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6.鍛え上げられた大柄な体と鋭い眼差し sideスヴェイン
しおりを挟むsideスヴェイン
「隊員にもようやく自覚が生まれたようで、本当に嬉しい」
厳しい訓練を終えた隊員たちの顔には、困難に何度でも立ち向かうそんな覚悟が刻まれていた。その真剣な眼差しに、俺の胸は熱くなる。これこそが騎士のあるべき姿だ。誇りを抱かずにはいられない。
「……レティシア嬢には伝えたのか?」
感動に浸っていると、団長が声をかけてきた。
「ああ、これからレティに会うから、その時伝えようと思っている」
「そうか。隊員たちの心の安寧のためにも、是非そうしてやってくれ」
心の安寧?
「それはそうと、レティシア嬢とは、婚約してもう1年経つのだったな?」
「ああ。レティの卒業を待って婚姻する予定だ」
今年、最終学年のレティは18歳となる。彼女の学院生活には、華やかな若い令息たちが数多くいただろう。
それでも彼女は変わらず俺を想い続けてくれた。その一途さに、感謝の念を抱かずにはいられない。
「婚約の際、お前の父上と母上が泣きながら喜んでいたのを覚えているぞ」
団長が懐かしそうに笑みを浮かべる。
「ああ。俺より、お前のような綺麗な顔が、令嬢たちには好まれるからな。もっとも俺は次男だし、特に結婚に期待される立場でもなかったから、泣かれるのは意外だったが……心配はされていたんだろう」
苦笑が漏れる。
鍛え上げられた大柄な体と鋭い眼差し。令嬢たちには恐れられるのも無理はないと自覚している。
*****
レティと初めて会ったのは、第二王子とその側近たちが婚約者を選ぶために開かれた華やかなお茶会だった。
緑豊かな庭園に設えられたその場には、高貴な家柄の令息令嬢たちが集い、優雅に微笑みながら談笑を繰り広げていた。
護衛として同行した自分にとって、そんな社交の場はどうにも馴染めない。団長からの命令とはいえ、煌びやかな雰囲気の中で鎧姿のまま立つのは、妙に居心地が悪かった。
16歳前後の若々しい貴族の子女たちは、まるで陽光を浴びた花々のように輝いている。そのきらびやかさが、荒野や戦場で過ごしてきた自分にはどこか眩しすぎて、思わず目を細めてしまう。
ちらほらと向けられる好奇心や警戒の入り混じった視線にも気づく。自分がこの場の華やかさとは異質で浮いていることは、誰の目にも明らかだった。
そんな中、ふと目に留まったのは、庭園の一角にいる一人の令嬢だった。
他の令嬢たちが輪を作り楽しげに話している中で、彼女は少し離れた場所に座り、優雅にティーカップを傾けている。
繊細なレースのドレスをまとったその姿は、まるで咲き誇る一輪の花のようだった。しかし、その瞳にはかすかに憂いが宿り、彼女を一層印象的にしていた。
紅茶を楽しみながらも、どこか遠くを見つめている令嬢。その姿は、彼女が貴族たちの輪から距離を取っているようにも、あるいはその輪から外されているようにも感じられた。
――第二王子のもとに向かってもおかしくないほどの美しい令嬢だというのに。
なぜ彼女はあの輪に入らないのだろうか。
気づけば、自分の視線が彼女に引き寄せられていた。
やがて、令嬢のテーブルのそばを違う令嬢が通りすぎる。すると、そのスカートの裾がテーブルに触れ、ティーカップが揺れるのが目に入った。
瞬時に動き、落ちかけたカップを片手で受け止める。
「お怪我はありませんか?」
令嬢が驚いた表情で顔を上げる。
鋭い眼差しが怖かっただろうか、と少し不安になる。
「まぁ! ありがとうございます」
柔らかな微笑みが向けられると、思わず視線をそらしてしまった。戦場で敵と対峙しても動じなかった自分が、こんなにも動揺するとは……。
「騎士様、お名前を伺っても?」
「スヴェイン・クレシーと申します。第2王子殿下の近衛隊長を務めております」
「私は、レティシア・ロランと申します。頼もしい方がそばにいらっしゃって安心ですわ」
ロラン子爵家のご令嬢か。彼女の丁寧な言葉に、ぎこちなく頷く。令嬢は再び微笑み、優雅に礼をして席に戻った。
その場を離れても、彼女の姿と妖精のような微笑みは胸に焼き付いていた。
彼女は10歳ほど年下だろうか。俺など恋愛対象ではないだろう……。それにこの見た目だ。ただ感謝のために微笑んだだけ……。
思いを抱くことは許されないと頭では理解しているのに、彼女の姿がどうしても頭から離れなかった――。
*****
「スヴェイン様、お待たせしましたわ」
澄んだ声と共に現れたレティが、優雅な微笑みを浮かべながら近づいてくる。
「真剣なお顔をしていらっしゃいますが、何か考えごとですか?」
「レティ。君のことを考えていたんだよ」
「スヴェイン様ったら。ふふ、嘘でも嬉しいですわ」
レティはほんのり頬を染め、楽しそうに微笑む。その姿を見て、団長が苦い笑いを漏らした。
嘘ではないのだが……。
「レティシア嬢、スヴェインは、隊員たちが訓練に励むようになって本当に嬉しいと言っていたぞ。よかったな」
「それは素晴らしいですわ!」
「ああ、詳しいことは二人で話すといい。私は用事があるからこれで失礼する」
団長は、挨拶もそこそこに立ち去った。
「スヴェイン様が嬉しいと、私も嬉しいですわ」
レティは本当に嬉しそうに目を輝かせている。
「ああ、レティの言った通りだったよ。思いは通じるものだな」
「ええ、そうですわ。隊員様たち、全員意欲的なのですか?」
「驚くことに全員だ。今日は今までで一番充実した訓練だった。もっとも、三日坊主で終わらなければいいがな」
「大丈夫ですわ」
レティがにっこりと微笑む。
「きっと皆様、自分や家族を守るためには、訓練が必要だとお分かりになったのですもの」
「そうだな。力がすべてではないが、騎士の本分は守るために戦うことだ。レティは本当にいいことを言うな。さすがだ!」
「スヴェイン様ったら、ほめ過ぎですわ」
レティは少し恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうにくすりと笑った。
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