上 下
49 / 57

49.王命 sideフロランス王女

しおりを挟む
雨が降り続く王都。私は、窓の外を眺めながら、頭を抱えていた。


この雨のせいで、頭は痛み、めまいがする。気分も落ち込むわ。



医者は、天気痛だというが、こう雨が続くと薬も効きやしない。少しの音でも、こめかみに響き、耐えがたいほどの痛みとなっていた。

雨は一向にやむ気配がなく、心もまた、どんよりと曇っている。



「王女様、婚約者のアークウッド公爵令息様が来ておりますが…」


少し横になろうかとしていた時、使用人がやってきて、控えめな声で言った。


頭痛を抑えるようにこめかみに手を当て、座り直す。返事を待たずに慌てた様子で部屋に入ってきたフィリップが口を開く。



「フロランス!今日、急に国王陛下に呼び出されたが、何か知っているか?」

ああ、頭が痛い…苛立ちを隠せずに言葉を返した。



「頭に響くから少し声を押さえて!…私も呼び出されているけど、聞いていないわ…もうすぐ、卒業だから、結婚式の話でしょ」


そう返すと、フィリップは不安を隠せない様子で眉をひそめた。「そうか、でも…」彼は何か言いかけたが、その言葉は曖昧なままだった。とにかく呼びに来るまで待つしかないわ。


***********


フィリップと共に呼ばれた場所は、国王の私室だった。王妃である母も同席している。まるで、何か重大なことが起こるかのような、張り詰めた空気が漂っていた。

お父様は、重々しい声で切り出した。


「まだ、内密な話だから、私室に呼んだ。これからお前たちに王命を下す。正式な手続きは後日だ」


こんなところで王命?何か胸騒ぎがする。



「お前たちには婚約を白紙に戻してもらい、それぞれ別の相手と結婚してもらう」



「「え?」」



思わず、フィリップと私は同時に声を上げた。白紙に戻して、別な人?フィリップと顔を見合わせる。彼の顔にも、私と同じような困惑が浮かんでいた。


「…なっ…どうして…」


あまりのことに声が震える。まさかこんなことが起きるとは夢にも思わなかった。



「だから王命だと言っているだろう。相手はだな…」


「納得できません!!!」


嫌よ!嫌!私の心の中で反抗の声が渦巻く。
お父様はため息をつき、少し険しい顔つきで言葉を続けた。


「わかった、理由を説明しよう。この王都に振り続ける雨、いったいどう思う」


雨?


「頭は痛いし…早く止めばいいと…」


「そうだな、だが、ここまでやまないのは異常だ。我が国でも総力を挙げて調べ、対策を練ったが、何も効果がない、どうにもならない」


自然現象ですもの、当たり前じゃない


「しかし、救いの手が現れた。隣国のリューグランド国の皇子が、策を提案してきてくれたのだ」


「つまり、その見返りに隣国へ嫁げと…」


国を助ける見返りに、婚約者のいる私を求めるなんて!いったい何番目の皇子よ!私の中で怒りと不安が入り混じる。


「いや、お前が嫁ぐのは隣国じゃない。話が進まないから、まず、私の話を聞け」


何なのよ


「策を提案した隣国の第5皇子は、魔法はもちろん、魔道具を作る天才でな。王都を覆っている雨雲を封印する魔道具を提供すると言ってきた」



そんなものが…


「しかし、魔道具はあくまで依り代で、それだけでは封印ができず、この国にいる闇魔法使いの協力が必要だそうだ。依り代に封印できる闇魔法使いが」


その闇魔法使いが、私たちのどちらかを望んだってこと?全然話の流れが見えないわ。




「その闇魔法使いは、ヴァルデン侯爵令嬢だ。」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...