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怠惰
平成32年
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前回でもチラッと述べたが、卒検とは中々に運ゲー要素が強い。
えぇ、今それくる?と言いたくなるような不運なトラブルイベントの多くに私も教習官もヤキモキした挙句、教官には駐車試験の際にえらく煽られるという事態に発展した。キレられたんじゃない。注意されたんじゃない。なんか煽られたのである。
最終的にはお互いなぜか喧嘩越しに近い口調になり合いながらも、なんやかんやでなんとかギリギリ卒検を突破した。後は残すのは学科試験のみ。運転免許取得へのカウントダウンを始める事はなんとか出来た…のが前回までの話だ。
京都の運転免許試験場はまあまあとんでもない辺境地にある。凄く行きにくい上に、文字通り何にも無い…コンビニさえも無いようなところに行かなくてはならない。だからその分、絶対に「2度目の試験」を受けたくない…というよりは「2回もあんな場所に行きたくない」という想いからからみんな真剣に一発合格を目指すのだ。私自身も、安易にとりあえず行っとけみたいなテンションで受けに行く事はせず、対策して確実に受かるだろうという状態にしてから試験会場に向かおうと思っていた。
しかし、である。
別にいつまでも自信が無かった訳ではない。
ただ慎重に試験を受けに行く日を考えているうちにまたしても期限ギリギリの半年近い月日が経ったのである。
簡単に言うと、秋に卒検を終えた私は気付いたら冬を超えていたのである。11月に卒検を終えた私に与えられた期間はやはり半年。5月までだ。それが気がつけば2017年が終わってしまっていた。2018年になっていた。ガンバ大阪の監督は長谷川健太からレヴィー・クルピになっていた。サンガの監督は布部陽功のままだったけど…。
いよいよ慌てて試験場へと向かった。
慌てる…慌ててばっかだな、この教習生活…。
一つ決めてる事というか、こういうタイプの試験の時に絶対に避けたい事がある。
私はこのテの試験の場で、絶対に知り合いに会いたくない。そして友人と一緒に行きたくもない。一人でも行けるとかじゃなくて、一人で行きたいのだ。
例えば2人で一緒に行ったとして、2人とも合格か2人とも不合格ならば別に良い。あー、良かったね、あー、残念だったね…のどちらかで済むからだ。問題はどちらかが落ちた場合である。自分が落ちる立場でも気まずいし、自分だけ受かったパターンでもまた別種の気まずさが身を苛む。どっちでも地獄である。
だから基本的にこのような即日結果が出るタイプの試験のは一人で行くようにしていた。
仮に、全く同時期に学科試験を受ける友人がいたとして「せっかくだし一緒に行こう」なんて絶対に誘わないし、誘われたとしてもやんわり断ると思う。
試験会場へ向かうバスの停車場、いきなり知り合いに出会う。
頭を抱えても遅い。
この知り合いは高校以降は疎遠だったとはいえ昔所属していたサッカークラブのチームメイトという関係でもある。小中の同級生だし、面識どころか絡みもあった。なんなら親同士も知っているような間柄である。となれば、「じゃ!」と言って去るのもそれはそれで…というややこしい事態に発展するのだ。……結果、プランはいきなり崩れ、結局彼と共に受験会場に向かう事になってしまった。頼む、どっちも受かってくれ。或いはどっにも落ちてくれ。受験料を振り込み、試験のゴングが部屋に鳴り響く。
試験が終わる。
即日結果発表とはいえ、結構な人数が一気に受験しているのだ。結果を出すにはそれなりの待ち時間は当然発生する。その間、待ち時間で彼とラーメンを食す。これが結構長距離歩くのだ。だって周りに何もないから…。結果的には、ラーメンというよりもまあまあに遠い歩行距離で時間を稼いでいた。
試験が終わってから数時間、私も彼も共に合格を決めた。助かった。よかった。これでどちらかが落ちていようものなら……。
