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36.グリムハルト子爵家①
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エドモンド様が、正式にグリムハルト子爵家に私との婚約を申し込んでくださった。婚約を申し込む書の書き方を団長に何度も確認したことも知っているし、彼がどれほど真剣に準備してくれたかが手に取るように分かる。
事前に家族には話しており、特にお母様は恋愛結婚を推奨している方だから、大きな問題はないだろうと楽観視していた。
お母様は常々「愛のない結婚は、後々の幸せを損なうもの」と話していた。しかし、エドモンド様はそのような状況を知りつつも、返事が来るまで、気が気ではなさそうだ。
彼の不安そうな顔は、私にプロポーズしてくれたあの夜と重なる。あの時も、彼の表情には不安が漂っていた。ふふ。
そして、そのお母様からの『実際会ってみないことには、ね?』の一言でエドモンド様がグリムハルト子爵家に招待された。もちろん私も同席をする。
招待当日、騎士服に身を包んだエドモンド様を出迎えた。そして、私たちは両親の待つ部屋に向かうため、長い廊下を並んで歩いていた。彼はいつもとは違う緊張感を漂わせながら、ふいに私の方を見てこう言った。
「フローリア、もし反対されても諦めない。その時は、功績を立て、昇格したらまたチャレンジをする。それまで待ってくれるか?」
「もちろんです。でも、今日認めてもらいましょう!私も頑張りますから」
彼の目が一瞬驚いたように見開かれ、その後すぐに笑みが戻った。エドモンド様は、ふっと肩の力を抜いて自信を取り戻したように見えた。
「よし!団長と爺さんとの猛特訓の成果をみせる時だ。はは、貴族らしい振る舞いにきっとフローリアも驚くぞ」
その言葉に、私もつい笑みを返す。彼が特訓にどれほどの時間を費やしてきたか知っているからこそ、彼の真剣さに対して一層の愛おしさを感じる。そして、エドモンド様の堅かった顔が、ようやくいつもの朗らかな表情に戻った。
ついに部屋へとたどり着き、執事が私たちの到着を告げた。大きな扉が静かに開かれ、私は一歩踏み出す。その空間は重厚で、厳かな雰囲気が漂っていた。私たちは礼をして顔を上げる。
そこにいたのはお父様、お母様、そして……お姉様たちとその婚約者様たち。
なぜ?
皆がニコニコとこちらを見つめているが、その笑顔がなぜか怖い。ふとエドモンド様を見上げると、彼はまるで固まったように動かなくなっていた。た、大変だわ。彼がこんなに緊張しているのを見るのは初めてだ。
エドモンド様の歩き方が少しぎこちなく感じられる。一緒にソファへと座ると、私は自分もどこか心が落ち着かないことに気付いた。
「よく来てくれた、エドモンド・レイヴンウッド男爵。実は偶然フローリアの姉たちの婚約者も来ていてね。是非同席したいというものだから、いいよね」
お父様…絶対嘘よね
「は、はい。はじめてお目にかかります。エドモンド・レイヴンウッドです。この度は、お招きいただき感謝申し上げます」
固まっていたエドモンド様が戻ってきたわ。頑張って!
