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20.複雑な感情 sideウィリアム
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sideウィリアム
ソフィアが頬を赤く染め、ぼんやりとした表情で立ち尽くしている。彼女の顔に浮かぶ、明らかな戸惑いと何かを思い出しているかのような表情が気にかかる。
「ソフィア、どうしたんだい?具合でも悪いのか?」
彼女はふと我に返り、少し慌てた様子で答えた。
「あ、ウィリアム、違うの。実は、さっきフローリアに会いに行って、私たちの手伝いをお願いしてきたの」
「そうなんだ、言ってくれれば、一緒に行ったのに。それで、フローリアは何て?」
ソフィアの表情が曇り、唇をかんだ。
「それがね、断られちゃったの…フローリアが私たちを見捨てるなんて、思いもしなかったわ」
「断った?フローリアが?」
ソフィアのお願いは、何でも聞いてきたのに?
「そうなの、定時に帰っているらしいから、時間はあると思うのだけれど…。困っているって伝えたのよ。フローリアが同期としての絆をあんなにも簡単に手放すなんて、意外だったわ。私たち仲良くしてきたと思っていたのに」
「全くだ。自分がいなくなって困っている俺たちを、馬鹿にしてるんじゃないか?」
「さすがにそれは…。それでねフローリアの上司の方に、室長を通すように言われて」
はぁ?大げさだな。
「室長か、厳しいかもな。はぁ…これじゃ、洗髪料開発も進展しないし、俺たちのプロジェクトも危ういかもしれない。」
「ねえ、そんなことよりウィリアム、第三騎士団の副団長のこと、知ってる?」
そんなこと?何言ってんだ?
「…エドモンド様のことか?もちろん知っているさ。彼は平民で騎士団に入り、今じゃ副団長で男爵だ。あの人の功績は誰もが認めるところだよ。まさに平民の星だ。俺も薬師として名を挙げて、いずれ貴族に…」
尊敬を込めて語るエドモンド様のことを、ソフィアは目を輝かせて聞いていた。
「そうなのね!エドモンド様、顔立ちは端正なのに、彼の鋭い眼差しとたくましい体躯には、力強さと優しさが溢れていたの。フローリアを守る姿なんて、まるで童話の騎士様みたいだったわ」
彼女の言葉には、まさに恋する乙女の純粋な憧れと喜びが滲んでいた。まさか…
「全てが光り輝いて見えたの。一目ぼれってあるのね。副団長ならまだ功績をあげる機会があるわ。爵位が上がれば…身分も釣り合う。うわぁ、どうしよう」
***
ソフィアは、完全に研究をおろそかにするようになってしまった。暇さえあれば、いや、暇なんかないはずだが、第3騎士団の練習場に足を運び、エドモンド様を見つめているらしい。そんな彼女の様子に、俺は、内心ため息をつくことしかできなかった。
「室長に怒られるのは俺だっていうのに…」
心には焦りが広がり、不安が再び押し寄せてきた。
俺は、平民として生まれ育ち、必死で勉強しながら学院に通う日々が続いた。
その努力が実を結び、ソフィアと仲良くなり、宮廷薬師としての道を開くことができたのは、幸運としか言いようがなかった。ソフィアの家の力も大きかったと思う。貴賤を問わないという建前があっても、実際には平民が宮廷薬師として認められることは、ここ何十年もなかったのだ。ソフィアが口添えを父親に頼んでくれたに違いない。
しかし、「一人辞めさせる」という噂を聞いたとき、俺の胸は重くなった。
平民は俺だけ。
不安が胸をよぎり、このままいけば間違いなく自分がその一人になってしまうのではないかという恐怖が襲ってきた。
周囲には貴族の出身者ばかりが集まり、俺だけが場違いだと、ひしひしと感じていた。
フローリアがその優秀さを発揮して、独学で宮廷薬師として採用されたのは知っていたが、自分が宮廷薬師として居続けるためには、フローリアを蹴落とすしかなかった。伯爵家の令嬢であるソフィアが首になることはないだろうし、貴族社会の常識がそれを保証している。
だから、俺はフローリアが自分の仕事をうまく回せなくなるように先輩たちをさりげなくけしかけ、彼女を忙殺させることで自分の立場を守ろうとした。そうすることで、フローリアがミスをする可能性を高めたかったのだ。さらに、共同研究をソフィアに提案し、手柄がソフィアと俺に行くようにした。
フローリアにはその影さえ踏ませないように…。
しかし、元平民の騎士副団長に恋するソフィアの話を聞いたとき、心に複雑な感情が渦巻いた。
ソフィアがエドモンド様に夢中になり、彼に憧れるその姿を見て、俺の胸の奥底に押し込めていた感情が刺激された。それは、見捨てられる恐怖、嫉妬、そして遠の昔に諦めた恋の苦しさが入り混じったものだった。
ソフィアの心がエドモンド様に向かうたび、俺は自分がさらに孤立していくように感じた。
ソフィアが頬を赤く染め、ぼんやりとした表情で立ち尽くしている。彼女の顔に浮かぶ、明らかな戸惑いと何かを思い出しているかのような表情が気にかかる。
「ソフィア、どうしたんだい?具合でも悪いのか?」
彼女はふと我に返り、少し慌てた様子で答えた。
「あ、ウィリアム、違うの。実は、さっきフローリアに会いに行って、私たちの手伝いをお願いしてきたの」
「そうなんだ、言ってくれれば、一緒に行ったのに。それで、フローリアは何て?」
ソフィアの表情が曇り、唇をかんだ。
「それがね、断られちゃったの…フローリアが私たちを見捨てるなんて、思いもしなかったわ」
「断った?フローリアが?」
ソフィアのお願いは、何でも聞いてきたのに?
