六華 snow crystal 3

なごみ

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思いがけない再会

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*彩矢*


「えっ?  さ、佐野さん!」


宅配業者の格好で荷物を持ち、目の前に立っている人は、どう見たって間違いなく佐野さんだった。


だけど、どうして佐野さんが宅配業などやっているのだろう。


「久しぶりだね。元気だったかい?  あ、、これ荷物、ここへ置くね」


佐野さんは引きつった笑顔でそう言うと、上がりかまちに荷物を置いた。


「じゃあ、ここにサインお願いします」


そう言ってボールペンと受け取り票を差し出した。


何を言っていいのかわからず、指示された小さな四角の枠の中に、松田とサインをしていると、


「ママ~  、だれ?」


しまじろうのDVDを見ていた悠李が顔をのぞかせた。


「あ、悠李……」


佐野さんの顔がさらに緊張して、悠李を凝視した。


「こんにちは~!」


最近、挨拶することを覚えた悠李は、誰にでもこんにちはを連発する。


「こ、こんにちは。あ、挨拶が出来るなんてすごいな。年はいくつだい?」


佐野さんが遠慮がちに悠李に話しかけた。


「2さい!  悠李ね、プレスクールにいくの」


ぎこちなくピースサインをして、悠李は得意げに話をした。


「そうか、友達たくさん出来るといいね。……あ、じゃあ、これで失礼します」


佐野さんは終始落ち着かない様子で、慌てて出て行った。


佐野さんが、佐野さんが……。


ーー悠李に会いに来てくれた。


 思いもよらず、成長した悠李を見てもらえたことが嬉しい。


こんなことって………


今でも信じられない。


また、来てくれるだろうか。


そうだ、また通販で買い物しよう!






昨年の11月に娘の雪花を産み、年が明けて、潤一が今年の3月から琴似の病院で働くことになったと言った。


二人の子持ちになったので、実家から遠い小樽での子育ては大変だったから、これはとても有難いことだった。


ここのマンションはJRの琴似駅にも、地下鉄東西線の琴似駅にも、徒歩5分ほどで行けるので、何かと便利だ。


だけど、まだ生後5ヶ月の雪花がいては、中々外出するのも億劫だった。まだ雪のあるこの時期はなおさらだ。


外の世界に目覚めて、家でじっとしていられなくなった悠李が不憫で、最近プレスクールというところへ通い始めた。


毎日、マンションで暇をもてあましている悠李と、何がして欲しいのか分からず泣き続ける雪花との毎日は、本当につらいものがある。


保育所はいっぱいですぐには入れないけれど、働くナースのために託児所が完備されている病院ならある。


だけど、潤一は雪花をそんなところに入れるのは反対だ。


だったら、もっと早く帰って来て、少しでも育児に参加してくれたらいいのに。


潤一の協力など、初めから期待はしていなかったけれど、実家に帰ればすぐに戻れというし、いつでも自分の都合でしか考えてくれない。


丸一日、二人の子供の面倒を一度でもいいから、みたらいいのだ。あの性格からして、1時間で悲鳴をあげるだろう。


専業主婦は毎日、遊んで暮らしてると思っているのだ。








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