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37.グリムハルト子爵家② END
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お姉様たちを褒める?貴族の挨拶として?
エドワード様も、リチャード様の言葉に同意するかのように腕を組みながら静かに頷いた。その目にはまるで挑発するような光が宿っている。私は内心で慌てた。リチャード様はなんて意地悪なことを言うのだろう。エドモンド様を困らせるなんて…!
エドモンド様も一瞬、困惑したような表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔に戻った。
「あー、私も美意識は持ち合わせていますので、もちろんフローリアの姉君たちのことを美しいとは思います。しかし、フローリアの前でそれは…いや、言えと言われれば頑張りますが…」
彼の言葉に私は思わず微笑んだ。エドモンド様の戸惑いながらも誠実な言い回しが、どこか愛おしく感じられる。私を見るエドモンド様に、微笑んで頷く。
「自然な美しさが…あふれていますね?なんか、違うな…」
エドモンド様が言葉を探しているのが明らかだった。しかし突然、彼の目が輝いた。
「あっ!フローリアのことなら、いくらでも褒められます!フローリアは、花のような美しさという言葉では足りないほど魅力的で、その微笑は春の陽だまりのように心を温かくし、彼女の存在そのものが周囲に安らぎを与え…」
「きゃぁぁ!エドモンド様、私はいいのです!話の流れが変わっています!」
私は顔を赤くして、彼を止めようとするが、彼はさらに自信を持って続けようとしている。
「「「「「「合格よ!」だ!」」」」」
え?私は驚いて目を見開いた。何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
「いやー、カトリーナたち狙いの男じゃなくて本当によかった。褒めちぎったらどうしてくれようと思っていたな、エドワード」
「ああ、かといって全く褒めないのも嘘くさいしな。エドモンド君は、ルイーザたちとの方が歳も近いし、フローリアちゃん、利用されているんじゃないかって気が気じゃなかったな。はは」
ん?私はまだ状況を飲み込めないまま、二人のやり取りを聞いていた。
「私たちの可愛いリアをこんなに想ってくださるなんて嬉しいわね。ルイーザ」
「本当ですわ、お姉様。よかったわね。リア!」
お姉様たちは、満面の笑みを浮かべて頷いている。ということは?
「エドモンド君。フローリアのことをよろしく頼んだぞ。一代限りの男爵位だからな。フローリアと生まれてくる子供のためにも君には頑張って爵位を上げてもらおう。ははは」
子供…お父様の言葉に、私は少し恥ずかしくなりながらもエドモンド様を見た。彼も一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの落ち着いた表情を取り戻し、深く頷いた。
「まあ、あなた、気が早い。子供ができなくてもフローリアを幸せにしてくれるなら地位は関係ないわ。試すようなことしてごめんなさいね。本当にフローリアを大切に思ってくれていることが伝わったわ」
お母様の優しい言葉に、私の心はさらに温かくなった。穏やかなまなざしが、エドモンド様にも向けられ、彼は少し照れくさそうに微笑んだ。
「お義父上たち。エドモンド君の噂は耳にしております。爵位はすぐにでも上がるでしょう。なにせ、『次々と襲い来る魔獣たちの牙や爪を、無意識に受け流し、反撃の刃を振るう。斬撃の一つ一つが鋭く、魔獣たちは一瞬の隙すら与えられない。彼の動きは重厚な鎧を纏っているとは思えないほど軽やかだ。剣が舞うたびに、次の魔獣が倒れていく』というのが彼の噂ですよ」
私は驚いてエドモンド様を見た。そんな風に彼が噂されているなんて…!私が知らない彼の姿が、戦場での姿が少しずつ見えてくる。
「エドモンド君!実はずっと君の活躍に興味があったんだ。あちらで男同士、話でもしようじゃないか!」
リチャード様が言うと、エドモンド様は軽く困惑したように目を瞬かせながらも、すぐに彼に連れて行かれた。
彼が部屋の隅でリチャード様やエドワード様と話を始めるのを横目で見ながら、私は一息ついた。すると、カトリーナお姉様とルイーザお姉様が、優しく私の両隣に座ってきた。
