1 / 29
プロローグ
天災は忘れた頃にやって来る
しおりを挟む
十二月の上旬、日本は例年にない寒波に襲われた。
雪と風が踊り狂い、全てを白に染めていく。
そんな中、ある保健所で一つの出会いがあった。
黒と黒檀色が混ざった髪が肩の少し下を跳ねる。
同色の目は小さくも大きくもなく、幼い容貌を隠す太い眼鏡、低い身長、青いニットワンピースがぽちゃっとした体を細く見せる。
彼女は降魔 桔梗。
二十九歳。
独身。
古い信者寺の住職。
父親と絶縁し、他の家族と死別し、今はほぼ天涯孤独だ。
桔梗は眼鏡のブリッジをクイッと上げる。
熱い緑茶が乗ったオフィスデスクを挟んで向き合うのはここの女性職員だ。
「こんな日に申し訳ありません」
「いえ、気にしないで下さい」
「ありがとうございます。
電話でも申し上げましたが、先程メインクーンのミックスが一匹入りまして、持ち込みは期限がありますから………」
悲しい話だが、保健所の主な仕事は動物の管理である。
一匹でも多く救う為には救える命と救えない命を間違えてはいけない。
「今会えますか?」
「はい。
管理棟に行かれますか?」
「いえ、出来ればここで」
桔梗は重い声でそう言う。
管理棟は生と死の境界であり、それ故に見たがらない人が多い。
「分かりました。
少々お待ち下さい」
その後、桔梗は保健所から生後約二ヶ月の雑種の雌猫を引き取り、雪のような長毛とゴールドの目からアンジュと名付けた。
アンジュはフランス語では天使と読み、日本語では安らかに寿ぐと書く。
約二ヶ月後-桔梗の自宅
「アンジューーー、ごは~~ん!」
桔梗は手を動かしながら叫ぶ。
アンジュの昼食を作っているのだ。
暫くして、桔梗の足にアンジュが飛び付く。
「ウギャア!」
彼女が思わず奇声を上げた時、居室から不気味な音がした。
ドンッ!
ドンッ!
ガチャァン!!!!!
「?!!!」
桔梗はビクッとし、次いでソロソロと居室を覗く。
「なっ、なっがっ!」
視界を埋め尽くす巨大な岩。
桔梗の自宅の裏の崖は脆く、崩れた事もある。
去年の雪が致命傷になったのだろう。
「てか、ヤバイよね?
アンジュッ!」
桔梗が上擦った声でアンジュを呼ぶ。
ほぼ同時に凶器の足音が響いた。
ドドドドッ!!!!!
「ヤバッ!」
桔梗はアンジュを引っ掴んで駆け出すが、自然の力はどこまでも残酷だ。
土砂の牙が死の口を開ける。
「だっ、誰かっ!
誰か助けてっ!!!」
その悲鳴が奇跡を起こした。
桔梗とアンジュは閃光に包まれ、あっと言う間もなく消える。
これが全ての始まりだった。
雪と風が踊り狂い、全てを白に染めていく。
そんな中、ある保健所で一つの出会いがあった。
黒と黒檀色が混ざった髪が肩の少し下を跳ねる。
同色の目は小さくも大きくもなく、幼い容貌を隠す太い眼鏡、低い身長、青いニットワンピースがぽちゃっとした体を細く見せる。
彼女は降魔 桔梗。
二十九歳。
独身。
古い信者寺の住職。
父親と絶縁し、他の家族と死別し、今はほぼ天涯孤独だ。
桔梗は眼鏡のブリッジをクイッと上げる。
熱い緑茶が乗ったオフィスデスクを挟んで向き合うのはここの女性職員だ。
「こんな日に申し訳ありません」
「いえ、気にしないで下さい」
「ありがとうございます。
電話でも申し上げましたが、先程メインクーンのミックスが一匹入りまして、持ち込みは期限がありますから………」
悲しい話だが、保健所の主な仕事は動物の管理である。
一匹でも多く救う為には救える命と救えない命を間違えてはいけない。
「今会えますか?」
「はい。
管理棟に行かれますか?」
「いえ、出来ればここで」
桔梗は重い声でそう言う。
管理棟は生と死の境界であり、それ故に見たがらない人が多い。
「分かりました。
少々お待ち下さい」
その後、桔梗は保健所から生後約二ヶ月の雑種の雌猫を引き取り、雪のような長毛とゴールドの目からアンジュと名付けた。
アンジュはフランス語では天使と読み、日本語では安らかに寿ぐと書く。
約二ヶ月後-桔梗の自宅
「アンジューーー、ごは~~ん!」
桔梗は手を動かしながら叫ぶ。
アンジュの昼食を作っているのだ。
暫くして、桔梗の足にアンジュが飛び付く。
「ウギャア!」
彼女が思わず奇声を上げた時、居室から不気味な音がした。
ドンッ!
ドンッ!
ガチャァン!!!!!
「?!!!」
桔梗はビクッとし、次いでソロソロと居室を覗く。
「なっ、なっがっ!」
視界を埋め尽くす巨大な岩。
桔梗の自宅の裏の崖は脆く、崩れた事もある。
去年の雪が致命傷になったのだろう。
「てか、ヤバイよね?
アンジュッ!」
桔梗が上擦った声でアンジュを呼ぶ。
ほぼ同時に凶器の足音が響いた。
ドドドドッ!!!!!
「ヤバッ!」
桔梗はアンジュを引っ掴んで駆け出すが、自然の力はどこまでも残酷だ。
土砂の牙が死の口を開ける。
「だっ、誰かっ!
誰か助けてっ!!!」
その悲鳴が奇跡を起こした。
桔梗とアンジュは閃光に包まれ、あっと言う間もなく消える。
これが全ての始まりだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています


魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる