【完結】悪気がないかどうか、それを決めるのは私です

楽歩

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1.宮廷薬師です

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「えーと、今日は手つかずの書類整理と…頼まれていたポーションづくり、あ!足りなくなっていた薬草の採取にも行かないといけないわ…はぁ…1日が48時間あるといいのに…」


溜息をつきながら、机の上に積まれた書類を見つめた。
山のように積み重なった書類が、私の心を圧迫する。終わらない仕事はない…そう自分に言い聞かせても次から次へと来る仕事。


「今日は絶対、ソフィアに見つかりませんように…」
心の中で祈りながら、私は立ち上がった。

**********


栄えある宮廷薬師、それが私の職業だ。


我が国では、身分を問わず、宮廷薬師試験は完璧な実力主義で行われる。身分はもちろん学歴も男女の別も問わないのは他国から見ても珍しい。まあ、大体は、学院を優秀な成績で出ている者が採用されるのだが。


子爵家の三女だった私は、小さい頃から植物が大好きで、とにかく暇があれば、本を読んだり採取をしたりしてきた。曾祖母が有名な薬師だったこともあり、家にはたくさんの薬学の本があった。私が興味を持ち、残した書物や実験器具を使い、独学で学び出したのは、必然と言えよう。

幸い我が家も、私が末っ子ということもあり好きなことをさせてくれたのだが、あまりにも人と関わることなく熱中しすぎて、人見知りが激しくなってしまったことは幸い中の不幸だ。


子爵家にしては、裕福な方で、三女の私も学院に行かせてくれると言われたのだが、知らない人の中で生活することを想像しただけで、涙が出てしまい諦めた。幸い、両親は家庭教師を雇ってくれたので、基本的な学習やマナーなどは問題ない。でも、薬学の教えを乞う機会を失ってしまった後悔はずっとあった。


世の中の令息令嬢が学院を卒業する年齢となったある日、お母様から切り出されてしまった。


「ねえ、フローリア。あなたに、たくさん縁談が届いているんだけど、どうしたい?」

ついに来てしまった…。三女ですもの、ずっと実家に、というのは無理だもの。


「希望が叶うのでしたら…薬学を続けてもいいという家がよいのですが…」


「…まあ、聞いてはいないけど。無理でしょうね」


やっぱり…。


「うちはね、フローリア。特に無理して縁を結ばなきゃいけない家もないの。金持ちの高位貴族が親類なんて気を遣うじゃない?だから、薬学をやりたいのなら、宮廷薬師を目指したらどうかしら?」


一番上のお姉様は侯爵家次男を婿に迎え、2番目のお姉さまは、伯爵家へ嫁入りをする。身分が下の子爵家なのだが、お義兄様になるお二人は、お姉様たちに惚れまくっているらしく、とにかく必ずお姉さまたちを守るから是非結婚を、ということで話が付いたそうだ。

侯爵家と伯爵家…お二人とも十分高位ですがお母様…。いいえ、きっと私のためを思ってこんなことを言ってくれているのね。


「お父様に話をしたら、人見知りのフローリアが、外で働くなんて無理だと、青ざめていたけど、私は外の世界を見るのはフローリアにとって良い経験になると思うの。学院にも行かせてあげられなかったし」

「…お母様、ありがとうございます。ぜひ挑戦させてください。駄目なら、お母様たちが選んだ方と結婚いたしますわ」



独学の私が、どの程度通用するのかが分からなかったが、努力の甲斐があり王宮の薬師試験に見事合格することができた。そう、必死で手に入れた職、一生薬学に関わっていける喜び。だから、どんなに忙しくてもこの職を手放すわけにはいかないのだ。



ソフィア・マイヤー伯爵令嬢と平民のウィリアムは、同じ年に採用された同期。ソフィアは裕福な伯爵家の一人娘でありながら、大好きな薬学で自分の力を試したいと薬師になったそうだ。ウィリアムは、ソフィアと同じ学院に平民に用意された特待生制度を使って通っていたそうだ。卒業時に、仲の良かったソフィアに誘われ薬師になったという。




王宮内で特別に作られている様々な薬草を使った治療薬の調合や、王族の健康管理。毎日が学びと挑戦の連続で、失敗は許されない。
薬師になったばかりのころは、日々の業務の中で、お互いに助け合い、励まし合うことで成長してきた。2人とは研究の進め方や新しい治療法について意見を交わすことが多く、その度に新たな発見があった。ソフィアの独創的なアイデアは、時には私の常識を覆すこともあるが、それがまた刺激となり、私自身の成長にもつながった。


ああ、そんな風に充実感と喜びに満ちていた日々も確かにあったのだが…



『せっかく同じ年に採用されたのだから仲良くしましょう!そうだ!共同で薬の開発なんて素敵じゃない?』


身分は関係ないとはいえ、伯爵令嬢に言われたら断れるわけがない。まだ、通常の業務にも慣れていない時期に始まった共同開発。これが、私を苦しめている…


**********


「すごいわ!ソフィア!あなたの作った化粧水。王妃様のお気に入りなんですって?」



採取の道具を持ち出すためそっと入った研究室。窓からは柔らかな陽光が差し込み、植物の香りが漂う。他の王宮薬師に囲まれ、ソフィアは賑やかな輪の中心に立っていた。机の陰から見たソフィアは、少し頬を赤らめ、微笑みを浮かべている。


「そんな。私一人の力じゃないわ。フローリアとウィリアムと私。同期の3人の共同開発よ」


彼女の言葉に、彼女の隣で実験器具を整理していたウィリアムも微笑む。


「そんな、謙遜しないで。あなたがアイディアを出しているんでしょ?画期的なアイディアを出せる人が一番すごいのよ!!ああ、羨ましいわ、その才能」


先輩たちの言葉に、ソフィアは思わず笑顔をこぼした。


「そんな…私の思い付きを形にしてくれる2人がすごいのよ。特にフローリアは、私のこうなったらいいなを絶対に形にしてくれるの。あ!そうだフローリア。この前言っていた美容液で、いいアイディアが浮かんだの。3人でこれから打ち合わせをしましょう!!」



え?ああ、こっそり部屋から出ようとしていたのに、いつの間か見つかっていた…。聞き耳なんか立てずに、さっさと出ていればよかったわ…



『この薬草の効能いいわね!サマティヌ地方か…ねえフローリア、薬草採取お願いできるかな ?』『もう少し香りにこだわってほしいんだけど、あと5パターン考えてくれる?』『なんか、思っていたのと違う。』『もっと、肌に張りが出るといいわよね。』『シミも薄くできるとよくない?』『大丈夫、諦めなければきっと成功するわ!』





通常の業務がある中、ソフィアのアイディアを形にするため徹夜で作業を行ったのは一度や二度ではない。

甘え上手で、明るくて前向きなソフィア。手柄を独り占めすることもない。それなのに、なぜだろう。いつも心のもやもやが晴れないのは…



…ソフィアのアイディア。今回は無茶ぶりでなければいいけど…
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