若蕾燦華

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魔法少序

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 宇津木家は江戸時代以前から続く由緒正しき家系だ。
 由緒あるとは言えど、少し広い屋敷と膨大な骨董品を持つことを除いて普通の家庭と変わりはない。
 京香の兄はIT関連企業で働くサラリーマン。京香も普通の女子高生だ。
 栄光は遠い過去。それでもその精神は脈々と受け継がれている。
 弱気を助け、導け。信念を曲げるな。
 幼い京香に父が語った武士道は当たり障りのない言葉であったけれど、それが彼女に与えた影響は決して少なくない。
 容姿端麗で成績優秀、おまけに人格者。京香が男女共に人気を得ている事は想像に難くない。
 噂では彼女のファンクラブもあるとかないとか。
 王子様などと呼ばれる事もあり、それを耳にする度に京香は悶絶するような心持ちになる。

「おはようジン。気持ちのいい朝だね」
「怒り狂いそうな朝だな、京香」

 鋭い舌打ちとともに返したのは、京香と同じく魔法少女の鏡仙院キョウセンイン 仁だ。
 緩く波打つ、赤と黒のグラデーションの入った長髪を耳にかける、いつも何かに怒っている少女。当然彼女に寄り付く者は少ない。
 魔法少女が二人も同じ学校、それも同じクラスに居ることは天文学的な確率…というわけではない。
 京香の通う高校は魔法少女育成を担う数少ない学校の一つである。

「それはどうして?」

 京香の問いに答える代わりに、仁は窓から見える空を苛立たしげに指差した。
 青い空、白い雲、空のキャンバスに真っ直ぐ引かれたような飛行機雲。

 そして砕けた硝子窓のように広がる亀裂、次元裂。次元裂がいつ現れたのかは誰も知らない。
 ある日、まるで始めからそこに存在するかのように次元裂が人々を見下ろしていた。そこから現れたのが知的生命体イノスだ。

◇ 

 京香は一度、なぜイノスが性行為を行うのかと、同じイノスであるリェズィユに問うた事がある。
 イノスのエネルギー源は魔力の俗称で人々に認知されている、生物の発するエネルギー。
 その収集がイノスが人を襲う理由だ。
 魔法少女が産卵させられる事もあるが、そこから生まれたイノスは例外なく36時間以内に死滅する。核を持たないそれらは、生まれた瞬間から緩やかに死んでいるのだ。

『君達の感情のドゥペルュ…魔力には味があるんだよ』
「味?」
『そ。幸福系は甘い、負の感情は辛い…みたいなね。これは珍しい事だ。殆どの魔力は同じ味をしているからね。ちなみに一番人気は幸福だよ』
「だが、その…、不純な行為をやる必要はないじゃないか」
『幸福の感情を狙って吐き出させるのは難しいでしょ?それを固定する方法がセックスなの』

 性行為でオルガズムに達すると、幸せホルモンと呼ばれる物質が増加する。加えて脳が焼き切れるような刺激は快楽以外の感情を排するらしい。
 中毒にすれば搾取も簡単だ。
 つまりは純粋な幸福感情の永続的な抽出。それが目的だとリェズィユは言う。

『だから協定無視してこっちに渡ってくるバカは、犯罪グループと人の魔力を買えない貧者、或いは美食家に雇われた傭兵だけさ』



「あの忌々しい亀裂がある限り、怒りが治ることはねえ」
「でも君は年中怒っているじゃないか」
「それがアタシの原動力だからな」

 鮫のような歯を覗かせ、仁は獰猛に笑った。彼女と融合したイノスは怒りを好む珍しいものである。

「今日はどんな予定?」
「朝イチから仕事だよ。ここには点呼のためだけに来た」
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