「あらあらそんなに固くならないで、こちらは長女のカトリーナとその婚約者のハリントン侯爵家次男リチャード様、その隣に座っているのが次女のルイーザとウィンチェスター伯爵家嫡男エドワード様よ」
『侯爵家、伯爵家…』と、エドモンド様が呟く。その声には明らかに緊張が滲んでいた。彼の顔色は、目に見えて悪くなっていく。
「さて、エドモンド君。婚約の申し込みありがとう。私たちはフローリアの意思を尊重したいところなんだが、家族として迎えてもいいかどうか、いくつか確認しておきたいことがあってね。何、フローリアの姉の婚約者殿たちも同じ道を通っている。君だけ特別ではないから安心したまえ」
本当に?私は、お姉様たちの時に同席していなかったけれど…
「はい、何でも聞いてください!」
皆の視線がエドモンド様に集中する中、お父様が静かに口を開いた。
「君の家族は、現在、弟一人ということでいいかな?」
「はい、そうです。母親が遅くに産んだ子で、今は7歳になります。両親は彼がまだ2歳のころに流行り病で亡くなりました。その時、私はすでに家を出ていたのですが、弟を引き取って育ててきました」
エドモンド様が静かに答えると、その場に少し重い空気が流れた。エドモンド様の背負ってきた責任の大きさが改めて私に伝わってくる。
「フローリアと結婚したら、フローリアがその子の面倒を見るのかしら?」
お母様が少し厳しめの口調で問いかけた。
「今は男爵位を賜っており、家には使用人がおります。また、弟には家庭教師もつけ、貴族としての教育もしております。弟はしっかりしているので自分のことは自分できます。ですが、フローリア嬢には、家族として弟のことも愛していただければ幸いです」
「お父様、お母様。エドモンド様の弟君のニコラス君、本当に可愛いのです。エドモンド様を、ぎゅぎゅっと小さくしたような感じで。『お兄様のような立派な騎士になるんだ』とニカッと笑う笑顔も本当にそっくりで!」
私が話すと、エドモンド様は少し照れたように微笑んだ。その表情に、私は胸の奥で温かい気持ちが広がるのを感じた。
その時、カトリーナお姉様がふと、優しい笑顔を見せながら口を開いた。
「私からも聞いていいかしら?リアは薬師の仕事がとても好きみたいなの。もし望むなら、結婚後も続けさせてあげる気持ちはあるのかしら?」
お姉様が私の仕事について直接聞いてくれたことが、心から嬉しかった。カトリーナお姉様はいつも私を気遣ってくれる優しい人だ。私は思わずお姉様に感謝の微笑みを送った。
「それは当然です。フローリア嬢の望みは、おれ…私の望みでもあります!」
カトリーナお姉様とルイーザお姉様が、微笑みを浮かべて私たちを見ていた。
「それにしても、エドモンド君」
カトリーナお姉さまの婚約者リチャード様がふいに口を開いた。口元にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。
「君も貴族の端くれなら、こんなに美しい私たちの婚約者のことを、まず褒めるべきではないだろうか?それが礼儀だぞ」
え?私の婚約の申し込みに来ているエドモンド様にお姉様たちを褒めろと?
事前に家族には話しており、特にお母様は恋愛結婚を推奨している方だから、大きな問題はないだろうと楽観視していた。
お母様は常々「愛のない結婚は、後々の幸せを損なうもの」と話していた。しかし、エドモンド様はそのような状況を知りつつも、返事が来るまで、気が気ではなさそうだ。
彼の不安そうな顔は、私にプロポーズしてくれたあの夜と重なる。あの時も、彼の表情には不安が漂っていた。ふふ。
そして、そのお母様からの『実際会ってみないことには、ね?』の一言でエドモンド様がグリムハルト子爵家に招待された。もちろん私も同席をする。
招待当日、騎士服に身を包んだエドモンド様を出迎えた。そして、私たちは両親の待つ部屋に向かうため、長い廊下を並んで歩いていた。彼はいつもとは違う緊張感を漂わせながら、ふいに私の方を見てこう言った。
「フローリア、もし反対されても諦めない。その時は、功績を立て、昇格したらまたチャレンジをする。それまで待ってくれるか?」
「もちろんです。でも、今日認めてもらいましょう!私も頑張りますから」
彼の目が一瞬驚いたように見開かれ、その後すぐに笑みが戻った。エドモンド様は、ふっと肩の力を抜いて自信を取り戻したように見えた。
「よし!団長と爺さんとの猛特訓の成果をみせる時だ。はは、貴族らしい振る舞いにきっとフローリアも驚くぞ」
その言葉に、私もつい笑みを返す。彼が特訓にどれほどの時間を費やしてきたか知っているからこそ、彼の真剣さに対して一層の愛おしさを感じる。そして、エドモンド様の堅かった顔が、ようやくいつもの朗らかな表情に戻った。
ついに部屋へとたどり着き、執事が私たちの到着を告げた。大きな扉が静かに開かれ、私は一歩踏み出す。その空間は重厚で、厳かな雰囲気が漂っていた。私たちは礼をして顔を上げる。
そこにいたのはお父様、お母様、そして……お姉様たちとその婚約者様たち。
なぜ?
