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4.報われない努力
しおりを挟むいつものようにそっと作業室に入ると、ソフィアは、周りからの視線が集中する中で、頬を赤らめながら賛辞を受けていた。
毎度のことだけど、あの視線に耐えられるなんてすごいわ。
「ソフィア、すごいわ!あなたまた、王妃様に直々に褒められたと聞いたわよ。美容に関してあなたの横に立てる人なんていないわね」
一人の先輩が興奮気味に声をかけている。
「でも、いつも言っているのですが、私ひとりの手柄じゃないです。ウィリアムはもちろん、今回も特にフローリアが頑張ってくれましたの」
「またまた、謙遜しちゃって。フローリアが美容に興味あるわけないじゃない。あんなにボサボサの髪で、肌艶って言うか、顔色だっていつも悪いし。分厚い眼鏡をかけてるだけで、アクセサリーの一つも付けないじゃない」
その通りですけど、本人がいるのだから聞こえないように言ってほしい…。ため息をつきながら、静かに薬草をすりこ木でつぶす。
「先輩!フローリアを悪く言うのはやめてください!確かに美容に興味はないと思うけど、薬草の知識や実験でいつも助けてくれて…。薬師は見た目じゃないと思います!」
助けてくれる?見た目じゃない?
自分が庇われているのだと理解したものの、その表現がどこか腑に落ちない。そう思ったけど、表情には出さず、淡々と薬草をつぶし続けた。
「そ、そうね。言い過ぎたわ。とにかく王妃様の要望もあって、室長が美容の部門を作るらしいわよ。ソフィアが主任だったりして」
ソフィアの様子の戸惑った先輩が、話題を変えるように付け加えた。
「そんな、私なんか」
ソフィアは謙遜しながらも、心のどこかでその話にまんざらでもない様子を見せた。彼女なら確かに適任だろう。
美容部門か…仕事が増えないことを祈るのみ
***
「え?首ですか?」
信じられない言葉を耳にし、思わず問い返した。
「首というか、そうだな。フローリアには悪いが、君には辞めてもらうことになった」
室長は淡々とした口調で告げた。冷たい現実を目の前に突きつけられた気分だ。
室長が大事な話があると言うから来たのに、まさかこんなことが…
頭の中で繰り返し理由を考えていたが、何も思いつかない。現実を受け入れるのが難しかった。
「な、なぜですか?私、何かしましたか?」
声が震える。これまで一生懸命に働いてきたのに…。突然の通告はあまりにも理不尽だ。
室長は少しだけ目を伏せ、ため息をつく。
「何かしたというか、何もしなかったというか‥‥」
採用された時、自分から辞めると言わない限り、永年雇用だと思っていた。そんな安心感があったからこそ、日々の辛くても努力を重ねてきたはずだった。それが、こんな形で終わりを迎えるとは夢にも思っていなかった。
「実はな、君も聞いていると思うが、この度、王妃様の要望で本格的に美容部門を作ることになった。君たちが採用されてから、間もなく1年が経つのだが、宮廷薬師たちの腕も着実に上がっている。ポーションをはじめとした薬の質も向上し、量も十分確保できている」
室長は説明を続けた。
彼の言葉を必死に理解しようとしていたが、その意味がじわじわと重くのしかかる。
「つまり…」
「一人人員を削減しても、十分仕事が回るということだ。その分のお金を新しい部門を立ち上げる予算にまわしたい」
「っ!なぜ私なのか、お聞きしても…」
心の奥底で、なぜ自分なのかを問い詰めたい気持ちと、理解したくないという気持ちがせめぎ合っていた。
「はぁ、君は、ノルマのポーションの納品が遅れがちだ。こう言ったらなんだが、他の薬師とのコミュニケーションも十分とは言えないだろ?それに、高価な薬剤の使用履歴もあるのだが、これといった成果物がない。薬品開発の実験に使うことは認めれているのだから、使うなとは言わないが…」
「それは…」
反論したかった。先輩たちのポーションを優先して作っているから納品が遅れるのだと、高価な薬剤も美容関係に使っているから成果物が見えないだけで、それらの努力は全て代表者のソフィアの名前で報告されているだけだと。でも、コミュニケーションは…言葉が喉に詰まり、思うように声が出なかった。涙が、目から溢れ出てくる。
「とにかく、これは決定事項だ。急で悪いが、荷物をまとめたら出て行ってもらいたい。勤めている期間が短いので退職金も多くないと思うが、財務に寄って手続きをするといい。では」
室長は用が済んだとばかりに退出させようとした。
室長室を出て呆然としたまま、長い廊下を歩く。頭の中は真っ白で、考える余裕もなく、ただ足が自分を研究室へと運んでいた。そこにたどり着いても、しばらくぼーっとして、現実感がまったく伴わなかった。
「ああ、出て行くんだった…荷物をまとめないと…」
夕暮れに差し掛かった頃、ようやく自分に言い聞かせるように呟いた。
手つかずの薬の開発、新種の薬草の効用調査、後回しにしていたやってみたかったことが山のようにあった。一つずつ、それらを片づけていく度に、胸には悔しさと無力感が募っていった。
「一生懸命頑張ったのに、なんで…」
努力が報われなかった…。涙が次々と溢れてきて、止まらなかった。視界は、滲んだ涙でぼやけていたが、それでも手は止めずに作業を続けた。
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