【完結】全てを滅するのは、どうかしら

楽歩

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21.何も変わらない sideクロード

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「幼いお前たちを邸に残すのは、ずっと不安だったんだ。母のように頼りにするといい。」

ある日、父上は、私たちを呼び集めた。
父上の横には、一人の女性と小さな女の子が立っていた。女性は艶やかなドレスを身にまとい、その存在感は圧倒的だった。


「ええ、私も本当の母のように、お二人のことを大事にしますわ」

女性が微笑みながら挨拶をした。彼女の声は柔らかく、言葉自体には温かさが感じられた。しかし、濃いアイライナーで縁取られた彼女の瞳には、どこか鋭いものが潜んでいるように思えた。


それでも、母を知らない私にとって、彼女の存在は新しい希望のように感じられた。生まれてからずっと、母の存在は遠い憧れでしかなく、その温もりや愛情を知らずに育ってきた私にとって、ようやく訪れたこの瞬間は喜びに満ちていた。


「まあ、この人が私のお兄様になるの?素敵!」

と、隣に立っていた女の子が突然私の手を握り、目を輝かせて言った。その明るくはじけるような笑顔に、一瞬驚きを覚えたが、その明るさが昔のエミリアによく似ていて好感が持てた。



その女の子、フルールはいつも笑顔を絶やさず、話し上手だった。彼女は私と過ごす時間を大切にし、毎日のように一緒に過ごすことを望んでいた。彼女の明るさと活発さに引かれ、気がつけば私も彼女との時間を楽しむようになっていた。


フルールと一緒に出掛けることが増え、買い物をしたり、流行りのカフェでお茶を楽しんだりと、これまで経験したことのない新しい世界が広がった。エミリアに対して少しばかりの罪悪感を抱きつつも、フルールと過ごす時間は私にとってかけがえのないものとなりつつあった。


エミリアは、出かけられないんだからしょうがない。


代わりに、帰ってからフルールと食べた物がどれほどおいしかったか、一緒に見た観劇がどのくらい素晴らしかったか等をエミリアにたくさん聞かせてあげた。フルールと選んだお土産も渡した。



しばらくたったころ、エミリアの部屋は、いつの間にか日当たりの悪い場所へと変わった。『あまり日光に当たるのがよくないとお医者様が言っていたの。』母が、そう言うなら…
でも、父が帰ってきたときには、エミリアは日当たりのいい部屋に移る。『旦那様が帰ってきている数日位は、賑やかのところに置いてあげたいじゃない?』と…



質素なベットも『硬い方が寝返りが打ちやすい』質素な食事も『塩分を抑えた方が体にいいの』とは言うが、同じく父が帰ってきているときは違う。母が言う「エミリアのため」という言葉には、どこか腑に落ちないものがあった。



しかし、母の優しさを疑うのは違うように思い、エミリアから特に不満も聞かなかったため、父には伝えずそのままにした。




そう、全て、エミリアのためなんだ


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