新進気鋭パーティの雑用係が追放されて盲目剣聖様の世話係になるお話

めぇりぃう

文字の大きさ
上 下
9 / 18
新進気鋭パーティの雑用係が追放されて盲目剣聖様の世話係になるお話

9

しおりを挟む

「ん······このボクを騙すなんて、中々やるじゃないかファナ君。ほんの少し自信を失ったよ」

「僕は非常に大事なものを失った気がします······!!」


 一悶着が終わり、ユキはどこか嬉しそうに、ファナは涙目になっていた。男としてのプライドを失ったファナは、蹲って小動物のように震えている。


「ファナさんの、とても可愛らしかったですよ」


 なんのフォローにもならないことを、ティルレッサからサラリと言われる。余計に落ち込む一方だ。


「ん。まぁ、こういうこともあるから、なんでもするとか無闇に言っちゃダメだよ。分かったかい?」

「はい······身を以て実感しました······」


 安易に使っていい言葉ではないと、ファナは脳と体に焼き付けた。


「······あ、そうです。ユキ様とファナさんに提案があります」


 ティルレッサが手を叩き、そう言葉を始めた。ファナは無性に嫌な予感を覚える。何か、良からぬことを企んでいるのでは、と無駄に勘繰るようになったのだ。まぁ、無駄だが。


「ファナさん、ユキ様の雑用係として就いてみませんか?」

「えっ!?」


 それは想像だにしていなかった考えだった。あんな事をされてしまったが、ファナにとってユキは憧れの冒険者様。その雑用係として働いてみないか、という提案である。

 が、ファナは理解していた。雑用係としての仕事は期待されていないことに。恐らくは雑用係という形で、道案内がメインになると言うことを。ユキの言葉や外見、二人の会話から判断するに、ユキはかなりの方向音痴だ。そこに盲目が重なり、1人ではまともに目的地へと着けない状況にある。ユキはかなりの実力を持っていると予想しており、高難易度のクエストを受ける上で、それでは効率が悪いのだろう。安い賃金で動かせるFランクの雑用係。これは起用するに持ってこいだったのだ。


「······はい。もし、ユキさんが良ければ喜んで」


ファナは、ユキの役に立てるならそれで良かった。雑用係としてのトラウマは存在するが、命の恩人であるユキにならば文句はない。要らないだろうが、この身を捧げるつもりであった。


「んーーーーーー······そうだね。まぁ、ファナ君なら面白そうだし、暫くは宜しく頼むとするかな」


 ユキはまた少し悩んだが自分の中で答えを出し、ファナへと手を差し出した。

 その言葉を聞いたファナは途端に明るくなり、そっとユキの手を握った。


「は、はいっ!これから宜しくお願いしますっ!!」

「ん。改めてよろしく」

(ん~、やっぱり女の子なんだよなぁ)


 ファナの気も知らずに、ユキは呑気にそんな事を考えていた。



 ※ ※ ※



 一方、『金龍の息吹』では、新人雑用係ネレが更なる窮地に立たされていた。

 皆が寝静まった夜中。ネレは焚き火に木をくべながら、押し付けられた武器を必死に磨いていた。

 このパーティの雑用係として働いて2週間が過ぎた。もう、限界だった。今も目に涙を溜めながら、声を殺しての作業であった。

 このパーティはどこか可笑しい。感覚が並より酷く外れている。世間で噂されている『金龍の息吹』とはまったく違う素行の数々。彼女等は雑用係を己の為に働く人形だと勘違いしている。

 高ランクのパーティは気品のある冒険者が多い。これは貴族の依頼を受ける最低条件であるからだ。Sランク冒険者ともなれば自由奔放が許されると聞くが、B、Aランク冒険者達は、力だけで食ってはいけない。成り立つとすれば、ダンジョンにでも潜る強者達だけ。

 最低限の力は必要だ。力が無ければクエストは達成できない。Bランクに値する力を『金龍の息吹』が有している事は理解出来る。しかし、謙虚さが足りない。冒険者は自由業だと勘違いされることも多いが、それは一部の者達だけ。あまりに傲岸不遜な態度を取れば、粛清対象となり得る。この世には、逆らってはいけない力も存在しているのだから。 

 それなのに、彼女達は貴族にでもなったつもりでネレに様々な要求を出してくる。あれもこれも、事ある毎に、命令の形で。そして決まって言うセリフがある。「Fランクのファナでさえ出来たのに」と。

 ネレは理解出来なかった。彼女達が要求する異次元並の要求を、完璧にこなしていた雑用係が居たのか?それがFランク?それをクビにした?

 彼女達の妄言じゃないかと初めは聞き流していた。最後にグレッドからも同じセリフを聞き、ネレは事実だったのだと理解──する事は出来ないが──した。


 1秒で汚れを落とせだの。

 1分で飯を作れだの。

 5秒で武器をメンテナンスしろだの。

 5秒で防具を直せだの。


 Aランクの雑用係でも不可能な無茶振りだ。そもそも彼女達はそれらを無茶であると理解出来ないのだろうか。頭が沸いているのではないか。

 しかし、口答えすれば暴力が振り下ろされる。獣人とは言え〈雑用係〉というジョブでは、戦闘系のジョブに抗う事は出来ない。為す術もなく無闇に殴られ、無茶を押し付けられる日々。


 もう、限界だった。


 ネレは貧乏な田舎の村を救う為、一攫千金を狙って都会へと出てきた。田舎で必死に〈雑用〉のスキルを磨き、高い検定料を捻出してもらい、ようやく手に入れた雑用係のBランク。そして、今ノリに乗っている若手のBランクパーティに勧誘された時は、努力が報われたと思った。


 なのに。この仕打ち。


 多少の事なら我慢するつもりであった。それで報酬が貰えているのだから、文句は言えないのだろうと。実際は雑用係にも正当な権利があり、パーティ内で不満があればギルドへと訴えることも出来た。しかしそれはメンバーによって脅され、ネレには出来なかった。

 ちゃんと報酬は頂いていた。規定額を最低限。文句は言えない。しかし、その後が問題だった。メンバーはネレに買い出しへ行かせる。ちょっと歩いて買いに行けばいいのに、全てを雑用係に押し付けようとする。そして、それら全てはネレの財布から支払われる。

 初めの買い出しでも、渡された金は雑用係の仕事に対する報酬だった。負担は全て雑用係。これがこのパーティでの共通認識。


 可笑しいと叫んだ。


 けれど帰ってきたのは「闘わないくせに図に乗るな」という、ギルドの規約にある雑用係の権利を害する一言。


 もう、このパーティではやっていけない。


 しかし、ネレには抜ける勇気が無かった。


 もし『金龍の息吹』から抜ければ、この町で雑用係として働くことは不可能だ。Bランクパーティをクビになったというレッテルは非常に重たい。なら隣町へと行けばいい。しかし、物事はそう簡単には行かない。隣町へと行く為には、3つの山を越えなければならない。あのモンスターがうじゃうじゃ蔓延る山を、ネレ1人で越えるなんて不可能に近いものだった。


 結局、我慢するしか道は無かった。


 ネレは1人泣きながら、終わる事の無い武器磨きを繰り返すのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...