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23.家族 sideクロード
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エミリアの部屋に入り、しんと静まり返った空気を感じながら、部屋の様子を見渡した。
古いソファ。いつも彼女はそこにいるのに、今日はその姿がなかった。代わりに、机の上に手紙が置かれていた。昨日の話の続きをしようと、エミリアを訪ねたのだが、彼女はすでにいなかった。代わりに残されていたのは、この手紙だけだった。胸がざわめくのを感じながら、ゆっくりと封を開けた。
「クロード、それは何?」
ドアの外から声が聞こえ、フルールが部屋にやってきた。彼女は私の手元をじっと見つめていた。
「…エミリアからの手紙だ」
「お姉さま?見せて…ふーん、『探さないでください』か、ふふ、なんだかありきたりね」
不安を感じつつも、どこか現実味を感じられずにいた。
「どこに行ったんだろうか?やっぱり邸を出るくらいショックが大きかったんだ…」
「探さないでくださいって書いてあるんだから、探さなくていいんじゃないかしら?きっと、幸せな私たちを見ていられなかったのよ。ね、そっとしておいてあげましょう」
フルールは、私の考えを軽く一蹴するかのように言った。エミリアが、本当にそんな気持ちで手紙を残したのだろうか?
「…でも、お金も持っていないだろうし…体も弱いのに。それに、王都に誰も頼れる人なんて…」
エミリアのことを思い浮かべると、心配が広がる。彼女がどこか遠くで困っている姿を想像すると、居ても立ってもいられなかった。
「そうね、お姉さま友達もいないし。でも、どうにもならなかったら帰ってくるわ、きっと。それより私たちのこれからのことをお母様に相談しましょう!きっと喜んでくださるわ」
私の不安を振り払うように、フルールは明るく、未来の話を持ち出した。しかし、その明るさは、私の心に影を落とした。
***********
生まれた時から体が弱かった私は、広い屋敷の中はもちろん、外に出ることは許されず、ベッドの中で過ごすことがほとんどだった。外の世界は、私にとっては遠い夢のような存在であり、見ることも触れることもできないものだった。
父も使用人も優しかったが、私を産んだ日に亡くなった母を恋しいと思うこともあった。母を知らないという事実が、私の心の中にぽっかりと穴を開けていたように思う。
5歳のころ、父が友人の娘だと、エミリアを連れてきた。
「エミリア・ヴァルデンですわ。」
そういって、にこっと微笑んだ彼女は、とても可愛らしく、私の世界は一瞬で彩りを帯びたように感じられた。彼女の話は、外の世界を知らない私にとって、まるで魔法のように魅力的だった。エミリアの語る風景や出来事は、新鮮で、夢のようでもあった。
ああ、私も、本当は外に出て遊んでみたい…
じっと私を見ていたエミリアが、私の手を握った。彼女の目には真剣な色が宿り、何かを祈っているように見えた。その瞬間、体に変化が起こった。長い間苦しんできただるさや頭痛が、まるで魔法のように消え去ったのだ。しかし、その直後、元気だったはずのエミリアが突然その場に倒れてしまった。
部屋に大人たちが慌ただしく入ってきて、エミリアを連れて行ってしまった。
数日後、エミリアが婚約者になったことを知った。
「これで、クロードも良くなる…」
父がつぶやいた言葉の意味が分からなかったが、これでエミリアとまた会えると思ったら、特に気にならなかった。
10歳になった頃、エミリアの両親が亡くなり、彼女が私の邸に住むことになった。その頃から、エミリアを守りたいという強い気持ちを抱くようになった。自分の体調が悪くなることもあったが、エミリアが傍にいてくれることで、心が支えられ、体も少しずつ元気を取り戻していった。しかし、その代わりに、エミリアの体調が悪くなっていったのだ。
「今度は自分が…」そう誓い、エミリアを励まし続けた。彼女の体調不良の原因は不明だったが、エミリアが両親を失い、大好きだった義兄と離れ離れになったことで、心に大きな傷を抱えているのだと医者は言った。その傷が彼女の体に現れているに違いないと思った。
ある程度、私たちが大きくなると、父も領地へ行くことが多くなり、私たちはお互い支え合いながら、穏やかに過ごしてきた。
そんな時、私に義母と義妹ができた。
古いソファ。いつも彼女はそこにいるのに、今日はその姿がなかった。代わりに、机の上に手紙が置かれていた。昨日の話の続きをしようと、エミリアを訪ねたのだが、彼女はすでにいなかった。代わりに残されていたのは、この手紙だけだった。胸がざわめくのを感じながら、ゆっくりと封を開けた。
「クロード、それは何?」
ドアの外から声が聞こえ、フルールが部屋にやってきた。彼女は私の手元をじっと見つめていた。
「…エミリアからの手紙だ」
「お姉さま?見せて…ふーん、『探さないでください』か、ふふ、なんだかありきたりね」
不安を感じつつも、どこか現実味を感じられずにいた。
「どこに行ったんだろうか?やっぱり邸を出るくらいショックが大きかったんだ…」
「探さないでくださいって書いてあるんだから、探さなくていいんじゃないかしら?きっと、幸せな私たちを見ていられなかったのよ。ね、そっとしておいてあげましょう」
フルールは、私の考えを軽く一蹴するかのように言った。エミリアが、本当にそんな気持ちで手紙を残したのだろうか?
