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新進気鋭パーティの雑用係が追放されて盲目剣聖様の世話係になるお話
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お昼ご飯をお腹に収めて満足した2人は、与えられた部屋へと移動した。サルシャの気遣いによりユキはファナの隣の部屋を与えられている。
その部屋へとユキを案内する。
部屋は6畳程の広さで、ベッド、机に椅子、物置が置いてある簡素な部屋だ。清掃が行き届いており、とても清潔感のある部屋となっている。
そのベッドの上に腰を下ろしたユキ。
「ん。ありがとね、ファナ君」
「はい。では、僕は隣の部屋に居ますから、入り用でしたら声を掛けてください」
その言葉を残して部屋から出ようとするファナを、ユキは掴んで引き止める。そしてぐいっとファナをベッドの上へと引きずり込んだ。
「わぁっ!?」
「ん。ファナ君、ここで少し、ボクとお話をしよう。今後の君に関わる、重要なお話だ」
ユキの真面目な口調に慌ててファナは身構える。
「ん。そう身構える必要も無い。ボクの手を握った上で、ボクの質問に答えてくれればそれでいい」
「えっ、ユキさんの手を握ってですか······!?」
「ん。ほれ」
ユキの美しく小さな白い手がファナの前に差し出される。何度か握った事はあるが、それらはまだ自分の中で言い訳をしていた。しかし今、小さな部屋で2人きり。そんな中で手を握るなんて、ファナにはとても耐えられないものであった。
が、ユキの言う事に逆らえない。恐る恐る「失礼します······」と小声で呟きながら軽く握った。
「ん?緊張し過ぎじゃないか?もっとリラックスしようぜ」
「で、出来ないですって······!!」
「ん~?まぁ良いけど」
からからと笑っていたが、それより、とユキは言葉を続ける。
「んっと、ファナ君はさ。前にどっかの雑用係とか、やってた?」
これはティルレッサからの情報だ。ファナは冒険者登録こそしていなかったが、雑用係の登録はしていた、と。それはつまり、少し前まではパーティの雑用係をやっていたことを指している。ユキはファナが自信を持てない理由がそこにあると睨んだのだ。
解体を待っている間、別にファナの事はどうでも良かったのだが、ティルレッサから一方的に個人情報を流され続けていた。半分は聞き流していたのだが、気になる話は記憶している。
「······はい。『金龍の息吹』という、Bランクパーティの雑用係をやらせて頂いていました」
「ん。いつ?」
「あ、えっと······つい2週間ほど前······です」
「ん。そっか。ちょっとそのパーティについて、話して」
「は、はい。僕が入った時は──」
ユキが部屋全体に防音を施したことで、部屋の中ではファナとユキの声だけが通る。賑わっているはずの食堂からも、子供達があそぶ外からも。一切の音が遮断されていた。
聞き手に回っているユキは返しを短く、次へ次へとファナに言葉を続けさせる。ファナは何故か安心して、秘めていた胸の内を明かしていく。ユキのリードが上手いのか、ファナの抑えていたものが決壊したのか。ファナでさえ驚く程、言葉は続いた。
どんどんとパーティについて話していくと、ファナの声は掠れていった。自分が酷く情けなく、どうしようもなく醜く思えてくる。
遂には震えてしまっていた。こんな事を話せば尊敬するユキに失望されてしまうかもしれないと言うのに。
嗚咽を漏らしながら話していく。目の前は暗くなっていった。
「ん。そこまででいい」
完全に真っ暗となる直前、ユキからの静止が入った。気づけばユキはファナの頭を撫でており、ファナはユキの手に両手でしがみついていた。ユキと触れている箇所からは、安心感が溢れていた。
「······ッ !ずみません······!!」
慌ててユキから離れようとするも、ユキは離そうとしない。むしろファナを己の体へと引き寄せた。
「ん。ファナ君······今は取り敢えず休めよ。君は頑張り過ぎだ」
「そんな事······ないです······!僕なんか······全然······!」
「ん。強がるなって。君は君が思う以上に弱いんだ」
一度ユキが強く言えば、ファナはしゅんと縮まる。ユキの言葉は何よりも利くらしい。
「······はい······」
「ん。ボクが休めと言うんだ。休めよな。それとも······なんだ?ボクの膝は硬くて嫌かい?」
そう。今、ファナはユキの膝に頭を乗せている。乗せさせられている。そして膝に収まる猫のように頭を撫でられ、あやされていた。
「い、いえ······!」
「ん。なら良し。······ファナ君。君はその······うん、前のパーティの時も、こっちにいる時も頑張った。かなり疲れているよ。大体、ボクみたいな小柄な女の子の拘束を解けないって、ファナ君弱すぎだって」
「······はい······」
ユキがからからと笑いながら言うも、ファナはまだ落ち込んだままだ。しかし大人しくユキに頭を撫でられていた。
恥ずかしいとは思うが、ユキに撫でられるととても気持ちが良かったのだ。とても安心する、優しさがあった。
「ん。今は寝とけよ。ボクが許す」
「······はい······」
ユキの言葉に、頭を撫でられることに。ファナは段々とと身を預けていく。ユキの言うように、ファナは疲労で限界であった。目を閉じれば、直ぐに眠りへと落ちていった。