免許取得の手続きを待つまでの時間、我々の近くに女子3人組がいた。そのうちの一人は乾いた笑顔で「うん、おめでとう、先帰るね!お疲れ、また明日!」と気丈な笑顔で告げる。残る2人が「うん…」と、絶妙に気まずそうにしている。せめて2と1を逆にしてやってくれ…2人より地獄やぞアレ…。知人とこの光景を見ていると、遠目で見ているだけで気まずくなる。2人とも受かったし、時間も潰せたから彼と遭遇出来た事は良い方に転がったから良かったが、やはりこういうところにはこれからも1人で来るようにしよう…と強く思った瞬間だった。
合格者は写真撮影などを経て部屋に集められ、諸般の説明を受ける。
しかしここで事件発生。私、この日の財布には受験料と交通費ギリギリの金額しか入っていなかった。免許発行料の事を完全に失念していたのである。お金を下ろすにも、周りにはコンビニさえも無い。どうすればいいんだ……。
…ふと隣を見ると、ラーメンを共にしたよく知る顔がいる。あれだけ一人で行こう、知り合いに会いたくないと連呼しておきながら、偶然出くわした知り合いに金を借りる。あれだけ一人で行こう、知り合いに会いたくないと連呼しておきながら、知り合いと遭遇していなければ終わっていたという皮肉な展開に陥ってしまった。お世話になりました…。
手続きを終え、全員を集めて簡単な講習と説明が行われる。
部屋の中で教官の口調は妙にハキハキしていた。
彼は高らかに叫ぶ。
「いいですか!?」
「皆さんの免許証には『(有効期限が)平成32年まで』と書いてある事と存じますがぁっ!」
「平成32年は来ませぇぇぇぇん!!!!!」
時代は変わる。私はこれから車に乗るのだ。だって時代が変わるんだもの。車に乗っていなかった、免許を持っていなかった平成は終わる。私に平成32年は来ない。来るのは車を運転出来る令和2年なのだ。
しかしこの時はまだ知らなかった。次の元号が令和である事、そしてここからペーパードライバーへの道をまっしぐらに進み、平成32年を迎えようとしている事を…。
えぇ、今それくる?と言いたくなるような不運なトラブルイベントの多くに私も教習官もヤキモキした挙句、教官には駐車試験の際にえらく煽られるという事態に発展した。キレられたんじゃない。注意されたんじゃない。なんか煽られたのである。
最終的にはお互いなぜか喧嘩越しに近い口調になり合いながらも、なんやかんやでなんとかギリギリ卒検を突破した。後は残すのは学科試験のみ。運転免許取得へのカウントダウンを始める事はなんとか出来た…のが前回までの話だ。
京都の運転免許試験場はまあまあとんでもない辺境地にある。凄く行きにくい上に、文字通り何にも無い…コンビニさえも無いようなところに行かなくてはならない。だからその分、絶対に「2度目の試験」を受けたくない…というよりは「2回もあんな場所に行きたくない」という想いからからみんな真剣に一発合格を目指すのだ。私自身も、安易にとりあえず行っとけみたいなテンションで受けに行く事はせず、対策して確実に受かるだろうという状態にしてから試験会場に向かおうと思っていた。
しかし、である。
別にいつまでも自信が無かった訳ではない。
ただ慎重に試験を受けに行く日を考えているうちにまたしても期限ギリギリの半年近い月日が経ったのである。
簡単に言うと、秋に卒検を終えた私は気付いたら冬を超えていたのである。11月に卒検を終えた私に与えられた期間はやはり半年。5月までだ。それが気がつけば2017年が終わってしまっていた。2018年になっていた。ガンバ大阪の監督は長谷川健太からレヴィー・クルピになっていた。サンガの監督は布部陽功のままだったけど…。
いよいよ慌てて試験場へと向かった。
慌てる…慌ててばっかだな、この教習生活…。
一つ決めてる事というか、こういうタイプの試験の時に絶対に避けたい事がある。
