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D r 高木の秘密
しおりを挟む「ねぇ、私がお腹を痛めて産んだ子は元気なの?」
五年ぶりによりを戻した唯香が、ベッドに突っ伏したまま僕に顔を向けた。
「瑠奈のことか? 君に似て現金なものだよ。毎月小遣いをせびりに来る」
母親の紗良のほうは、もう二年も顔を見せていない。あんな娘に育ててしまって顔向けが出来ないのだろう。
「どうして私に似てるのよ。私の子でもないのに。大体、なんでいつまでもお小遣いなんて渡してるの? もしかして援交してる?」
「バカ、そんなんじゃないよ。里親になってもらった手前、僕にも責任はあるだろう」
「だって、彼女の子なんでしょう? どうしてそこまでしてあげなきゃいけないの? 私に代理母までさせてさ」
気怠げに虚ろな目を向けて、呆れたように唯香は言った。
「君は紗良さんがどんなに辛い不妊治療をして来たか見てないからな」
「だからって、そこまでしてやらないでしょ、普通」
「紗良さんは僕の憧れの女性だったんだよ。なんとかしてあげたかったんだ。僕の力で………」
「ふーん」
しらけたように唯香は鼻を鳴らした。
「君だって代理母になったお陰で店の借金が返せてよかっただろう」
「あら、出産は命がけよ。そのくらいの報酬は当然でしょう。でも自分で産んだ子はやっぱり可愛いわ。私、本当にあの子、育てたかったのよ」
水商売をしている唯香に、子育てなど無理に決まっているが、紗良が育てるよりはまだマシだったかも知れない。
ーー紗良。
あの頃、僕は本当に心から君を愛していた。
自分の無力さが情けなく、悲しかった。
だから凍結保存していた君の卵子に僕の精子を受精させた。
育てて欲しかったんだ。
僕と君の子どもを。
ーENDー
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