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10.食べたいのは野菜 side スヴェイン
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side スヴェイン
騎士団の食堂は昼の活気に満ちていた。
木製の長いテーブルと椅子がずらりと並び、団員たちが思い思いの席について食事を楽しんでいる。湯気の立つ料理の香りがあちこちから漂い、笑い声や食器の音が絶えない。
俺が座った席の目の前には、こんがりと焼かれた肉が山盛りに盛られた皿が置かれている。その横に飲み物が添えられてはいるが、そこには野菜の影は見当たらない。
「おお、スヴェイン。お前も昼食か?」
威厳ある足音が近づき、朗らかな声が響いた。団長がやってきたのだ。その声には親しみがにじんでいて、どこか兄のような安心感がある。
「ああ、少し遅くなったがな」
俺は皿に視線を落としながら答えた。
「ん? 珍しいな。肉ばっかりじゃないか。野菜はどうした?」
団長が不思議そうに眉を上げるのを感じる。
確かに、俺が野菜好きなのを知っているこの従兄には、目の前の皿は意外だったのだろう。
いや、俺だって肉が嫌いなわけじゃない。体を作るためにはバランスよく食べることが大事だと分かっているし、実際、肉も好きだ。だが……。
シャキシャキとしたレタス、みずみずしいトマト、香り高いルッコラ。軽く蒸したブロッコリーや、オリーブオイルでさっと炒めたズッキーニのほろ苦い風味……。そう、俺には野菜のほうが魅力的に思えるのだ。
だから、今目の前にある皿には、どこか物足りなさを感じている。
「いや、この前、王女付きの近衛の隊員たちにな、『スヴェイン隊長は、もっと豪快な肉食派だと思っていました』と笑いをこらえるように言われてな」
苦笑しながらそう告げると、団長は驚いたように目を丸くした。
「失礼な奴らだな。王女付きの隊長には俺から一言言っておく。だが、そんなこと気にしなくてもいいだろう?」
「……そしたら俺のとこの隊員が、『豪快な肉食派に決まってんだろ! 辺境伯家だぞ!』って食って掛かってな。はぁ……。無用な争いを避けるため、ここの食堂では肉ばかり食うようにしているんだ」
話しているうちに、ため息が漏れた。
そんな些細なことで余計な衝突が起きるのは馬鹿らしい。とはいえ、実際に起きてしまった以上、仕方がない。
「はぁ? 辺境伯家、関係ないだろう? お前のとこの隊員、馬鹿なのか?」
団長は呆れたように笑う。
「……お前の団の団員でもある」
淡々と返すと、団長は一瞬言葉を失い、その後、微妙な表情を浮かべた。
「あー……、この話、レティシア嬢には?」
レティ?
「あまり格好のいい話ではないからな……」
「おお、珍しく言っていないのか。それでいいと思うぞ」
「いや? レティは俺の顔色がいつもより悪いと言って心配してくれたから、言わないつもりだったが、つい言ってしまった」
彼女の繊細な優しさを思い出し、自然と苦笑が浮かぶ。野菜好きだと知った彼女は、家の商会で珍しい野菜を取り扱うようにまでしてくれた。王都の俺の邸にも、遠く離れた辺境伯領にも、新鮮な野菜を送ってくれている。
『野菜の何が悪いのです? おいしさが分からないなんて、碌な野菜を食べたことがないのですね』
そのときの毅然とした彼女の声を思い出し、胸の奥が温かくなる。彼女は俺のために怒ってくれたのだ。
『そうか、レティシア嬢は知っているのか……。今度は何をやるんだ?』
なぜか遠くを見ながら、小さな声で独り言を言う団長。
「……何か言ったか?」
「いや、気にするな。……安心しろ、スヴェイン。きっとすぐここでも心置きなく野菜が食べられるようになるぞ」
「あ、ああ、そうだといいな」
その言葉が慰めなのか何なのか、俺には分からない。