私はこのテの試験の場で、絶対に知り合いに会いたくない。そして友人と一緒に行きたくもない。一人でも行けるとかじゃなくて、一人で行きたいのだ。
例えば2人で一緒に行ったとして、2人とも合格か2人とも不合格ならば別に良い。あー、良かったね、あー、残念だったね…のどちらかで済むからだ。問題はどちらかが落ちた場合である。自分が落ちる立場でも気まずいし、自分だけ受かったパターンでもまた別種の気まずさが身を苛む。どっちでも地獄である。
だから基本的にこのような即日結果が出るタイプの試験のは一人で行くようにしていた。
仮に、全く同時期に学科試験を受ける友人がいたとして「せっかくだし一緒に行こう」なんて絶対に誘わないし、誘われたとしてもやんわり断ると思う。
試験会場へ向かうバスの停車場、いきなり知り合いに出会う。
頭を抱えても遅い。
この知り合いは高校以降は疎遠だったとはいえ昔所属していたサッカークラブのチームメイトという関係でもある。小中の同級生だし、面識どころか絡みもあった。なんなら親同士も知っているような間柄である。となれば、「じゃ!」と言って去るのもそれはそれで…というややこしい事態に発展するのだ。……結果、プランはいきなり崩れ、結局彼と共に受験会場に向かう事になってしまった。頼む、どっちも受かってくれ。或いはどっにも落ちてくれ。受験料を振り込み、試験のゴングが部屋に鳴り響く。
試験が終わる。
即日結果発表とはいえ、結構な人数が一気に受験しているのだ。結果を出すにはそれなりの待ち時間は当然発生する。その間、待ち時間で彼とラーメンを食す。これが結構長距離歩くのだ。だって周りに何もないから…。結果的には、ラーメンというよりもまあまあに遠い歩行距離で時間を稼いでいた。
試験が終わってから数時間、私も彼も共に合格を決めた。助かった。よかった。これでどちらかが落ちていようものなら……。
免許取得の手続きを待つまでの時間、我々の近くに女子3人組がいた。そのうちの一人は乾いた笑顔で「うん、おめでとう、先帰るね!お疲れ、また明日!」と気丈な笑顔で告げる。残る2人が「うん…」と、絶妙に気まずそうにしている。せめて2と1を逆にしてやってくれ…2人より地獄やぞアレ…。知人とこの光景を見ていると、遠目で見ているだけで気まずくなる。2人とも受かったし、時間も潰せたから彼と遭遇出来た事は良い方に転がったから良かったが、やはりこういうところにはこれからも1人で来るようにしよう…と強く思った瞬間だった。
合格者は写真撮影などを経て部屋に集められ、諸般の説明を受ける。
しかしここで事件発生。私、この日の財布には受験料と交通費ギリギリの金額しか入っていなかった。免許発行料の事を完全に失念していたのである。お金を下ろすにも、周りにはコンビニさえも無い。どうすればいいんだ……。
…ふと隣を見ると、ラーメンを共にしたよく知る顔がいる。あれだけ一人で行こう、知り合いに会いたくないと連呼しておきながら、偶然出くわした知り合いに金を借りる。あれだけ一人で行こう、知り合いに会いたくないと連呼しておきながら、知り合いと遭遇していなければ終わっていたという皮肉な展開に陥ってしまった。お世話になりました…。
手続きを終え、全員を集めて簡単な講習と説明が行われる。
部屋の中で教官の口調は妙にハキハキしていた。
彼は高らかに叫ぶ。
「いいですか!?」
「皆さんの免許証には『(有効期限が)平成32年まで』と書いてある事と存じますがぁっ!」
「平成32年は来ませぇぇぇぇん!!!!!」
時代は変わる。私はこれから車に乗るのだ。だって時代が変わるんだもの。車に乗っていなかった、免許を持っていなかった平成は終わる。私に平成32年は来ない。来るのは車を運転出来る令和2年なのだ。
しかしこの時はまだ知らなかった。次の元号が令和である事、そしてここからペーパードライバーへの道をまっしぐらに進み、平成32年を迎えようとしている事を…。
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