【完結】全てを滅するのは、どうかしら

楽歩

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22.エミリアとフルール sideクロード

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16歳のころ、王宮での大きなお茶会があった。それはただのお茶会ではなく、婚約者同士が社交を深め、王家とのつながりを示す重要な場でもあった。
エミリアと共に出席するのが当然とされていたが、フルールが何度も「一緒に行きたい」とねだってきたこともあり、私は迷い始めていた。何より、最近のエミリアの体調が心配だった。無理をさせてしまったら、それこそ彼女を傷つけてしまうかもしれないという不安が胸をよぎる。

「今度、王家で大きなお茶会があるのだけど、エミリアは体調が悪いから、フルールと行ってもいいかな?」

「最近は体調も良いので、あまり長い時間でなければ行けますが…」

それならばと思ったが、楽しみにしていたフルールの顔を思い出し、もっと元気になってから…と説得した。エミリアは少し寂しそうに微笑んだが、納得してくれたようだった。

フルールには、その夜、お茶会に一緒に行くことを告げた。彼女は目を輝かせ、私に飛びついて喜びを表現した。その無邪気な反応に、私はこれでよかったのだと自分に言い聞かせた。お茶会当日、フルールはその愛嬌を存分に発揮し、王家の人々とも、特に第3王女様とその婚約者のフィリップと親しくなった。社交の場でも彼女は輝いており、周囲の注目を一身に集めた。


フルールと共に時間を過ごし、一緒にいるのが当たり前になった頃


「…クロード、私…あなたのことを好きになってしまったの。ごめんなさい」フルールから震える声で告げられた。


彼女の瞳には涙が浮かんでいて、今にも溢れそうだった。

私はその瞬間、自分の胸の内にある感情が一気に溢れ出すのを感じた。前から、フルールのことを可愛いと思っていたが、それが家族としての愛情なのか、それとももっと深い感情なのか、自分でも曖昧だった。

しかし、その日を境に、私の心は明確になった。フルールが私にとってどれほど大切な存在であるか、彼女の存在が私の中でどれほど大きくなっていたのかを痛感した。フルールが私に触れるたび、エミリアと一緒にいる私を切ない目で見つめるフルールに気付くたび、恋しい気持ちが増していった。

そしてあの日…

フルールの気持ちを知って、それでも、父の決めた婚約をなかったことにする勇気もできずにいたあの日。聞かれるはずもなかった会話をエミリアに聞かれてしまった。彼女の表情は何も語らなかったが、その瞳の奥に見え隠れする悲しみを私は見逃さなかった。

その時、私は気づいた。これは神が私に決断を迫っているのだと。誰かのためではなく、自分自身の人生について考え、選択する時が来たのだと。そして、その選択の先にある未来を想像した。

長い時間共に過ごし、共に幸せになれる相手は、そう、フルール、フルールしか考えられない。

父からの叱責が待っていることは分かっていた。しかし、それでもフルールと共に歩む未来を選びたいと思った。どんな困難が待ち受けていようと、彼女の手を取り、共に幸せを築きたいという思いがある。他の男と幸せになるフルールを想像すらしたくない。


エミリアに対する罪悪感はあったが、それだけで彼女と結婚するのは、彼女に対しても不誠実だと思った。

優しいエミリアはわかってくれた。エミリアに行くところがなければずっとこの邸にいてくれていい。いつまでも、この邸に留まってくれればいい。今までと何も変わらないはずだと、自分に言い聞かせた。




そうだよ、これまで通り、みんなで仲良く暮らせばいいんだ。
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