【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩

文字の大きさ
10 / 38

10.小さな綻び sideソフィア

しおりを挟む
sideソフィア

「みんなちょっと集まってくれ」

作業中の手を休め、皆が顔を見合わせる。何事か?といった緊張感が漂う中、室長が少し厳しい顔をして話し始めた。


「実は、第1騎士団から、ポーションの効きが悪いとの苦情が入った」

効きが悪い?ここに来てから、そんな苦情は一度も聞いたことがないわ。


「確かに新しい部門が立ち上がり忙しくなったのはよくわかる。人員も一人減ったしな。しかし我々は宮廷薬師だ。薬づくりに手を抜いてもらっては困る。量を確保するだけではだめなのだ。プライドを持って品質を保ってほしい」

室長の言葉に、周囲の空気が一層ピリピリとした。「手なんか抜いてないわよね」と先輩たちが不満げにぶつぶつと呟く声が聞こえた。


「とにかく励んでくれ。それとソフィアとウィリアムには、別の話がある。私についてきてくれ」


別の話?戸惑いながらも室長に従いついていく。


***


室長室に到着し、ソファに腰を掛けると、室長は少し言いにくそうな表情で話を続けた。


「あー、立ち上げたばかりで、まだ軌道に乗っていないのだろうが、王妃様から催促が来てな」

どうやら、洗髪料のことのようね。私たちは静かに耳を傾ける。


「今までは、肌に塗るものだったから勝手が違うのはわかるが、立ち上げた美容部門の最初の製品となる。急ぎつつも王妃様の満足できるものを作らなくてはいけない。目途は立っているのだろうか?」

「ええ、ソフィアと相談して材料は決まっております。髪の栄養となるものをふんだんに取り入れるつもりです」


ウィリアムが自信を持って答えると、室長の顔にも安堵の色が広がった。でも…


「ただちょっと配合が難しくて時間がかかっているのですわ。分離してしまったり、効果を打ち消してしまったり…」

ああ、こんなときにフローリアがいれば…と心の中で呟く自分がいる。でも、フローリアはもういない。もう頼るべきではないわ。


「とにかく最初からつまずくわけにはいかない。主任と副主任として頑張ってほしい」

室長の言葉に、頷き作業室に戻る。



***




作業室に入ると、慌てた様子の先輩が駆け寄ってきた。

「あ、ねえねえ、ウィリアム。今日、夜の当直代わってくれない?」

ウィリアムは少し困った顔をして答えた。


「すみません。私は平民ですので、高価なものがあるここで、当直はできないことになっています」

採用に貴賤は問わないのに、万が一のトラブルを避けるためという理由で、平民に当直は割当たっていない。その決まりは、少し失礼だと私は思わざるを得ないが、当のウィリアムは、当直がなくてラッキーだよと言っている。


「じゃあ、ソフィアは?」

「すみません、私は決められた日以外は父の許可が出ませんので、急には…」

先輩は肩を落として嘆息する。


「そうよね、ああ、困ったわ。いつもは、フローリアがやってくれていたから。ねえ、誰でもいいから今日当直できる人いない?」


そういえばフローリア、夜の当直が多いような気がしていたけど、代わってあげていたのではなくてやってあげていたの?フローリアが断れないのを分かっていて、誰もが当たり前のように頼っていたのね。

ひどい!今更だけど、フローリアをいいように利用していた先輩たちに少し腹立たしさを覚えるわ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

処理中です...