55 / 61
谷さん、死なないで!
しおりを挟む多少のモニカ様からの嫌がらせはあったものの、学園生活は順調に過ぎていく。
え?
どんな嫌がらせがあったかって?
陰でわたしの悪口を言われたり、机に置きっぱなしにしていた教科書を破られる程度で、かわいい子どものいたずら程度のことだった。
よかった。
毒を盛られたり、暗殺者を雇われて殺されそうになったりする過激な嫌がらせじゃなくて。
魔法の勉強は思ったよりも為になり、ルーク様の火傷を消す範囲も少し大きくなった気がする。
でも、調節が難しくて、ちょっとやり過ぎるとその日のわたしは使い物にならなくなるから、ちゃんと見極めなくちゃいけない。
他の火水風の魔法は授業以外では使用禁止だけど、光の魔法だけは校内での練習が許可されている。
癒しの魔法だからだと言うことだが、それでも、教わった魔法以外は使ってはいけない。試してもいけないと言われている。
教わっていないものは使えないから、わたしにとってはどうでもいいことだ。
アンリエル様からの紹介で、わたしにもお友達ができたり、ルーク様にもお友達ができたりした。
……ただ、ルーク様のお友達は、わたしのお兄様のお友達なので、全員年上だけど……。
ルーク様は、自分を遠巻きに見ている同級生とは仲良くする気はないらしい。
そこは、ルーク様の気持ちを優先しようと思い、わたしは何も言っていない。
それに、お兄様のお友達とは仮面を着けずとも仲良くできているのだし、少しずつ、人と人との繋がりの輪を広げていけばいいと思うから。
季節は巡り、そろそろ学年末。
学園では毎年恒例の剣術大会がおこなわれる。
「はやくはやく! ジーナ様、席がなくなってしまいますわ」
アンリエル様が珍しく大きな声を出している。
わたしたちは今、学園内の闘技場まで来ている。
造りは小さなコロシアムのように、丸い競技場を囲って見やすいように段差をつけて席が作られているけど、いい席は早く行かないとなくなってしまう。
アンリエル様は、一つ学年が上の先輩のファンになったようで、今日試合が見られるのを楽しみにしていた。
正面、前から3列目の席をなんとか2つ確保してわたしたちは腰を下ろす。
「ジーナ様、よかったですわね。ここならとてもよく見えますわ」
頬を赤らめてわくわくとアンリエル様が言う。
「アンリエル様が見たいのは、一つ上のマイケル様でしたね。」
「ジーナ様、そんな大きい声で言わないでくださいませ!」
あらら。
顔が真っ赤になっちゃった……。
「アンリエル様、ごめんなさい」
剣術大会は、さすがに腕に覚えのある生徒が参加するだけあって、とても見応えのあるものだった。
マイケル様は、アンリエル様が推しているだけあって、茶色の髪を靡かせて、華麗に剣を振るっていたけど、三回戦で敗退。
でも、イケメンなので、剣術的にも芸術的にも大変見応えのある試合でした。
わたしの推し(?)のルーク様は、三回戦も危なげなく勝利した。
何故か、ルーク様の出る試合は、観戦者が多く、黄色い声援も多数あった。
疑問をそのまま口にすると、アンリエル様は目をまん丸にしてわたしに言った。
「ジーナ様、ご存知ないのですか? ルーク様は今や大変な人気者ですのよ? 一回生ではありますが、その中でも背が高く、幼い頃から剣を握っていただけあって、体は鍛えられてとてもバランスのいい立ち姿でいらっしゃるし、金糸のようなしなやかなお髪に透き通るようなエメラルドの瞳。お顔の半分は仮面で隠れてしまっておりますが、それを補ってあまりあるお姿に、上級生のお姉様方さえ
もお熱をあげておりますわ」
「……へぇ」
まったく知らなかった。
「ジーナ様との仲を邪魔する者がおりませんのは、ルーク様の一途なお姿によるところが大きいですわ。この前の建国祭では、生涯ジーナ様以外の婚約者は認めないと大きなお声で宣言なさったと聞きますし。おモテになるのにジーナ様以外によそ見もしないところも、ご令嬢方から好感をもたれているところですわ。貴族の令息なんて、側室や愛人がいて当たり前のように思っていますもの」