「…でも、お金も持っていないだろうし…体も弱いのに。それに、王都に誰も頼れる人なんて…」
エミリアのことを思い浮かべると、心配が広がる。彼女がどこか遠くで困っている姿を想像すると、居ても立ってもいられなかった。
「そうね、お姉さま友達もいないし。でも、どうにもならなかったら帰ってくるわ、きっと。それより私たちのこれからのことをお母様に相談しましょう!きっと喜んでくださるわ」
私の不安を振り払うように、フルールは明るく、未来の話を持ち出した。しかし、その明るさは、私の心に影を落とした。
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生まれた時から体が弱かった私は、広い屋敷の中はもちろん、外に出ることは許されず、ベッドの中で過ごすことがほとんどだった。外の世界は、私にとっては遠い夢のような存在であり、見ることも触れることもできないものだった。
父も使用人も優しかったが、私を産んだ日に亡くなった母を恋しいと思うこともあった。母を知らないという事実が、私の心の中にぽっかりと穴を開けていたように思う。
5歳のころ、父が友人の娘だと、エミリアを連れてきた。
「エミリア・ヴァルデンですわ。」
そういって、にこっと微笑んだ彼女は、とても可愛らしく、私の世界は一瞬で彩りを帯びたように感じられた。彼女の話は、外の世界を知らない私にとって、まるで魔法のように魅力的だった。エミリアの語る風景や出来事は、新鮮で、夢のようでもあった。
ああ、私も、本当は外に出て遊んでみたい…
じっと私を見ていたエミリアが、私の手を握った。彼女の目には真剣な色が宿り、何かを祈っているように見えた。その瞬間、体に変化が起こった。長い間苦しんできただるさや頭痛が、まるで魔法のように消え去ったのだ。しかし、その直後、元気だったはずのエミリアが突然その場に倒れてしまった。
部屋に大人たちが慌ただしく入ってきて、エミリアを連れて行ってしまった。
数日後、エミリアが婚約者になったことを知った。
「これで、クロードも良くなる…」
父がつぶやいた言葉の意味が分からなかったが、これでエミリアとまた会えると思ったら、特に気にならなかった。
10歳になった頃、エミリアの両親が亡くなり、彼女が私の邸に住むことになった。その頃から、エミリアを守りたいという強い気持ちを抱くようになった。自分の体調が悪くなることもあったが、エミリアが傍にいてくれることで、心が支えられ、体も少しずつ元気を取り戻していった。しかし、その代わりに、エミリアの体調が悪くなっていったのだ。
「今度は自分が…」そう誓い、エミリアを励まし続けた。彼女の体調不良の原因は不明だったが、エミリアが両親を失い、大好きだった義兄と離れ離れになったことで、心に大きな傷を抱えているのだと医者は言った。その傷が彼女の体に現れているに違いないと思った。
ある程度、私たちが大きくなると、父も領地へ行くことが多くなり、私たちはお互い支え合いながら、穏やかに過ごしてきた。
そんな時、私に義母と義妹ができた。
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