「流石に草」な訳がない

ソーダ

文字の大きさ
上 下
2 / 2

2.草不可避

しおりを挟む
少し時間が経って気持ちは落ち着いてきた。

どうしてこうなってしまったのか。あの時何があったのか。

急に風が吹き、苦しくなったことは覚えている。
しかし、あの風が直接俺の身体に影響を与えたとは考えにくい。


となると風に乗った「何か」が原因なのか。
一つだけ思い当たるものはある。それは紫色をした除草剤だ。
あの除草剤は見た目や雰囲気もあの世界のものとはまるで思えない。
あれが口や鼻から体に入り、毒的なものが全身に回ってしまったのか。
それであの苦しさが生まれたと考えると確かにそうかもしれない。


そう考えるとあのおじいさんも怪しくなってくる。
お金持ちだから10万円は簡単に出せるというのはあるのかもしれない。
だけど除草作業は普通なら業者とかに頼むようなことだ。
それに行った俺も俺だが、一般人に頼むようなものではない。
俺って10万円という文字に惹きつけられてしまうようなチョロい男なんだな。


それともこれが運命だったのか………



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれから長い時間が経った。
この世界について分かったことがいくつかある。

一つ目は、この世界には昼と夜が存在すること。
昼は太陽のようなものが出ていて、俺たち草々をギンギンと照らしている。しかし、夜は月のようなものは見当たらず、もちろん周りに明かりなんてものもないので夜は真っ暗だ。

二つ目は、虫や鳥がいること。
虫はそこら辺にいて、鳥も空を飛んでいる。見た目は地球とそんなに変わっている点はない。人間のときにはめちゃくちゃ嫌いだった虫も今では愛おしく感じる。

三つ目は、あくまでこれは俺の予想だが、「人間」がいるということ。
実際に見た訳じゃないが、なんとなくそんな気がする。虫や鳥がいるように生き物が存在しているので、普通にあり得ることだ。ただ、俺はなぜか「人間」という言葉が頭をよぎる時、とても嫌で不安な気持ちになる。
前世の人間としての悔いが残っているのか、それとも「人間」が怖いという草としての本能みたいなものから生まれたものなのかは分からないけど、嫌なんだ。


これらのことは地球とよく似ている。人間がいるかどうかは不確かだが、この世界は地球みたいな世界なのかな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれからまた時間が経った。
感じていることは一つだけある。それは何もすることがないこと、つまり「暇」だ。


前世では食っちゃ寝て、食っちゃ寝ての生活を繰り返していた。これでも十分暇しているのだが、今の俺には当然スマホがあるわけでもなく、ましてや何かを食べることや寝ることも出来ない。

やっている事といってもそこら中にいる虫をのほほんと観察しているくらいだ。
正直罰を受けているような感覚だ。俺、前世で何かやらかしてましたか?



そんな事を考えていた時、突然平和という文字は俺の中から姿を消していく。



突然ものすごく嫌な予感を感じる。太陽がギンギンと俺を照らすが、この不安は消える気配はない。
何が起こるのかは分からないが、草としての本能が嫌がっているものが近づいてきている気がする。


俺がそれに怯えながら周りを探すと、視界の奥に何かが映る。それはこちらへ近づいてくる。


来ないでと願っても、それは歩みを止めない。


近づいてくるにつれ、それが何なのかがはっきりしてくる。


それは、やはり「人間」だ。その人間は何かを持っているようだ。


その姿は鮮明なものへと変わっていく。


そしてはっとした。もしかしてと思っていたがその人間はあのおじいさんだったのだ。
おじいさんが持っていたのは見覚えのある紫色をした除草剤だ。


動きたくても動けない、逃げたくても逃げれない。どうすることも出来ない。


間もなくおじいさんは俺の前まで来た。そして、何のためらいもなく紫色の除草剤を俺に向かってふりまく。その顔には笑みが浮かんでいた。


とたんに苦しさが俺を襲う。あの時の苦しさと同じだ。


また俺は死ぬのか。死ぬなんて嫌だ。死にたくない!死んでたまるか!絶対に生きてやる!



「「「死にたくない!!!」」」



そう何度も心のなかで叫んだ。何度も何度も叫んだ。
しかし、俺の意識はもうろうとし始める。でも俺は叫び続けた。来るはずもない助けを求めて。どれだけ苦しくても叫び続けた。ついに俺の意識が途切れそうになったとき、





《 魂の叫びが一定値に到達しました。スキル「雑草魂」を入手しました。 》





「何か」が俺にそう伝えた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号
ファンタジー
 とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。  気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。  しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。  そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。  ※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

処理中です...