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30.家族じゃない sideクロード
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「…つまり、私が帰ってきているとき以外はずっとあんな部屋にいたということか」
父が低い声で問いかける。その声には怒りと失望がにじみ出ていて、再び戻った執務室の空気が一層重たくなるのを感じた。私はうなずくことしかできなかった。
「そうです、お母様ったらひどいんです。お父様が帰ってくると私の部屋をお姉さまに与えて…嫌だって言っているのに」
私にも毎回、不満そうに言っていたフルールの言葉が思い出される。それを今、父に向けて訴えるフルールの姿に、私はどう対処すればいいのか分からなかった。
「黙れ…もともと、あの部屋はエミリアの部屋のはずだ、奪ったのか?」
低い声に圧倒され、私たちは言葉を失った。
「ロザリー、お前いったいどういうつもりだ。何の権限があってこんなことを!」
「父上!母上は、エミリアの体のことを思って…」
母を守らなくては!しかし、父は母をかばおうとした私の言葉を馬鹿にしたように笑った。
「体のことを思ってわざわざあんな陰気な部屋に?本気で思っているとしたら、お前の頭はどうなっている?」
その言葉に、私自身も確かに腑に落ちない部分があったことを思い出した。母の行動にはどこか矛盾があったのだ。
「…婚約を解消し、フルールと新たな婚約ということにも大きくかかわっていそうだな、なあ、ロザリー」
母は一瞬、口を開きかけたが、その言葉を飲み込んだ。父の怒りがこれ以上激化するのを恐れたのかもしれない。
「エミリアを、何なら、クロードよりもエミリアを大切にしろとあれほど言いつけたのに。お前もだフルール!エミリアからあと何を奪った!これがお前たちの考える”大切”か!!」
「ひ、ひどいですわ!お姉様お姉さまって…私たちだって家族なのにこんなに怒鳴りつけて。私とクロードが幸せになってもいいじゃないですか…義理とはいえ兄妹だから反対なのですか?…ひどいわ…ぐす」
父は冷たい目でフルールを見下ろし、冷静に言い放った。
「何を言っている?どうせ赤の他人だ、結婚したいならすればいい。ただ、エミリアがいないのであればクロードの命はない」
「父上、命がないなど…そこまで怒っているのですか?それに、血はつながっていないとはいえ赤の他人なんて言い方はあまりにも…」
「何を言う。小さい頃、お前が母と呼ぶから、哀れに思い家族ごっこに付き合っていただけだ。私は、初めから『母のように』とは言ったが、『母だ、母になる』とは言っていない。小さい頃ならまだしも、少し考えればわかるだろう?ロザリーはコルホネンを名乗ったことなどないし、私のことを名前で呼んだこともない。同じ食卓についた事は無いし、部屋も私の部屋からは遠い。察する力がないのは貴族として、致命的だ」
「え?母じゃない?フルールは?…義娘では、ないのですか!」
私は混乱し、思わず問い返した。
「フルール・ラルティエで学院にも通っているが?…侍女長の娘を養子になどするわけがない」
「嘘よ!お父様って言っても咎めなかったじゃない!私は、一緒に食卓を囲んでいたわ!フルール・コルホネンよ!」
フルールが叫び声を上げた。その声には絶望が込められていた。
「…食事とて、クロードの手前、咎めはしなかったが、返事をしたこともなかっただろう。土産もプレゼントも贈った記憶などないが」
父は淡々と続けた。その無慈悲な言葉が、フルールの心を一層深く傷つけたようだった。
「それは、お姉さまを贔屓しているんだと…」
「…フルール・コルホネン?まさか、学院でそう名乗っていたのか!記名も?学院の教師もなぜ何も言わん!ロザリー!!母を知らないクロードと邸の中で家族ごっこするのは構わないが、フルールには言い聞かせろとあれほど言ったではないか!」
「だ、旦那様。申し訳ありません!」
「女主人にでもなった気分だったのか…ああ、干渉をあまりにもしなかった私も罪深い…」
自分自身を責めるように呟いた。その言葉に、私はますます混乱し、心の中で整理しきれない感情が渦巻いた。
家族じゃない――その事実が重くのしかかり、私の心は崩れ落ちそうになった。これまで信じていた家族の形が、一瞬で瓦解していくような感覚に襲われた。
「でも、妹じゃないんなら、男爵家に帰らなくてもこのまま結婚…」
フルールが震えた声で言った。しかし、父は冷静に言葉を遮った。
