13 / 22
二章 青藍の夢
銅色の時
しおりを挟む
少し、話をしよう。『物語の詩篇』と言う名の毒物の話だ。効果が弱く、短時間仮死状態にするというもので、駆け落ちの定番だった。尤も、そうと知っていれば対処は容易いもの。当然ながら解毒薬が作られた。次に出回ったのは『魔女の秘薬』と言う惚れ薬だった。無論、問題となったものである。効果は全くない。それにも関わらず、何故か口伝えて『効果あり』とされて人々は奪い合った。
「効果がない?」
村で作られていたのが何なのか、まるで知らなかったアレッシオにとっては初耳もへったくれもありはしないのだが、それでも奇妙な話だった。
「まったくない。そして、今回数人の死者が出た」
呆れたようなアレッシオに、ネーヴェは意地悪く笑むと、一つ質問をする。
「何故、私が2つの薬物の話をしたと思う?」
「へ?」
「今回死んだ者は、過去に『物語の詩篇』を口にしている。そして、ここが一番重要。…どちらもこの村で作られた。ってワケで…」
ネーヴェに手を引かれ、半ば腕を組むように歩いた。傍目には怯えた妹の手を引く兄のようだろうか?
「ネーヴェ」
「黙って。下手な事をすれば、お前も処刑される」
(いや、寧ろ俺がアレに殺される)
背を伝う別の汗に気を取られていると、燻るように耽溺していた焦燥や悲哀が、まるで膜が剥がれるように霧散したのを自覚した。
「そして、それらは全て『過去』」
白昼夢から醒めたような心地のまま、傍らのネーヴェを見る。甘い果実のような瞳が揺らめき、薄氷を思わせる危うい色に変わった。するり、と腕を解いて向かいに立つ頃には、似ても似つかぬ美丈夫となっていた。
「おま…っ」
「アレでなくて残念だったな?」
くつくつと喉で嘲笑うのが腹立たしい。殴ってやりたいところだが、返り討ちに遭うのが必定。そもそも、当たるかどうかも疑わしいところだ。
「何で俺を助けた?セルペンテ」
「ただの気まぐれだ。気にするな」
「それさえ疑わしいから聞いてんだけどな」
問答するだけ無駄だ、とばかりに諦めた。
「ちなみに、本物は?」
「寝ている」
「あ、そ」
「そろそろ起きる頃ではあるが」
「…もう夕方頃だぞ?」
言葉通り、空は赤味を帯びており、ねぐらに帰るであろう鳥達が、群れを成して森に向かって移動を始めているのが目に入る。
「過去って言ったよな。なら、今は」
「ここにそんな概念はない。永遠に繰り返すのだからな」
「は?」
「精霊の一種であるアレとその姉は、同族の成れの果てを抱えて生死を巡り続ける。同族達は、己が元は人間であることを忘れ、供物としての生を望む」
「待て待て待て!!!意味がわからん。姉?」
「会っただろう。クリス…クリスタリエに」
『クリスタリエ』とはこの国の名前で、初代の名ではなかったか?初代とはいったいいつを指すのか?『いつ』とは何だ?
「待て…時の概念がない?じゃあ俺はどうして『いつ』なんて思ったんだ?」
「それは」
「時の概念を持つ世界から運ばれた魂が起源だから」
「効果がない?」
村で作られていたのが何なのか、まるで知らなかったアレッシオにとっては初耳もへったくれもありはしないのだが、それでも奇妙な話だった。
「まったくない。そして、今回数人の死者が出た」
呆れたようなアレッシオに、ネーヴェは意地悪く笑むと、一つ質問をする。
「何故、私が2つの薬物の話をしたと思う?」
「へ?」
「今回死んだ者は、過去に『物語の詩篇』を口にしている。そして、ここが一番重要。…どちらもこの村で作られた。ってワケで…」
ネーヴェに手を引かれ、半ば腕を組むように歩いた。傍目には怯えた妹の手を引く兄のようだろうか?
「ネーヴェ」
「黙って。下手な事をすれば、お前も処刑される」
(いや、寧ろ俺がアレに殺される)
背を伝う別の汗に気を取られていると、燻るように耽溺していた焦燥や悲哀が、まるで膜が剥がれるように霧散したのを自覚した。
「そして、それらは全て『過去』」
白昼夢から醒めたような心地のまま、傍らのネーヴェを見る。甘い果実のような瞳が揺らめき、薄氷を思わせる危うい色に変わった。するり、と腕を解いて向かいに立つ頃には、似ても似つかぬ美丈夫となっていた。
「おま…っ」
「アレでなくて残念だったな?」
くつくつと喉で嘲笑うのが腹立たしい。殴ってやりたいところだが、返り討ちに遭うのが必定。そもそも、当たるかどうかも疑わしいところだ。
「何で俺を助けた?セルペンテ」
「ただの気まぐれだ。気にするな」
「それさえ疑わしいから聞いてんだけどな」
問答するだけ無駄だ、とばかりに諦めた。
「ちなみに、本物は?」
「寝ている」
「あ、そ」
「そろそろ起きる頃ではあるが」
「…もう夕方頃だぞ?」
言葉通り、空は赤味を帯びており、ねぐらに帰るであろう鳥達が、群れを成して森に向かって移動を始めているのが目に入る。
「過去って言ったよな。なら、今は」
「ここにそんな概念はない。永遠に繰り返すのだからな」
「は?」
「精霊の一種であるアレとその姉は、同族の成れの果てを抱えて生死を巡り続ける。同族達は、己が元は人間であることを忘れ、供物としての生を望む」
「待て待て待て!!!意味がわからん。姉?」
「会っただろう。クリス…クリスタリエに」
『クリスタリエ』とはこの国の名前で、初代の名ではなかったか?初代とはいったいいつを指すのか?『いつ』とは何だ?
「待て…時の概念がない?じゃあ俺はどうして『いつ』なんて思ったんだ?」
「それは」
「時の概念を持つ世界から運ばれた魂が起源だから」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる