若蕾燦華

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恥辱夜会

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 最初の魔法少女が、誕生したのはたかだか十数年前のこと。その為、現在活動する魔法少女の大半は未成年である。
 そのため、未成年にも関わらず、彼女らは不規則な生活を余儀なくされていた。
 とはいえ、いつもイノスと戦いを繰り広げるわけではない。次元裂の向こう、イノス達の世界でも厳重な検問が敷かれているからだ。

『敵性体だ。二日続けて運が悪いね』

 京香は既に変身していた。リェズィユの指示に従い、電柱や屋根を伝って感知した場所に一直線に向かっていく。
 目的地は森林公園だ。鬱蒼とした草木は月明かりを遮り、不気味な雰囲気を漂わせている。
 
『足元50m 先だよ』
「きゃっ!?」

 突然現れた京香に女性が小さく悲鳴をあげた。
 どうやら良い雰囲気になっていたようだ。女のシャツははだけられ、黒い下着が覗いている。
 彼女を抱きしめるようにしてシャツのボタンを外しているのは筋骨隆々な外国人の男だ。
 女と京香の間に、言いようのない気まずい空気が流れる。
 だが男の方は気にしないようで、構わずボタンを外しブラのホックに手をかけた。

「ち、ちょっと!?」

 流石に羞恥心が優った女は男の手を振り解き、その場から逃げるように走り去る。
 後に残った京香と男は女の消えた方向をぼんやりと眺めていた。

「…リェズィユ。イノスはどこに」
『いるじゃん』
「どこに?」
『目の前』
「何をっ…」

 京香が言い終える前に、彼女の鳩尾に衝撃が走った。
 両足が地から離れ、圧倒的な衝撃が身体を後ろへと押す。
 漫画のキャラクターのように身体を逆くの字に折って吹き飛んだ京香は、三本の木を根本からへし折り、四本目を傾かせてようやく止まった。
 それでも衝撃を流しきれず、身体をガクガクと震わせながら、四つん這いになったまま嘔吐した。
 痛みと困惑、頭に浮かぶ沢山の疑問符。思考の再起動に手間取る京香をよそに、事態はどんどん進んでいく。

『京香、次が来る!』

 リェズィユの声に珍しく焦りが混じっていた。
 京香によって拓かれた道を男は猛然と駆けると、よろよろと立ち上がる京香にプロボクサーもかくやという突き上げるような右フックを繰り出した。
 不可避な一撃。だがこれまで積んできた厳しい鍛錬が何とか京香の身体を動かす。
 それでも男の肩甲骨あたりから千手観音像のように生える無数の腕、もとい触手を防ぐことはできなかった。
 頭にまで剣を深々と突き刺されたのかと錯覚するほどの、月まで吹っ飛ぶ衝撃が脇腹から全身に波状に伝播した。

「かぁっ」

 肺に残った空気と僅かな胃液すら吐き出し、錐揉みになりながら京香は空へと打ち上げられた。ミシミシと身体が悲鳴を上げる。
 手離された刀はクルクルと優雅に舞いながら森のどこかへと姿を消した。
 打ち上げられた京香を満月の明かりが舞台女優のように照らしている。
 幼い頃、父と共に見た映画を何故か京香は思い出した。スティーブン・スピルバーグ監督の不朽の名作「E.T.」だ。
 エリオットとE.T.が共に自転車に乗り、空を駆ける名シーン。
 満月の中、空を駆ける人と宇宙人。状況だけ抜き出してみればとてもよく似ている。
 飛ぶのではなく吹き飛んでいる事と、京香とイノスが敵対しているという二点に目を瞑れば。
 飛び上がった男はすぐさま追撃に入る。
 京香は空中で器用に体勢を変え、カウンター気味に蹴りを男の顔に浴びせた。常人であれば首がへし折れているであろう一撃を受け、男はくるくると回りながら落下していく。

『大丈夫か、京香?」
「ああ、大丈夫さ」

 蹴りの反動を使って近くの一番高い木に取り付いた京香は苦しげに咳き込んだ。
 頭はまだ揺れている。身体的な傷は治るが、内側をシェイクされた事で三半規管がイカれていた。
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