「よかったわね、リア」カトリーナお姉様が微笑みながら、私の頭を優しく撫でてくれる。ルイーザお姉様も、「エドモンド様、本当に素敵な方ね」と言って、同じように私の髪を撫でてくれた。
二人の優しい手の感触に包まれ、私は思わず微笑みを返した。お姉様たちから漂う心地よい香りが、さらに私をリラックスさせてくれる。「お姉様たち、いい香りがしますね。あとで、何の香りか教えてくださいね」と、私は少し甘えるように言った。
二人は微笑み合いながら「もちろんよ」と、同時に答えてくれた。その温かい空気に包まれ、私は家族の愛情を強く感じた。
***
夕暮れが始まり、柔らかな赤い光が周囲を包み込んでいた。明日、仕事のエドモンド様は、馬を飛ばして帰るそうだ。玄関の前で、エドモンド様を見送る時間が静かに流れていた。
「エドモンド様、今日はお越しいただきありがとうございます」
私は心からの感謝を込めて言った。彼の姿が夕日の中で少しずつ影を落としながら、私の目に焼きついていく。
「ああ、今日は本当に最良の日だ」
エドモンド様は、満ち足りた表情で応えた。
「いや、最良と決めつけるはまだ早いな。私の婚約者様、これからもどうぞよろしく頼む。…そういえば、フローリアは姉君たちから、リアと呼ばれているんだな。その…私もリアと呼んでいいか?」
彼は少し照れたように言った。私は頬がほんのり赤くなるのを感じた。
「ええ、是非。わ、わたしもエド…って呼んでもいいですか?」
「っ!ああ、勿論だ」
顔を赤らめつつ、嬉しそうに答えてくださった。その反応に、私の心もさらに温かくなった。
次の瞬間、ふわりと、優しく私を抱きしめてくれた。彼の温かい胸に包まれると、まるで世界が一層柔らかく、穏やかに感じられる。心臓の鼓動が私の耳に届き、安心感に包まれた。
大切な人を見失わないように、大切なものを手放さないように、彼と共に過ごす未来をしっかりと守ろう。心に誓いながら、美しい夕暮れの中、その温もりに包まれていた。
END
エドワード様も、リチャード様の言葉に同意するかのように腕を組みながら静かに頷いた。その目にはまるで挑発するような光が宿っている。私は内心で慌てた。リチャード様はなんて意地悪なことを言うのだろう。エドモンド様を困らせるなんて…!
エドモンド様も一瞬、困惑したような表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔に戻った。
「あー、私も美意識は持ち合わせていますので、もちろんフローリアの姉君たちのことを美しいとは思います。しかし、フローリアの前でそれは…いや、言えと言われれば頑張りますが…」
彼の言葉に私は思わず微笑んだ。エドモンド様の戸惑いながらも誠実な言い回しが、どこか愛おしく感じられる。私を見るエドモンド様に、微笑んで頷く。
「自然な美しさが…あふれていますね?なんか、違うな…」
エドモンド様が言葉を探しているのが明らかだった。しかし突然、彼の目が輝いた。
「あっ!フローリアのことなら、いくらでも褒められます!フローリアは、花のような美しさという言葉では足りないほど魅力的で、その微笑は春の陽だまりのように心を温かくし、彼女の存在そのものが周囲に安らぎを与え…」
「きゃぁぁ!エドモンド様、私はいいのです!話の流れが変わっています!」
私は顔を赤くして、彼を止めようとするが、彼はさらに自信を持って続けようとしている。
「「「「「「合格よ!」だ!」」」」」
え?私は驚いて目を見開いた。何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
「いやー、カトリーナたち狙いの男じゃなくて本当によかった。褒めちぎったらどうしてくれようと思っていたな、エドワード」
「ああ、かといって全く褒めないのも嘘くさいしな。エドモンド君は、ルイーザたちとの方が歳も近いし、フローリアちゃん、利用されているんじゃないかって気が気じゃなかったな。はは」
ん?私はまだ状況を飲み込めないまま、二人のやり取りを聞いていた。
「私たちの可愛いリアをこんなに想ってくださるなんて嬉しいわね。ルイーザ」
「本当ですわ、お姉様。よかったわね。リア!」
お姉様たちは、満面の笑みを浮かべて頷いている。ということは?
