魔王は勇者を育てたい

椎乃 実

文字の大きさ
上 下
3 / 3

③人族の国

しおりを挟む
魔族の住まう国から遥か遠く。

ここは人族が多く住む『シーノ王国』。

広大な大陸の約半分を治める世界最大の国家である。

そのシーノ王国のほぼ中心に位置する『王都』。

直径およそ5キロの高い壁に囲まれたこの王都は、中央に王城がそびえ立ち、そこから東西南北に大通りが伸びている。

そこから無数の通りが伸びて、王都中に張り巡らされている。

そんな王都中に張り巡らされた通りの一角。

賑わいを見せるこの場所は王都一の市場。

多くの店が並び、それを求めて人が集まる。

「そこのお姉さん!串焼きどうだい!おまけするよ!」

「うちの野菜はどれも新鮮だよ!さぁ、買った買った!」

「おっ、冒険者の旦那!新商品入荷しましたぜ!見ていってくだせぇ!」

露店主達が道行く客の興味を引こうとと、必死に声を上げている。

この喧騒の中、私は露店に目もくれず人々の間を縫うように歩く。

黒いローブを身にまとい、夜闇のような黒色に月の輝きを想わせる金の装飾が施された身の丈を越える杖を携えている。

その服装だけでも注目を集めるのだが、この国では珍しい黒い髪とその端正な顔立ち、抜群のプロポーションは街ゆく男のみならず、女性までも魅了していた。

「この街は相変わらず人が多い…。早く冒険者ギルドに行きたいのだか…。」

冒険者ギルドはこの市場を抜けた先にある。

この市場を抜けるのが1番近いのだが人が多くて思うように動けない。

「仕方ない。少し遠回りになるが、脇道から迂回するとしよう。」

私は脇道に入り冒険者ギルドに向かうことにした。


・・・・・


路地裏と呼ぶに相応しい人気のない薄暗い道を歩いていると、前方に明らかにガラの悪い2人組の男が目に入った。

「おう、そこの姉ちゃん!1人かぁ?ダメじゃねぇか、こんなとこに1人で来ちゃ!」

「おっ!こいつ杖持ってるっことは魔法使いじゃねぇか?!それにすげぇ良い女だ!こりゃ金になるぜぇ!」

男達の言動からどうやら人攫いのようだ。

確かに魔法が使える者は少ないし、何より女性をも魅了するこの容姿だ。

高く売れるのは間違いないだろう。

だがそう簡単に捕まるような私ではない。

「そこをどいてくれないか?私は急いでいるんだ。」

「どけと言われてどくような俺たちに見えるかよぉ!」

「観念して、大人しくしてもらおうかぁ!」

まぁそうだよな。

これで逃がしてもらえるなら、人攫いなんて起こらないだろう。

「無駄な怪我なんてしたくねぇだろ?大人しくしt「そこまでだ!!」

突然声がしたと思ったら、12、3歳くらいの少年が剣を構えて私と男たちの間に入ってきた。

おや?この少年は…。

「なんだぁ、このガキ!」

「邪魔すんじゃねぇ!」

男たちは懐からナイフを取り出し構えた。

「お姉さん、早く逃げてください!」

少年は男たちから目をそらさずに言った


私は逃げろと言われたが、間違いなく少年よりも男たちの方が強いだろう。

数秒後にはあのナイフに身体を切り刻まれることになる。

それは面倒だ。

「少年。そこから決して動くなよ。」

「えっ、お姉さん?!」

私はその手に持った杖で地面をコツンと打ち鳴らす。

すると私たちのいた路地裏が完全な闇に包まれた。

たとえ火を灯そうと晴れることの無い闇は男たちの視界を一瞬にして奪った。

ドスッ!バキッ!

