六華 snow crystal 3

なごみ

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これからのこと

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遼介から ” 室蘭の実家へ墓参りに行って来る。夕飯はすませて帰るから入らない ,, とのLINEがあった。


なのでスーパーへも寄らずに、まっすぐにアパートへ帰った。


お墓参りにもいかないで、遼介のご両親はどう思っただろう。いつだって暖かく迎えてくれて、とても気遣ってくれるご家族なのに。


それは負担を感じるような気遣いでなく、本当に居心地がいい。夫の家族にまで恵まれて、自分ほど幸せな嫁などいないと思っていたけれど。


遼介は両親から溺愛された子供だ。


別に甘やかされて育てられたということではなく、ご両親の人柄からにじみ出た愛情が、自然な形で遼介の人格に影響を与えたのだと思う。


いつも私にしてくれる精一杯の温かいおもてなしには、” ウチの息子をどうぞよろしくお願いしますね ,,   というお義母さんの、深い愛情が伝わっていたから。


そんなこともあって、遼介にそれが出来そうもない今は、室蘭にはとても行けなかった。


ご両親に相談が出来るような話でもないし、私と遼介が話し合って決めるしかないのだから。


一人ぼっちの夕食は、市販のお茶漬けの素に、たらこを乗っけて熱湯を注いだだけの簡単なもの。


女ひとりだとなんて楽チンなんだろうと、ひとり暮らしの利点を感じる。





遼介と彩矢は結局どうなっているのだろう。


彩矢は遼介に何を求めているのだろう。


一度彩矢に会って聞いてみようか。


彩矢とは険悪な関係になりたくはないけれど……。


それとも遼介と三人で話し合ったほうがいいのだろうか。


どんな話し合いになってしまうのか、想像しただけで、胃が痛くなってくる。


夜の9時も過ぎて、遼介が室蘭の実家から帰ってきた。


いつまでもこんな生活を続けていたくないと思い、話をしてみようかという気持ちになった。






暗い顔で「ただいま」と言った遼介に、


「おかえり。……お義父さんとお義母さんは元気だった?」


と、聞いてみた。


「えっ、ああ、うん……元気だったよ」


話しかけられたのが意外だったらしく、遼介は戸惑いながらも、嬉しそうに返事をした。


「そう、良かった。ごめんなさい、一緒にお墓参りに行けなくて」


本当に申し訳ないと思っていたので、素直に謝った。


「俺だって藤沢家の墓参りに行ってないんだからお互い様だろう。みんな有紀に会いたがってたけどな、姉ちゃんも」


遠慮がちな遼介に、今まで随分な態度であったように思い、申し訳ない気持ちになる。


「………遼介、これからのことだけど」


「…………うん。」


遼介がソファに座っている私の隣に腰をおろした。


あまり乗り気ではない遼介の返事に不安を感じた。先週、話し合おう、俺たちやりなおそうと言っていたのは遼介の方なのに。


この一週間ほどの間に何があったというのか?  この間の彩矢からの呼び出しで、なにかあったに違いない。


「彩矢とはどうなってるの?  この間呼び出されたのはどうして?」


「彩矢ちゃんとはもう会わないよ。いくら偶然の配達だったとしても、こんなふうに会うのは良くないと思って、やめようと思ってはいたんだ。それは本当にお互いにそう思ってたんだ。だけど、彩矢ちゃんから、この秋に松田先生の研修でアメリカに行くことになったって言われて、本当にもう悠李に会えなくなるんだと思うと、寂しい気持ちになってしまって。それで、だいぶ前に買って渡せなかった悠李のプレゼントがクローゼットにしまいこんであったことを思い出して、それを渡しに行ったんだけど。玄関先で彩矢ちゃんと少し話しをしていたら、ベランダの室内プールで遊んでいた一歳にもならない悠李の妹が溺れてしまって、その事が松田先生にバレてしまったんだ」


「赤ちゃん、大丈夫だったの ! 」


「大丈夫だったけど、松田先生にはかなり誤解されてしまって、まぁ当然だよな。それで怒った松田先生が悠李を隠してしまって。彩矢ちゃんどこを探しても見つけられなくて、憔悴しきってた。電話が来たのはその時なんだ」


「子どもをどこに隠してたの?」


「それが莉子のところだって。時給2000円でベビーシッターしてもらってたって。莉子は結婚していて、今は産休に入っているそうなんだけど」


「じゃあ、子どもはすぐに返してもらえたのね」


「うん、3日目にね。だけど、松田先生とは離婚することになったらしくて。……その原因を作ったのって俺だから」


「そ、それで彩矢はなんて?」


「気にしなくていいって。元々うまくいってなかったから、保育所に預けて働きたかったからって……」


遼介はそれで元気がなかったんだ。だけど、彩矢が離婚してしまったら。


しかも、遼介のせいで……。


「遼介は、遼介はどうしたいの?  責任を取って彩矢と暮らしたいってこと?」


「彩矢ちゃんにはそんなつもりはないよ。もう俺なんかにはなんの未練もないんだ。子どものことを忘れないでいて欲しかった、ただそれだけなんだから……」


その言葉に安心はしたものの、放心したようにうつろな目をして、うつむいた遼介が気になった。


遼介は、遼介はまだ彩矢のことが忘れられてないんだ……















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