「話を戻そう。クロードの命がないというのは比喩ではない。そのままの意味の”死ぬ”だ。エミリアがいないとクロードは、いずれ命を失う」
父が低い声で問いかける。その声には怒りと失望がにじみ出ていて、再び戻った執務室の空気が一層重たくなるのを感じた。私はうなずくことしかできなかった。
「そうです、お母様ったらひどいんです。お父様が帰ってくると私の部屋をお姉さまに与えて…嫌だって言っているのに」
私にも毎回、不満そうに言っていたフルールの言葉が思い出される。それを今、父に向けて訴えるフルールの姿に、私はどう対処すればいいのか分からなかった。
「黙れ…もともと、あの部屋はエミリアの部屋のはずだ、奪ったのか?」
低い声に圧倒され、私たちは言葉を失った。
「ロザリー、お前いったいどういうつもりだ。何の権限があってこんなことを!」
「父上!母上は、エミリアの体のことを思って…」
母を守らなくては!しかし、父は母をかばおうとした私の言葉を馬鹿にしたように笑った。
「体のことを思ってわざわざあんな陰気な部屋に?本気で思っているとしたら、お前の頭はどうなっている?」
その言葉に、私自身も確かに腑に落ちない部分があったことを思い出した。母の行動にはどこか矛盾があったのだ。
「…婚約を解消し、フルールと新たな婚約ということにも大きくかかわっていそうだな、なあ、ロザリー」
母は一瞬、口を開きかけたが、その言葉を飲み込んだ。父の怒りがこれ以上激化するのを恐れたのかもしれない。
「エミリアを、何なら、クロードよりもエミリアを大切にしろとあれほど言いつけたのに。お前もだフルール!エミリアからあと何を奪った!これがお前たちの考える”大切”か!!」
「ひ、ひどいですわ!お姉様お姉さまって…私たちだって家族なのにこんなに怒鳴りつけて。私とクロードが幸せになってもいいじゃないですか…義理とはいえ兄妹だから反対なのですか?…ひどいわ…ぐす」
父は冷たい目でフルールを見下ろし、冷静に言い放った。
「何を言っている?どうせ赤の他人だ、結婚したいならすればいい。ただ、エミリアがいないのであればクロードの命はない」
「父上、命がないなど…そこまで怒っているのですか?それに、血はつながっていないとはいえ赤の他人なんて言い方はあまりにも…」
「何を言う。小さい頃、お前が母と呼ぶから、哀れに思い家族ごっこに付き合っていただけだ。私は、初めから『母のように』とは言ったが、『母だ、母になる』とは言っていない。小さい頃ならまだしも、少し考えればわかるだろう?ロザリーはコルホネンを名乗ったことなどないし、私のことを名前で呼んだこともない。同じ食卓についた事は無いし、部屋も私の部屋からは遠い。察する力がないのは貴族として、致命的だ」
「え?母じゃない?フルールは?…義娘では、ないのですか!」
私は混乱し、思わず問い返した。
「フルール・ラルティエで学院にも通っているが?…侍女長の娘を養子になどするわけがない」
「嘘よ!お父様って言っても咎めなかったじゃない!私は、一緒に食卓を囲んでいたわ!フルール・コルホネンよ!」
フルールが叫び声を上げた。その声には絶望が込められていた。
「…食事とて、クロードの手前、咎めはしなかったが、返事をしたこともなかっただろう。土産もプレゼントも贈った記憶などないが」
父は淡々と続けた。その無慈悲な言葉が、フルールの心を一層深く傷つけたようだった。
「それは、お姉さまを贔屓しているんだと…」
「…フルール・コルホネン?まさか、学院でそう名乗っていたのか!記名も?学院の教師もなぜ何も言わん!ロザリー!!母を知らないクロードと邸の中で家族ごっこするのは構わないが、フルールには言い聞かせろとあれほど言ったではないか!」
「だ、旦那様。申し訳ありません!」
「女主人にでもなった気分だったのか…ああ、干渉をあまりにもしなかった私も罪深い…」
自分自身を責めるように呟いた。その言葉に、私はますます混乱し、心の中で整理しきれない感情が渦巻いた。
家族じゃない――その事実が重くのしかかり、私の心は崩れ落ちそうになった。これまで信じていた家族の形が、一瞬で瓦解していくような感覚に襲われた。
「でも、妹じゃないんなら、男爵家に帰らなくてもこのまま結婚…」
フルールが震えた声で言った。しかし、父は冷静に言葉を遮った。
「話を戻そう。クロードの命がないというのは比喩ではない。そのままの意味の”死ぬ”だ。エミリアがいないとクロードは、いずれ命を失う」
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