「エドモンド君。フローリアのことをよろしく頼んだぞ。一代限りの男爵位だからな。フローリアと生まれてくる子供のためにも君には頑張って爵位を上げてもらおう。ははは」
子供…お父様の言葉に、私は少し恥ずかしくなりながらもエドモンド様を見た。彼も一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの落ち着いた表情を取り戻し、深く頷いた。
「まあ、あなた、気が早い。子供ができなくてもフローリアを幸せにしてくれるなら地位は関係ないわ。試すようなことしてごめんなさいね。本当にフローリアを大切に思ってくれていることが伝わったわ」
お母様の優しい言葉に、私の心はさらに温かくなった。穏やかなまなざしが、エドモンド様にも向けられ、彼は少し照れくさそうに微笑んだ。
「お義父上たち。エドモンド君の噂は耳にしております。爵位はすぐにでも上がるでしょう。なにせ、『次々と襲い来る魔獣たちの牙や爪を、無意識に受け流し、反撃の刃を振るう。斬撃の一つ一つが鋭く、魔獣たちは一瞬の隙すら与えられない。彼の動きは重厚な鎧を纏っているとは思えないほど軽やかだ。剣が舞うたびに、次の魔獣が倒れていく』というのが彼の噂ですよ」
私は驚いてエドモンド様を見た。そんな風に彼が噂されているなんて…!私が知らない彼の姿が、戦場での姿が少しずつ見えてくる。
「エドモンド君!実はずっと君の活躍に興味があったんだ。あちらで男同士、話でもしようじゃないか!」
リチャード様が言うと、エドモンド様は軽く困惑したように目を瞬かせながらも、すぐに彼に連れて行かれた。
彼が部屋の隅でリチャード様やエドワード様と話を始めるのを横目で見ながら、私は一息ついた。すると、カトリーナお姉様とルイーザお姉様が、優しく私の両隣に座ってきた。
「よかったわね、リア」カトリーナお姉様が微笑みながら、私の頭を優しく撫でてくれる。ルイーザお姉様も、「エドモンド様、本当に素敵な方ね」と言って、同じように私の髪を撫でてくれた。
二人の優しい手の感触に包まれ、私は思わず微笑みを返した。お姉様たちから漂う心地よい香りが、さらに私をリラックスさせてくれる。「お姉様たち、いい香りがしますね。あとで、何の香りか教えてくださいね」と、私は少し甘えるように言った。
二人は微笑み合いながら「もちろんよ」と、同時に答えてくれた。その温かい空気に包まれ、私は家族の愛情を強く感じた。
***
夕暮れが始まり、柔らかな赤い光が周囲を包み込んでいた。明日、仕事のエドモンド様は、馬を飛ばして帰るそうだ。玄関の前で、エドモンド様を見送る時間が静かに流れていた。
「エドモンド様、今日はお越しいただきありがとうございます」
私は心からの感謝を込めて言った。彼の姿が夕日の中で少しずつ影を落としながら、私の目に焼きついていく。
「ああ、今日は本当に最良の日だ」
エドモンド様は、満ち足りた表情で応えた。
「いや、最良と決めつけるはまだ早いな。私の婚約者様、これからもどうぞよろしく頼む。…そういえば、フローリアは姉君たちから、リアと呼ばれているんだな。その…私もリアと呼んでいいか?」
彼は少し照れたように言った。私は頬がほんのり赤くなるのを感じた。
「ええ、是非。わ、わたしもエド…って呼んでもいいですか?」
「っ!ああ、勿論だ」
顔を赤らめつつ、嬉しそうに答えてくださった。その反応に、私の心もさらに温かくなった。
次の瞬間、ふわりと、優しく私を抱きしめてくれた。彼の温かい胸に包まれると、まるで世界が一層柔らかく、穏やかに感じられる。心臓の鼓動が私の耳に届き、安心感に包まれた。
大切な人を見失わないように、大切なものを手放さないように、彼と共に過ごす未来をしっかりと守ろう。心に誓いながら、美しい夕暮れの中、その温もりに包まれていた。
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