悲しみとは違う涙を流していた。
「ん。······君が思う以上に、君は強い子だよ。大丈夫。ボクが護るから······」
世界最強のSランク冒険者は、安心して眠るファナを優しく撫でながら声を掛けるのであった。
その部屋へとユキを案内する。
部屋は6畳程の広さで、ベッド、机に椅子、物置が置いてある簡素な部屋だ。清掃が行き届いており、とても清潔感のある部屋となっている。
そのベッドの上に腰を下ろしたユキ。
「ん。ありがとね、ファナ君」
「はい。では、僕は隣の部屋に居ますから、入り用でしたら声を掛けてください」
その言葉を残して部屋から出ようとするファナを、ユキは掴んで引き止める。そしてぐいっとファナをベッドの上へと引きずり込んだ。
「わぁっ!?」
「ん。ファナ君、ここで少し、ボクとお話をしよう。今後の君に関わる、重要なお話だ」
ユキの真面目な口調に慌ててファナは身構える。
「ん。そう身構える必要も無い。ボクの手を握った上で、ボクの質問に答えてくれればそれでいい」
「えっ、ユキさんの手を握ってですか······!?」
「ん。ほれ」
ユキの美しく小さな白い手がファナの前に差し出される。何度か握った事はあるが、それらはまだ自分の中で言い訳をしていた。しかし今、小さな部屋で2人きり。そんな中で手を握るなんて、ファナにはとても耐えられないものであった。
が、ユキの言う事に逆らえない。恐る恐る「失礼します······」と小声で呟きながら軽く握った。
「ん?緊張し過ぎじゃないか?もっとリラックスしようぜ」
「で、出来ないですって······!!」
「ん~?まぁ良いけど」
からからと笑っていたが、それより、とユキは言葉を続ける。
「んっと、ファナ君はさ。前にどっかの雑用係とか、やってた?」
これはティルレッサからの情報だ。ファナは冒険者登録こそしていなかったが、雑用係の登録はしていた、と。それはつまり、少し前まではパーティの雑用係をやっていたことを指している。ユキはファナが自信を持てない理由がそこにあると睨んだのだ。
解体を待っている間、別にファナの事はどうでも良かったのだが、ティルレッサから一方的に個人情報を流され続けていた。半分は聞き流していたのだが、気になる話は記憶している。
「······はい。『金龍の息吹』という、Bランクパーティの雑用係をやらせて頂いていました」
「ん。いつ?」
「あ、えっと······つい2週間ほど前······です」
「ん。そっか。ちょっとそのパーティについて、話して」
「は、はい。僕が入った時は──」
ユキが部屋全体に防音を施したことで、部屋の中ではファナとユキの声だけが通る。賑わっているはずの食堂からも、子供達があそぶ外からも。一切の音が遮断されていた。
聞き手に回っているユキは返しを短く、次へ次へとファナに言葉を続けさせる。ファナは何故か安心して、秘めていた胸の内を明かしていく。ユキのリードが上手いのか、ファナの抑えていたものが決壊したのか。ファナでさえ驚く程、言葉は続いた。
どんどんとパーティについて話していくと、ファナの声は掠れていった。自分が酷く情けなく、どうしようもなく醜く思えてくる。
遂には震えてしまっていた。こんな事を話せば尊敬するユキに失望されてしまうかもしれないと言うのに。
嗚咽を漏らしながら話していく。目の前は暗くなっていった。
「ん。そこまででいい」
完全に真っ暗となる直前、ユキからの静止が入った。気づけばユキはファナの頭を撫でており、ファナはユキの手に両手でしがみついていた。ユキと触れている箇所からは、安心感が溢れていた。
「······ッ !ずみません······!!」
慌ててユキから離れようとするも、ユキは離そうとしない。むしろファナを己の体へと引き寄せた。
「ん。ファナ君······今は取り敢えず休めよ。君は頑張り過ぎだ」
「そんな事······ないです······!僕なんか······全然······!」
「ん。強がるなって。君は君が思う以上に弱いんだ」
一度ユキが強く言えば、ファナはしゅんと縮まる。ユキの言葉は何よりも利くらしい。
「······はい······」
「ん。ボクが休めと言うんだ。休めよな。それとも······なんだ?ボクの膝は硬くて嫌かい?」
そう。今、ファナはユキの膝に頭を乗せている。乗せさせられている。そして膝に収まる猫のように頭を撫でられ、あやされていた。
「い、いえ······!」
「ん。なら良し。······ファナ君。君はその······うん、前のパーティの時も、こっちにいる時も頑張った。かなり疲れているよ。大体、ボクみたいな小柄な女の子の拘束を解けないって、ファナ君弱すぎだって」
「······はい······」
ユキがからからと笑いながら言うも、ファナはまだ落ち込んだままだ。しかし大人しくユキに頭を撫でられていた。
恥ずかしいとは思うが、ユキに撫でられるととても気持ちが良かったのだ。とても安心する、優しさがあった。
「ん。今は寝とけよ。ボクが許す」
「······はい······」
ユキの言葉に、頭を撫でられることに。ファナは段々とと身を預けていく。ユキの言うように、ファナは疲労で限界であった。目を閉じれば、直ぐに眠りへと落ちていった。
悲しみとは違う涙を流していた。
「ん。······君が思う以上に、君は強い子だよ。大丈夫。ボクが護るから······」
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