【完結】全てを滅するのは、どうかしら

楽歩

文字の大きさ
上 下
3 / 57

3.ずっと一緒にいる人

しおりを挟む
「いいかい、エミリア。一気に消そうと願ってはいけないよ。少しずつ、少しずつだ。」


婚約者となり、伯爵家に訪問に行く際には、お父様に念を押された。
黒い靄は、願う度に小さくなり、クロード様も外で走り回れるほどに、元気になった。しかし不思議なことに、伯爵様がクロード様に近づくと、黒い靄がゆらめき嫌な感じを醸し出すのだった。
それがなぜなのか想像もできなかった小さい頃は、伯爵様が少し怖い存在のように感じて、誰にもそのことを言えなかった。


伯爵様は、幼いクロード様が闇魔法を怖がらないように『エミリアが傍にいてくれると、元気になれる』とだけお話してくださった。

「エミリアが、たくさんおはなししてくれるから、わたしはげんきになったんだね。」

と、朗らかに笑うクロード様に会うのはとても楽しかった。私たちは、互いの家を行き来し、よい関係を築いていた。婚約者の意味をあまりわかっていなかったが、ずっと一緒にいる人ということに何の疑問もなかった。



***********


「エミリア、大事な話があるからここに座って」

クロード様に出会って2年目。7歳となったころ、お父様に執務室に呼ばれた。



「大事な話というのは、この侯爵家のことなんだ。エミリアは一人娘だろう?クロード君の婚約者の話がある前は、婿を取り、エミリアにこの侯爵家を継いでもらおうと思っていたのだけれど…このまま、将来クロード君と結婚するのなら、跡取りのことを考えなければならない。幼いお前はよくわからないだろうが、どうしたい?」


正直、難しいことはわからなかったが、

「私は、優しいクロード様と一緒にいたいです。」と、お父様に伝えた。


「…そうか。ああ、わかった。」


少し悲しげな顔をするお父様のことが少し気になったが、幼い私は特に深く考えはしなかった。



お母さまは、元々体が弱く、私を産んだ後、お医者様に「もう一人は望めない」そう言われていたのだとお父様に聞いたのは、両親が亡くなる前の年だった。



***********



兄ができる。そう聞いたのはそれから間もなくだった。


「隣国に住む私の従弟の子でね、伯爵家の3男なんだ。遠くに住んでいるからエミリアは会ったことがないのだけれど、すごく魔法が得意ということだよ」


「魔法が?何の魔法でしょう!楽しみだわ、早く会いたいわ」


「土魔法と水魔法だそうだよ。この国では珍しいね。私も生まれたばかりの時に会っただけだから、どんな風に成長したのか楽しみだ。私たちは、先に伯爵領に行って顔合わせをしてくる。手続きは時間がかかるから、一緒には帰ってこられないだろう。エミリアが会うのは、もう少し先かな?」


兄弟のいなかった私に兄ができる。しかも魔法が得意。会える日を指おり数えて待っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...