六華 snow crystal 3

なごみ

文字の大きさ
上 下
1 / 61

思いがけない再会

しおりを挟む
*彩矢*


「えっ?  さ、佐野さん!」


宅配業者の格好で荷物を持ち、目の前に立っている人は、どう見たって間違いなく佐野さんだった。


だけど、どうして佐野さんが宅配業などやっているのだろう。


「久しぶりだね。元気だったかい?  あ、、これ荷物、ここへ置くね」


佐野さんは引きつった笑顔でそう言うと、上がりかまちに荷物を置いた。


「じゃあ、ここにサインお願いします」


そう言ってボールペンと受け取り票を差し出した。


何を言っていいのかわからず、指示された小さな四角の枠の中に、松田とサインをしていると、


「ママ~  、だれ?」


しまじろうのDVDを見ていた悠李が顔をのぞかせた。


「あ、悠李……」


佐野さんの顔がさらに緊張して、悠李を凝視した。


「こんにちは~!」


最近、挨拶することを覚えた悠李は、誰にでもこんにちはを連発する。


「こ、こんにちは。あ、挨拶が出来るなんてすごいな。年はいくつだい?」


佐野さんが遠慮がちに悠李に話しかけた。


「2さい!  悠李ね、プレスクールにいくの」


ぎこちなくピースサインをして、悠李は得意げに話をした。


「そうか、友達たくさん出来るといいね。……あ、じゃあ、これで失礼します」


佐野さんは終始落ち着かない様子で、慌てて出て行った。


佐野さんが、佐野さんが……。


ーー悠李に会いに来てくれた。


 思いもよらず、成長した悠李を見てもらえたことが嬉しい。


こんなことって………


今でも信じられない。


また、来てくれるだろうか。


そうだ、また通販で買い物しよう!






昨年の11月に娘の雪花を産み、年が明けて、潤一が今年の3月から琴似の病院で働くことになったと言った。


二人の子持ちになったので、実家から遠い小樽での子育ては大変だったから、これはとても有難いことだった。


ここのマンションはJRの琴似駅にも、地下鉄東西線の琴似駅にも、徒歩5分ほどで行けるので、何かと便利だ。


だけど、まだ生後5ヶ月の雪花がいては、中々外出するのも億劫だった。まだ雪のあるこの時期はなおさらだ。


外の世界に目覚めて、家でじっとしていられなくなった悠李が不憫で、最近プレスクールというところへ通い始めた。


毎日、マンションで暇をもてあましている悠李と、何がして欲しいのか分からず泣き続ける雪花との毎日は、本当につらいものがある。


保育所はいっぱいですぐには入れないけれど、働くナースのために託児所が完備されている病院ならある。


だけど、潤一は雪花をそんなところに入れるのは反対だ。


だったら、もっと早く帰って来て、少しでも育児に参加してくれたらいいのに。


潤一の協力など、初めから期待はしていなかったけれど、実家に帰ればすぐに戻れというし、いつでも自分の都合でしか考えてくれない。


丸一日、二人の子供の面倒を一度でもいいから、みたらいいのだ。あの性格からして、1時間で悲鳴をあげるだろう。


専業主婦は毎日、遊んで暮らしてると思っているのだ。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

六華 snow crystal

なごみ
現代文学
熱い視線にときめきながらも、遊び人で既婚者である松田医師には警戒していた。それなのに… 新米ナース彩矢の心はついに制御不能となって…… あの時、追いかけなければよかった。 雪の街札幌で繰り広げられる、激しくも哀しい純愛ストーリー。

処理中です...