「そうなの、定時に帰っているらしいから、時間はあると思うのだけれど…。困っているって伝えたのよ。フローリアが同期としての絆をあんなにも簡単に手放すなんて、意外だったわ。私たち仲良くしてきたと思っていたのに」
「全くだ。自分がいなくなって困っている俺たちを、馬鹿にしてるんじゃないか?」
「さすがにそれは…。それでねフローリアの上司の方に、室長を通すように言われて」
はぁ?大げさだな。
「室長か、厳しいかもな。はぁ…これじゃ、洗髪料開発も進展しないし、俺たちのプロジェクトも危ういかもしれない。」
「ねえ、そんなことよりウィリアム、第三騎士団の副団長のこと、知ってる?」
そんなこと?何言ってんだ?
「…エドモンド様のことか?もちろん知っているさ。彼は平民で騎士団に入り、今じゃ副団長で男爵だ。あの人の功績は誰もが認めるところだよ。まさに平民の星だ。俺も薬師として名を挙げて、いずれ貴族に…」
尊敬を込めて語るエドモンド様のことを、ソフィアは目を輝かせて聞いていた。
「そうなのね!エドモンド様、顔立ちは端正なのに、彼の鋭い眼差しとたくましい体躯には、力強さと優しさが溢れていたの。フローリアを守る姿なんて、まるで童話の騎士様みたいだったわ」
彼女の言葉には、まさに恋する乙女の純粋な憧れと喜びが滲んでいた。まさか…
「全てが光り輝いて見えたの。一目ぼれってあるのね。副団長ならまだ功績をあげる機会があるわ。爵位が上がれば…身分も釣り合う。うわぁ、どうしよう」
***
ソフィアは、完全に研究をおろそかにするようになってしまった。暇さえあれば、いや、暇なんかないはずだが、第3騎士団の練習場に足を運び、エドモンド様を見つめているらしい。そんな彼女の様子に、俺は、内心ため息をつくことしかできなかった。
「室長に怒られるのは俺だっていうのに…」
心には焦りが広がり、不安が再び押し寄せてきた。
俺は、平民として生まれ育ち、必死で勉強しながら学院に通う日々が続いた。
その努力が実を結び、ソフィアと仲良くなり、宮廷薬師としての道を開くことができたのは、幸運としか言いようがなかった。ソフィアの家の力も大きかったと思う。貴賤を問わないという建前があっても、実際には平民が宮廷薬師として認められることは、ここ何十年もなかったのだ。ソフィアが口添えを父親に頼んでくれたに違いない。
しかし、「一人辞めさせる」という噂を聞いたとき、俺の胸は重くなった。
平民は俺だけ。
不安が胸をよぎり、このままいけば間違いなく自分がその一人になってしまうのではないかという恐怖が襲ってきた。
周囲には貴族の出身者ばかりが集まり、俺だけが場違いだと、ひしひしと感じていた。
フローリアがその優秀さを発揮して、独学で宮廷薬師として採用されたのは知っていたが、自分が宮廷薬師として居続けるためには、フローリアを蹴落とすしかなかった。伯爵家の令嬢であるソフィアが首になることはないだろうし、貴族社会の常識がそれを保証している。
だから、俺はフローリアが自分の仕事をうまく回せなくなるように先輩たちをさりげなくけしかけ、彼女を忙殺させることで自分の立場を守ろうとした。そうすることで、フローリアがミスをする可能性を高めたかったのだ。さらに、共同研究をソフィアに提案し、手柄がソフィアと俺に行くようにした。
フローリアにはその影さえ踏ませないように…。
しかし、元平民の騎士副団長に恋するソフィアの話を聞いたとき、心に複雑な感情が渦巻いた。
ソフィアがエドモンド様に夢中になり、彼に憧れるその姿を見て、俺の胸の奥底に押し込めていた感情が刺激された。それは、見捨てられる恐怖、嫉妬、そして遠の昔に諦めた恋の苦しさが入り混じったものだった。
ソフィアの心がエドモンド様に向かうたび、俺は自分がさらに孤立していくように感じた。
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