忌花

こ★め

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二章 青藍の夢

銅色の時

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 少し、話をしよう。『物語の詩篇』と言う名の毒物の話だ。効果が弱く、短時間仮死状態にするというもので、駆け落ちの定番だった。尤も、そうと知っていれば対処は容易いもの。当然ながら解毒薬が作られた。次に出回ったのは『魔女の秘薬』と言う惚れ薬だった。無論、問題となったものである。効果は全くない。それにも関わらず、何故か口伝えて『効果あり』とされて人々は奪い合った。

「効果がない?」
 村で作られていたのが何なのか、まるで知らなかったアレッシオにとっては初耳もへったくれもありはしないのだが、それでも奇妙な話だった。
「まったくない。そして、今回数人の死者が出た」
 呆れたようなアレッシオに、ネーヴェは意地悪く笑むと、一つ質問をする。
「何故、私が2つの薬物の話をしたと思う?」
「へ?」
「今回死んだ者は、過去に『物語の詩篇』を口にしている。そして、ここが一番重要。…どちらもこの村で作られた。ってワケで…」
 ネーヴェに手を引かれ、半ば腕を組むように歩いた。傍目には怯えた妹の手を引く兄のようだろうか?
「ネーヴェ」
「黙って。下手な事をすれば、お前も処刑される」
 (いや、寧ろ俺がアレに殺される)
 背を伝う別の汗に気を取られていると、燻るように耽溺していた焦燥や悲哀が、まるで膜が剥がれるように霧散したのを自覚した。
「そして、それらは全て『過去』」
 白昼夢から醒めたような心地のまま、傍らのネーヴェを見る。甘い果実のような瞳が揺らめき、薄氷を思わせる危うい色に変わった。するり、と腕を解いて向かいに立つ頃には、似ても似つかぬ美丈夫となっていた。
「おま…っ」
「アレでなくて残念だったな?」
 くつくつと喉で嘲笑うのが腹立たしい。殴ってやりたいところだが、返り討ちに遭うのが必定。そもそも、当たるかどうかも疑わしいところだ。
「何で俺を助けた?セルペンテ」
「ただの気まぐれだ。気にするな」
「それさえ疑わしいから聞いてんだけどな」
 問答するだけ無駄だ、とばかりに諦めた。
「ちなみに、本物は?」
「寝ている」
「あ、そ」
「そろそろ起きる頃ではあるが」
「…もう夕方頃だぞ?」
 言葉通り、空は赤味を帯びており、ねぐらに帰るであろう鳥達が、群れを成して森に向かって移動を始めているのが目に入る。
「過去って言ったよな。なら、今は」
「ここにそんな概念はない。永遠に繰り返すのだからな」
「は?」
「精霊の一種であるアレとその姉は、同族の成れの果てを抱えて生死を巡り続ける。同族達は、己が元は人間であることを忘れ、供物としての生を望む」
「待て待て待て!!!意味がわからん。姉?」
「会っただろう。クリス…クリスタリエに」
『クリスタリエ』とはこの国の名前で、初代の名ではなかったか?初代とはいったいいつを指すのか?『いつ』とは何だ?
「待て…時の概念がない?じゃあ俺はどうして『いつ』なんて思ったんだ?」
「それは」

「時の概念を持つ世界から運ばれた魂が起源だから」


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