うっとりと物語の王子様のことでも語るように言うアンリエル様に、なんとなくわたしは居心地が悪かった。
だって、そんなに多勢の人から熱い視線を向けられている人の婚約者が、お父様似の男顔のわたしなのだ。
それでみなさまは納得していらっしゃるのだろうか……。
納得されなくても婚約者は辞退しないけど。
そうこうしているうちに、ルーク様は4回戦も勝ち抜き、つぎは準決勝だ。
やっぱりルーク様は幼い頃から剣を習っているだけあって強いな。
上級生相手でも、ひるみもしない。
しかも今日は観戦者が多いことから、仮面をつけての参戦だ。
仮面は火傷を隠すのにはいいけど、視界が悪いだろう。
ルーク様、仮面は暑いだろうな。
熱中症にならなければいいけど。
ルーク様が心配になり、じっとルーク様を見ていたわたしに、アンリエル様が驚いたように声をかける。
「ジーナ様、次のルーク様の対戦相手は、お兄様なんですのね!」
「へ?」
アンリエル様の興奮した声に、対戦相手の方のゲートを見ると、うちのお兄様が胸とお腹に防具を着けて立っているのが見えた。
「げ、ほんとだ。お兄様だ……」
「ジーナ様、オリバー様はお強かったのですね」
「いや、わたしも知らなかったです……」
いつもヘラヘラとしているお兄様が、剣が得意だなんて知らなかった。
そういえば、たまにルーク様のお屋敷に一緒に行くと、ルーク様と手合わせをしていたっけ。
お兄様は不適に笑う。
「ルーク様、久々に手合わせできるな。覚悟しろよ」
ルーク様も剣を一振りして、お兄様に笑顔を見せる。
「義兄上。あれからオレも成長しました。幼い頃は勝てませんでしたが、今日は勝たせてもらいますよ」
観戦席から遠い場内で、そんな会話が交わされていたのは、わたしの耳には届かなかった。
え?
どんな嫌がらせがあったかって?
陰でわたしの悪口を言われたり、机に置きっぱなしにしていた教科書を破られる程度で、かわいい子どものいたずら程度のことだった。
よかった。
毒を盛られたり、暗殺者を雇われて殺されそうになったりする過激な嫌がらせじゃなくて。
魔法の勉強は思ったよりも為になり、ルーク様の火傷を消す範囲も少し大きくなった気がする。
でも、調節が難しくて、ちょっとやり過ぎるとその日のわたしは使い物にならなくなるから、ちゃんと見極めなくちゃいけない。
他の火水風の魔法は授業以外では使用禁止だけど、光の魔法だけは校内での練習が許可されている。
癒しの魔法だからだと言うことだが、それでも、教わった魔法以外は使ってはいけない。試してもいけないと言われている。
教わっていないものは使えないから、わたしにとってはどうでもいいことだ。
アンリエル様からの紹介で、わたしにもお友達ができたり、ルーク様にもお友達ができたりした。
……ただ、ルーク様のお友達は、わたしのお兄様のお友達なので、全員年上だけど……。
ルーク様は、自分を遠巻きに見ている同級生とは仲良くする気はないらしい。
そこは、ルーク様の気持ちを優先しようと思い、わたしは何も言っていない。
それに、お兄様のお友達とは仮面を着けずとも仲良くできているのだし、少しずつ、人と人との繋がりの輪を広げていけばいいと思うから。
季節は巡り、そろそろ学年末。
学園では毎年恒例の剣術大会がおこなわれる。
「はやくはやく! ジーナ様、席がなくなってしまいますわ」
アンリエル様が珍しく大きな声を出している。
わたしたちは今、学園内の闘技場まで来ている。
造りは小さなコロシアムのように、丸い競技場を囲って見やすいように段差をつけて席が作られているけど、いい席は早く行かないとなくなってしまう。
アンリエル様は、一つ学年が上の先輩のファンになったようで、今日試合が見られるのを楽しみにしていた。
正面、前から3列目の席をなんとか2つ確保してわたしたちは腰を下ろす。
「ジーナ様、よかったですわね。ここならとてもよく見えますわ」
頬を赤らめてわくわくとアンリエル様が言う。
「アンリエル様が見たいのは、一つ上のマイケル様でしたね。」
「ジーナ様、そんな大きい声で言わないでくださいませ!」
