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8.月明かりの中で

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ふと、窓の外を見ると、いつの間にかすっかり日が暮れて真っ暗になっていた。時間の流れがこんなにも早いことに驚きを覚え、軽くため息をついた。

どうやら、自分の思考に没頭しているうちに、夜が静かに訪れていたようだ。

喉が渇いていることに気づき、立ち上がった。専属のメイドもいないので、仕方なく部屋を出て、静かな廊下を歩きながら調理場へと向かった。


廊下を進むうちに、微かに話し声が届いてきた。誰かが話している…こんな時間に? 不思議に思い、足を止めた。


「…だから…なのです。」

「ああ……しかし……と思っている」


声は庭の方からだった。そのまま進み、そっと庭へと出てみた。月明かりが静かに庭を照らしており、その銀色の光が花々を柔らかく輝かせている。

その庭の片隅で、二人の影を見つけた。月明かりの下で、抱き合う二人の姿。胸が詰まる思いで、その二人が誰であるかを認識する。クロード様とフルール。


ああ、やっぱりそうなのね。その光景を見つめながら、心が締めつけられるような感覚に囚われた。
フルールの柔らかな笑顔、クロードの優しい瞳。彼らはお互いを大切に想い合っているのだと、気づかざるを得なかった。


「クロード…私は、もうこれ以上隠しきれないわ。」

フルールの声は震えていたが、確固たる決意を感じさせた。


「わかっている。フルール。しかし、エミリアとの婚姻は父が強く望んでいるんだ」

クロード様の声は低く、悩みと苦しみが交錯しているようだった。胸の中で、何かが崩れ落ちるような感覚が広がり、どうすればいいのか分からず、庭の隅にある木陰に身を寄せた。


「クロードは?ひどいわ、クロードは私の気持ちを知っているくせに」

フルールは、クロード様の胸に顔を埋めた。彼女の細い肩が震えているのが、はっきりと見えた。


「もちろん、大切に思っている!その、妹としてではなく…」

「…クロード…」


少し体を離したクロード様は、フルールの肩にそっと手を置いた。


「だが、父にエミリアを大切にしろと言われている。小さい頃から一緒にいたんだ。情もある。すまない」


フルールは悔しいような悲しいような顔をし、声を絞り出した。


「…来月は、クロードの誕生日。18歳、成人だわ。あと3か月で卒業したら、お姉さまと婚姻してしまう。私はどんな気持ちで一緒にいればいいの?」


何も答えられないクロード様との間に静かな時間が流れる。


「結婚してもエミリアは病弱だから、パートナーが必要な夜会にはフルールと一緒に行く。今まで通り出かけるのも共に過ごす時間も何も変わらないよ」

「婚約者と妻は違うわ。…いいえ、ごめんなさいクロード。困らせたかったわけじゃないの。愛してる。それを知ってほしかっただけなの。ふふ、大丈夫、貴方が結婚したら私は、…誰でもいいからすぐに結婚するわ。クロードの子供と私の子供を結婚させるのも素敵ね。私の恋が叶わないのだから…子供に託したいわ」


クロード様はその言葉に打ちのめされた顔をした。

「フルールが…結婚、…子ども?」


クロード様はその言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかっているようだった。それが実際にどういうことを意味するのかを想像しているのだろう。


「ふふ、クロードったら。結婚したあなたの傍にいつまでもいられないわ」


フルールは微笑んでいたが、その笑顔は哀しみに満ちていた。ああ、そんな顔を見たらクロード様は、もう駄目ね。

クロード様は彼女を引き寄せ、力強く抱きしめた。

「嫌だ…嫌だ!!ああ、フルール、私も愛しているんだ。フルールが傍からいなくなるなんて考えてもみなかった。耐えられそうにない。フルール…」

彼の叫びは、心の底からの叫びだった。クロード様はようやく自分の気持ちに正直になったのだ。彼女を失うことがどれほどの痛みを伴うのかを理解し、そしてその痛みに耐えられないことを悟ったのだろう。

私は?今感じているこの胸の痛みは、彼を失うことからくるのかしら?それとも、全てが無意味に変わるのが怖いのかしら?なんにしても、痛みに耐えられる自信がない。


「本当?本当に?クロード…」

フルールの目には喜びと希望が満ち溢れていた。



夜空には月が輝き、花の香りが漂う。月明かりに照らされた庭で、二人の影が重なり合う。時が止まったかのように感じられるこの瞬間、世界は二人だけのものだった。想いを交わし合い、微笑む2人。まるで物語ね。



私の犠牲の上に成り立つ愛は、…ああ、なんて醜いのかしら。





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