ただ、団長がすごく含みのある笑顔を浮かべていたことだけが、少し気になった。
騎士団の食堂は昼の活気に満ちていた。
木製の長いテーブルと椅子がずらりと並び、団員たちが思い思いの席について食事を楽しんでいる。湯気の立つ料理の香りがあちこちから漂い、笑い声や食器の音が絶えない。
俺が座った席の目の前には、こんがりと焼かれた肉が山盛りに盛られた皿が置かれている。その横に飲み物が添えられてはいるが、そこには野菜の影は見当たらない。
「おお、スヴェイン。お前も昼食か?」
威厳ある足音が近づき、朗らかな声が響いた。団長がやってきたのだ。その声には親しみがにじんでいて、どこか兄のような安心感がある。
「ああ、少し遅くなったがな」
俺は皿に視線を落としながら答えた。
「ん? 珍しいな。肉ばっかりじゃないか。野菜はどうした?」
団長が不思議そうに眉を上げるのを感じる。
確かに、俺が野菜好きなのを知っているこの従兄には、目の前の皿は意外だったのだろう。
いや、俺だって肉が嫌いなわけじゃない。体を作るためにはバランスよく食べることが大事だと分かっているし、実際、肉も好きだ。だが……。
シャキシャキとしたレタス、みずみずしいトマト、香り高いルッコラ。軽く蒸したブロッコリーや、オリーブオイルでさっと炒めたズッキーニのほろ苦い風味……。そう、俺には野菜のほうが魅力的に思えるのだ。
だから、今目の前にある皿には、どこか物足りなさを感じている。
「いや、この前、王女付きの近衛の隊員たちにな、『スヴェイン隊長は、もっと豪快な肉食派だと思っていました』と笑いをこらえるように言われてな」
苦笑しながらそう告げると、団長は驚いたように目を丸くした。
「失礼な奴らだな。王女付きの隊長には俺から一言言っておく。だが、そんなこと気にしなくてもいいだろう?」
「……そしたら俺のとこの隊員が、『豪快な肉食派に決まってんだろ! 辺境伯家だぞ!』って食って掛かってな。はぁ……。無用な争いを避けるため、ここの食堂では肉ばかり食うようにしているんだ」
話しているうちに、ため息が漏れた。
そんな些細なことで余計な衝突が起きるのは馬鹿らしい。とはいえ、実際に起きてしまった以上、仕方がない。
「はぁ? 辺境伯家、関係ないだろう? お前のとこの隊員、馬鹿なのか?」
団長は呆れたように笑う。
「……お前の団の団員でもある」
淡々と返すと、団長は一瞬言葉を失い、その後、微妙な表情を浮かべた。
「あー……、この話、レティシア嬢には?」
レティ?
「あまり格好のいい話ではないからな……」
「おお、珍しく言っていないのか。それでいいと思うぞ」
「いや? レティは俺の顔色がいつもより悪いと言って心配してくれたから、言わないつもりだったが、つい言ってしまった」
彼女の繊細な優しさを思い出し、自然と苦笑が浮かぶ。野菜好きだと知った彼女は、家の商会で珍しい野菜を取り扱うようにまでしてくれた。王都の俺の邸にも、遠く離れた辺境伯領にも、新鮮な野菜を送ってくれている。
『野菜の何が悪いのです? おいしさが分からないなんて、碌な野菜を食べたことがないのですね』
そのときの毅然とした彼女の声を思い出し、胸の奥が温かくなる。彼女は俺のために怒ってくれたのだ。
『そうか、レティシア嬢は知っているのか……。今度は何をやるんだ?』
なぜか遠くを見ながら、小さな声で独り言を言う団長。
「……何か言ったか?」
「いや、気にするな。……安心しろ、スヴェイン。きっとすぐここでも心置きなく野菜が食べられるようになるぞ」
「あ、ああ、そうだといいな」
その言葉が慰めなのか何なのか、俺には分からない。
ただ、団長がすごく含みのある笑顔を浮かべていたことだけが、少し気になった。
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