あらら。
顔が真っ赤になっちゃった……。
「アンリエル様、ごめんなさい」
剣術大会は、さすがに腕に覚えのある生徒が参加するだけあって、とても見応えのあるものだった。
マイケル様は、アンリエル様が推しているだけあって、茶色の髪を靡かせて、華麗に剣を振るっていたけど、三回戦で敗退。
でも、イケメンなので、剣術的にも芸術的にも大変見応えのある試合でした。
わたしの推し(?)のルーク様は、三回戦も危なげなく勝利した。
何故か、ルーク様の出る試合は、観戦者が多く、黄色い声援も多数あった。
疑問をそのまま口にすると、アンリエル様は目をまん丸にしてわたしに言った。
「ジーナ様、ご存知ないのですか? ルーク様は今や大変な人気者ですのよ? 一回生ではありますが、その中でも背が高く、幼い頃から剣を握っていただけあって、体は鍛えられてとてもバランスのいい立ち姿でいらっしゃるし、金糸のようなしなやかなお髪に透き通るようなエメラルドの瞳。お顔の半分は仮面で隠れてしまっておりますが、それを補ってあまりあるお姿に、上級生のお姉様方さえ
もお熱をあげておりますわ」
「……へぇ」
まったく知らなかった。
「ジーナ様との仲を邪魔する者がおりませんのは、ルーク様の一途なお姿によるところが大きいですわ。この前の建国祭では、生涯ジーナ様以外の婚約者は認めないと大きなお声で宣言なさったと聞きますし。おモテになるのにジーナ様以外によそ見もしないところも、ご令嬢方から好感をもたれているところですわ。貴族の令息なんて、側室や愛人がいて当たり前のように思っていますもの」
うっとりと物語の王子様のことでも語るように言うアンリエル様に、なんとなくわたしは居心地が悪かった。
だって、そんなに多勢の人から熱い視線を向けられている人の婚約者が、お父様似の男顔のわたしなのだ。
それでみなさまは納得していらっしゃるのだろうか……。
納得されなくても婚約者は辞退しないけど。
そうこうしているうちに、ルーク様は4回戦も勝ち抜き、つぎは準決勝だ。
やっぱりルーク様は幼い頃から剣を習っているだけあって強いな。
上級生相手でも、ひるみもしない。
しかも今日は観戦者が多いことから、仮面をつけての参戦だ。
仮面は火傷を隠すのにはいいけど、視界が悪いだろう。
ルーク様、仮面は暑いだろうな。
熱中症にならなければいいけど。
ルーク様が心配になり、じっとルーク様を見ていたわたしに、アンリエル様が驚いたように声をかける。
「ジーナ様、次のルーク様の対戦相手は、お兄様なんですのね!」
「へ?」
アンリエル様の興奮した声に、対戦相手の方のゲートを見ると、うちのお兄様が胸とお腹に防具を着けて立っているのが見えた。
「げ、ほんとだ。お兄様だ……」
「ジーナ様、オリバー様はお強かったのですね」
「いや、わたしも知らなかったです……」
いつもヘラヘラとしているお兄様が、剣が得意だなんて知らなかった。
そういえば、たまにルーク様のお屋敷に一緒に行くと、ルーク様と手合わせをしていたっけ。
お兄様は不適に笑う。
「ルーク様、久々に手合わせできるな。覚悟しろよ」
ルーク様も剣を一振りして、お兄様に笑顔を見せる。
「義兄上。あれからオレも成長しました。幼い頃は勝てませんでしたが、今日は勝たせてもらいますよ」
観戦席から遠い場内で、そんな会話が交わされていたのは、わたしの耳には届かなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
六華 snow crystal 2
なごみ
現代文学
雪の街、札幌を舞台にした医療系純愛小説。part 2
彩矢に翻弄されながらも、いつまでも忘れられずに想い続ける遼介の苦悩。
そんな遼介を支えながらも、報われない恋を諦められない有紀。
そんな有紀に、インテリでイケメンの薬剤師、谷 修ニから突然のプロポーズ。
二人の仲に遼介の心も複雑に揺れる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる