなかったくせに、500万ももらう権利があるなんて、よく言えるものだ。
「お姉ちゃんがお母さんから預かっていた通帳にだって、300万は預金があったってお母さん言ってたわ。全部自分たちで払ったみたいに言わないでよね」
「300万なんてすぐに無くなったわよ。介護用ベッドのレンタル料がいくらか知ってるの? それに母の介護のために勤めていた仕事を辞めたのよ。外で働くよりもずっときつい介護を無給で5年間もしてきたんだわ。だのに誰からも感謝ひとつされないんだから!」
「感謝してないなんて言ってないじゃない。じゃあ、お姉ちゃんは一体いくら欲しいわけ? 」
「はっきり言って全部もらっても足りないくらいよ。でも1000万でいいわよ。あなたから怨みを買っても怖いから」
十分な怨みを買ってると言いたげに宏美は私を見据えた。
「じゃあ、いいわよ。お姉ちゃんの好きにしたらいいわ!」
金輪際、姉妹の縁を切るとでも言わんばかりに睨んだ。
1000万は強欲なのだろうか?
そうは思わないけれど、半分は貰えると思っていた宏美はずっと不満を持ち続けるのだろう。
たった1000万ごときのために、自分はカッとなって殺人を行なったのかと思うと、本当にバカバカしいほどの金額だと思う。
宏美が意外とすんなり引き下がったので、
急にお金に対する執着が無くなった。
「じゃあ、あなたには400万あげるわよ。お母さんはあなたを特別に可愛がってたから」
「えっ、本当に? ありがとう。助かります。だけど、お兄ちゃんには本当にあげなくていいの?」
「あげる必要なんかないわよ。電話で葬儀代の話をしても知らんふりよ。あれで長男の自覚があるのかしら。いつだって由美子さんの言いなりなんだから」
由美子に遺産のことなど知られたら、とんでもなく面倒なことになる。
金銭のことでいつまでもわだかまりを持ちたくない。
まだ、小学生がいるから宏美に介護は無理だと思い、ずっと一人で頑張って来たのだった。
だから、宏美が母と共謀して財産を独り占めしたことが許せなかったのである。
本当に預かっていただけだと知っていたら、母を殺すこともなかったのだ。
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