上 下
17 / 57

17.リアは天使 sideヴィルフリード

しおりを挟む
隣国から来た侯爵夫妻は、明るく私に声をかけていたが、次第に顔色が曇っていくのが分かった。まあ、そうだろうな。私とて、初めて会った人たちとの世間話など何も楽しくない。早く部屋に戻って本が見たいくらいだ。


養子の件はこれで流れるだろうと勝手に結論付けていたが、現実はそうではなかった。親戚の中に適齢の男子が他におらず、結局、私が養子に迎えられることになったのだ。


侯爵家と伯爵家だろう?その婚約者の令息が婿に来ればいいのに…とは思ったが、まあ、どうでもいいことだった。


侯爵の娘が、あまりにも嫌がったら連れて帰ると、私の両親も一緒について侯爵家に向かうことになった。馬車が侯爵家に到着し、私は何の期待も持たずにその扉をくぐった。



馬車から降りると、そこには鮮やかなミモザ色のドレスを着た愛らしい顔の天使がいた。

ん?鮮やか?愛らしい?天使?

自分の中で、今まで感じたことのない何かが動き始めた。小さな唇が微笑むたびに、頬がほんのりと赤く染まり、その姿は愛らしさを際立たせる、つまり、天使。そして、その天使が私に向かって歩み寄り、口を開いた。


「初めまして、お兄様。私は、エミリア・ヴァルデンですわ。仲良くしてくださると嬉しいです」

と、微笑んだ。


しまった! " 仲良く "ってどうするんだ?
互いに打ち解けること、親しくなることという意味だったか…こんなことなら兄を相手に”仲良く”の練習をしておくんだった!


悔やんでも仕方がないと、使ったことのない表情筋を無理やり動かし、今できる笑顔を天使に向けて自己紹介をする。


隣で、父と母が化け物を見るような目でこちらを見ているが、そんなことはどうでもいい。


私はただ、彼女の愛称を呼ぶ許可をもらい、庭に誘ってもらえることに喜びを感じていた。リアの好きな花は、私の好きな花になった。リアの一生懸命な説明で、初めて花を認識し、美しいと感じた。



侯爵家での夕食後、部屋に戻り両親と私の3人でお茶をしているとき、私は自分でも驚く言葉を口にしていた。

「…父上、母上。私はリアの兄になるために生まれてきたのですね。今日そう思いました。母上、私を産んでくださりありがとうございます」

感謝の言葉が、意図せず出た。父は飲んでいたお茶を吹き出し、母は号泣した。


「あぁぁ、ヴィルが人になったぁぁ」

母はそう叫びながら私に抱きついてきた。私は生まれた時から人ですが?産んだのは、あなたでしょう?

どうしていいか分からなかったが、これはリアを抱きしめる練習だと思い、そっと抱きしめ返した。すると、母はますます泣き出し、ふと父を見ると、彼もまた涙を流していた。なぜだ…


母が帰るとき、リアに何かを言っていたが、私はただリアの顔しか見ていなかった。その時に「私のお兄様」そう「」と言ってくれた彼女の言葉が、私の全てを満たしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...