皆がニコニコとこちらを見つめているが、その笑顔がなぜか怖い。ふとエドモンド様を見上げると、彼はまるで固まったように動かなくなっていた。た、大変だわ。彼がこんなに緊張しているのを見るのは初めてだ。
エドモンド様の歩き方が少しぎこちなく感じられる。一緒にソファへと座ると、私は自分もどこか心が落ち着かないことに気付いた。
「よく来てくれた、エドモンド・レイヴンウッド男爵。実は偶然フローリアの姉たちの婚約者も来ていてね。是非同席したいというものだから、いいよね」
お父様…絶対嘘よね
「は、はい。はじめてお目にかかります。エドモンド・レイヴンウッドです。この度は、お招きいただき感謝申し上げます」
固まっていたエドモンド様が戻ってきたわ。頑張って!
「あらあらそんなに固くならないで、こちらは長女のカトリーナとその婚約者のハリントン侯爵家次男リチャード様、その隣に座っているのが次女のルイーザとウィンチェスター伯爵家嫡男エドワード様よ」
『侯爵家、伯爵家…』と、エドモンド様が呟く。その声には明らかに緊張が滲んでいた。彼の顔色は、目に見えて悪くなっていく。
「さて、エドモンド君。婚約の申し込みありがとう。私たちはフローリアの意思を尊重したいところなんだが、家族として迎えてもいいかどうか、いくつか確認しておきたいことがあってね。何、フローリアの姉の婚約者殿たちも同じ道を通っている。君だけ特別ではないから安心したまえ」
本当に?私は、お姉様たちの時に同席していなかったけれど…
「はい、何でも聞いてください!」
皆の視線がエドモンド様に集中する中、お父様が静かに口を開いた。
「君の家族は、現在、弟一人ということでいいかな?」
「はい、そうです。母親が遅くに産んだ子で、今は7歳になります。両親は彼がまだ2歳のころに流行り病で亡くなりました。その時、私はすでに家を出ていたのですが、弟を引き取って育ててきました」
エドモンド様が静かに答えると、その場に少し重い空気が流れた。エドモンド様の背負ってきた責任の大きさが改めて私に伝わってくる。
「フローリアと結婚したら、フローリアがその子の面倒を見るのかしら?」
お母様が少し厳しめの口調で問いかけた。
「今は男爵位を賜っており、家には使用人がおります。また、弟には家庭教師もつけ、貴族としての教育もしております。弟はしっかりしているので自分のことは自分できます。ですが、フローリア嬢には、家族として弟のことも愛していただければ幸いです」
「お父様、お母様。エドモンド様の弟君のニコラス君、本当に可愛いのです。エドモンド様を、ぎゅぎゅっと小さくしたような感じで。『お兄様のような立派な騎士になるんだ』とニカッと笑う笑顔も本当にそっくりで!」
私が話すと、エドモンド様は少し照れたように微笑んだ。その表情に、私は胸の奥で温かい気持ちが広がるのを感じた。
その時、カトリーナお姉様がふと、優しい笑顔を見せながら口を開いた。
「私からも聞いていいかしら?リアは薬師の仕事がとても好きみたいなの。もし望むなら、結婚後も続けさせてあげる気持ちはあるのかしら?」
お姉様が私の仕事について直接聞いてくれたことが、心から嬉しかった。カトリーナお姉様はいつも私を気遣ってくれる優しい人だ。私は思わずお姉様に感謝の微笑みを送った。
「それは当然です。フローリア嬢の望みは、おれ…私の望みでもあります!」
カトリーナお姉様とルイーザお姉様が、微笑みを浮かべて私たちを見ていた。
「それにしても、エドモンド君」
カトリーナお姉さまの婚約者リチャード様がふいに口を開いた。口元にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。
「君も貴族の端くれなら、こんなに美しい私たちの婚約者のことを、まず褒めるべきではないだろうか?それが礼儀だぞ」
え?私の婚約の申し込みに来ているエドモンド様にお姉様たちを褒めろと?
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