私はもう一度、コツンと杖を打ち鳴らす。

すると闇は一瞬にして晴れ、男たちが縛られた状態で道に倒れている。

少年は言われた通り動かず、しかし何が起きたか分からないと言うようポカンとしていた。

「えっ、あっ、えっ?なんです今の?!」

少年は興味津々と言うように尋ねてきた。

「この杖は『夜の杖』と言って、この世界に夜の闇を作ったと謂れがある杖だ。この杖を使えば完全な闇を作り出すことなど造作もない。」

「えっと、お姉さんは魔法使いなんですか?」

「いや、私は『指南役』だ。よろしくたのむぞ、勇者よ。」

そう、私は『勇者の指南役』の信託を受けた『魔王』その人である。

「っ!なんで僕が勇者だと?!」

少年は勇者と言い当てられ驚いていた。

「なに、簡単なことだ。その剣、勇者にしか扱えぬという聖剣であろう?」

「あっ!ほんとだ…。」

「見るものが見れば、聖剣だとすぐに分かるだろう。あまり人前で抜くでない。」

「はい、分かりました…。」

少年が少し落ち込んだ気がする。

「それよりも勇者よ、頼みがあるのだが。」

「はい、なんでしょう?」

「私をお前の所属する冒険者ギルドまで案内をしてくれないか?どうも迷ってしまったみたいなんだ。」

冗談じゃなく、人混みを避けて遠回りを続けた結果、自分がどこにいるのか分からなくなってしまった。

そこに人攫いの登場と言うわけだ。

さすがの私も気が滅入る。

「分かりました!あと、僕のことはケインと呼んでください。」

「ああ、分かった、ケイン。」

「それじゃあ行きましょうか!先生!」

先生か。悪くない響きだ。

こうして、お姉さん改め、先生となった私こと『魔王』と未熟な『勇者ケイン』は、ひとまず冒険者ギルドを目指すことにしたのだった。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

転生したらデュラハンだった。首取れてたけど楽しく暮らしてるん。

Tempp
ファンタジー
*試しにタイトル変更(旧:デュラはんは心の友 【あらすじ】 俺、デュラハンのデュラはん。 異世界にトラック転生したら、何故かデュラハンになってた。仕事放り出してプラプラしてたら拾ってくれたのがキウィタス村のボニたん。ボニたんめっちゃええ人で、同僚から匿ってくれるん。俺は代わりに村の周りの魔物倒したりしてるん。 でもなんか最近不穏なんよな。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~

つちねこ
ファンタジー
モンスターが現れるようになってから百年。ドロップアイテムの研究が進んだ結果、抽出された魔法接種薬により世に魔法少女が誕生していた。 魔法少女はモンスターから街の平和を守るため活躍し全ての少女達の憧れとなっている。 そんなある日、最低ランクのFランク魔法少女としてデビューをむかえるエリーゼに緊急の指令が命じられる。それは、政府と距離を置いていた魔法一族との共同事業だった。 この物語は、最強の魔法使いがFランク新人魔法少女をしょうがなく育成していく物語である。

転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま
ファンタジー
 かつて、『神界』と呼ばれる世界では『女神ハーティルティア』率いる『神族』と『邪神デスティウルス』が率いる『邪神』との間で、永きに渡る戦いが繰り広げられていた。  その永い時の中で『神気』を取り込んで力を増大させた『邪神デスティウルス』は『神界』全てを呑み込もうとした。  それを阻止する為に、『女神ハーティルティア』は配下の『神族』と共に自らの『存在』を犠牲にすることによって、全ての『邪神』を滅ぼして『神界』を新たな世界へと生まれ変わらせた。  それから数千年後、『女神』は新たな世界で『ハーティ』という名の侯爵令嬢として偶然転生を果たした。  生まれた時から『魔導』の才能が全く無かった『ハーティ』は、とある事件をきっかけに『女神』の記憶を取り戻し、人智を超えた力を手に入れることになる。  そして、自分と同じく『邪神』が復活している事を知った『ハーティ』は、諸悪の根源である『邪神デスティウルス』復活の阻止と『邪神』討伐の為に、冒険者として世界を巡る旅へと出発する。  世界中で新しい世界を創造した『女神ハーティルティア』が崇拝される中、普通の人間として平穏に暮らしたい『ハーティ』は、その力を隠しながら旅を続けていたが、行く先々で仲間を得ながら『邪神』を討伐していく『ハーティ』は、やがて世界中の人々に愛されながら『女神』として崇められていく。  果たして、『ハーティ』は自分の創造した世界を救って『普通の女の子』として平穏に暮らしていくことが出来るのか。  これは、一人の少女が『女神』の力を隠しながら世界を救う冒険の物語。  

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

神様のたまご

高柳神羅
ファンタジー
「お願いします。この世界の運命は貴方に委ねられています」 家の近所のホームセンターで買い物をしていた有栖野(ありすの)樹良(きら)は、気が付くと異世界の神の家にいた。 彼を異世界に召喚した古き神々のラファニエルは、彼にひとつの卵を渡してこう言った。「この世界を滅びの運命から救うために、多くのエルを育てて下さい」と……  樹良に与えられたのは、エルという名の神の生き物を育てて精霊を復活させるというブリーダーとしての仕事だった。思い描いていた召喚勇者としての使命とは全然違う形の使命だったが、生き物を育てることは嫌いではないという単純な理由から樹良はラファニエルの頼みを引き受けることに。 これは、神の生き物の世話に翻弄されながら日々をまったりと過ごす一人の若者の日常の物語である。

処理中です...