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最終章 XYZ
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XYZ(Liberté 155)
からん、とドアベルが鳴る。店員に礼を言い外に出た彼らは空を見上げた。
既に日付も変わる時刻。空には星が、煌めいている。そろそろ、帰らなくては。明日もそれぞれに仕事もある。
カルセは医師として。スファルは警官として。リスタは調査局の局員として。それぞれの仕事をこなすために、あまり遅くなるわけにはいかない。
くるり、振り向いてリスタが言う。彼にしては珍しい笑顔を浮かべて。
「楽しかったよ」
本当に、楽しかった。心からそう思う、という声音。それを聞いて、スファルは橙色の瞳を細める。そしてぽんぽんとリスタの頭を撫でた。
「帰り、気をつけてな」
「送っていかなくて大丈夫ですか?」
カルセも、そう付け足すように言う。少し揶揄うような言葉に、リスタは眉を寄せた。少し頬を紅に染め、ぷいとそっぽを向きながら、言う。
「子供じゃないんだからさ……」
もう、子供ではない。そう拗ねたように言うリスタを見て、カルセはくすくすと笑う。
「確かにそうですねぇ」
確かに、そうだ。出会った頃よりずっと彼は大きくなって、頼もしくなった。不安げに城の中を歩いていたあの頃の彼ではない。騎士として、上官としての務めを果たした、力強く頼もしい友人だ。
けれど、とスファルは笑う。
「でも俺たちにとってはリスタはいつまでも可愛い後輩だからなぁ」
そう言いながら、スファルはぐしゃぐしゃとリスタの頭を撫で回した。
どれだけ大きくなっても、どれだけ頼もしくなっても、彼が自分たちにとっての後輩であることに違いはない。どれほどしっかり者になろうとも、強くなろうとも、だ。
そんなスファルの言葉にカルセもうんうん、と頷く。
「それもそうですねぇ」
確かに、違いない。そう言って笑う彼らを暫し不服そうに見ていたリスタだったが、やがて諦めたように溜息を一つ。
「……本当に貴方たちには適わないよ」
背丈は大きくなった。魔力だって強くなった。戦闘だって、得意になった。足は使い物にならなくなってしまったけれど、それでも彼らに出会ったあのころに比べれば、ずっとずっと成長したはずで。
それでも、きっと彼らには勝てない。聡明なカルセ。勇敢なスファル。そして……誰よりも優しかった、クレース。彼らにはきっと、ずっとかなわないのだろうと思う。どれほど年を重ねても、彼らはずっと自分が追いかけるべき背中なのだと、そう思っていた。
そんなリスタの言葉に、カルセとスファルは顔を見合わせる。そして、少し照れたように頬を赤く染めて。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
そう言って、二人は笑った。
優しい風が吹き抜ける。それは穏やかで、何処か暖かい。まるで、自分たちを励ますようなそれは、優しい"彼"のようだった。
***
別れ道に出る。ふうと一つ息を吐いたリスタは二人の仲間の方を見た。
「じゃあ俺はこっちだから」
彼はそう言って、手を振った。
分かれ道を歩くのにも、慣れた。一生の別れでないことは、わかっている。頻繁には会えずとも、またこうして時折顔を合わせては、昔の話をするのだ。
「また会いましょう」
そう言って、カルセはひらりと手を振る。スファルもそんな彼の隣で笑って、手を振った。
「あぁ、楽しみにしてる」
リスタはそう言って、彼らに背を向けて歩き出した。ほんの少し足を引きずるような歩き方。それでも彼は、倒れることなく真っ直ぐに歩いていく。
その背中を見送って、スファルはカルセの方へ向き直った。そして小さく首を傾げ、問いかける。
「カルセは今日は何処に帰るんだ?」
色々な街、ともすれば国さえも渡っているカルセ。勿論彼自身の家もあるけれど、城下町からは少し離れている。此処から帰るとなれば、空間移動を使うには少し遠いし、馬車で帰れば朝になってしまうだろう。
「何処かに宿をとっているのか?」
そうスファルが問えば、彼は微笑んで首を振った。
「とりあえず、あの子のところに寄ってから、城に帰りますよ」
あの子、というのはクレースのこと。きっと今日の集まりに参加できなくて拗ねているでしょうから、という彼の声は凪いだ海のように穏やかだった。
スファルはそれを聞いて、目を細める。そしてぐっと伸びを一つした。
「それなら、俺も一緒に行こう。一人で行くのも退屈だろう?」
そうスファルは言う。カルセはそれを聞いて一瞬目を丸くした後、穏やかに微笑んで頷いた。
以前ならばきっと、"私一人で大丈夫ですよ"と返してきたことだろう。そう言わなくなったのは、幾らか丸くなったからなのだろうか。そう思いながら、スファルは彼と一緒に歩き出した。
「今ディアロ城に滞在してんのか」
クレースのところに寄ったら城に帰ると彼は言っていた。世界各国を回っている彼も、今は古巣に帰ってきているらしい。カルセは小さく頷いて、穏やかに微笑んだ。
「ええ。本当にありがたいですよ」
帰る場所があるということは。そう言って微笑む彼の髪が、柔らかく風に揺れている。
「そうだなあ」
そう呟いて、スファルも笑みを浮かべて、空を見上げた。
自分は、一度もこの土地を離れていない。騎士団を辞めてからも、城下町にとどまって、警官として働き続けている。だから、ディアロ城を"帰る場所"と思うことはあまりないのだけれど、この国を離れることもある彼からするとそのありがたさは一入なのだろう。
「お前が、元気そうで良かった」
久し振りに会ったしな。そうふと思いだしたことを言うと、カルセもくすくすと笑った。
「貴方も、騎馬隊長として名を馳せているようで何よりです」
ほんの少しの揶揄いの色を灯した声。騎士団にいる時から、カルセが素直に褒めてくれた試しがない。そう思いながらスファルは眉を寄せた。
「おい嫌味かそれは」
確かに騎馬隊長として働いてはいるのだけれど、そんなに結果を残している訳ではないのだが。そうスファルが言うと、カルセは緩く口角を上げて、言った。
「まさか。心からそう思っていますよ」
相変わらず、そんな彼の表情は読めない。やれやれと首を振ったスファルは苦笑を漏らして、呟いた。
「……まぁ、良いけどさ」
それもまた、お前らしい。スファルはそういって、笑う。カルセはそんな彼の横顔を見て微笑みながら、ぽつりと言った。
「ふふ。でも、本当に……思っていますよ。貴方が元気そうにしていてよかった、と」
その言葉は、きっと心からのものだった。
スファルの仕事は決して楽なものではない。カルセが国を離れている間に彼が死んでしまうということだって、十分に在り得るのだ。だから、こうして普通に会うことが出来たというのは、幸せなことだと思う。大切な人を失った経験があるから、一層……
それを聞いて、スファルは橙色の瞳を細める。そして昔から変わらない、明るい声音で言った。
「そりゃあまぁ、元気にはしてるよ。それだけが取り柄だからなぁ」
そう言いながらスファルは隣を歩くカルセを見た。
出会った頃から変わらない、澄んだ藍色の瞳。色の白い横顔は凛としている。それを見つめたスファルは一つ息を吐き出した。
「カルセも、あんまり無理するなよ。お前は、すぐに無理するから」
カルセ自身はしばしばクレースがすぐに無理をする、と嘆いていたけれど、彼自身も大概だ。疲れていても休もうとせず、大丈夫かと声をかけても平気だと返してしまう。弱った姿は絶対に周囲に見せない、プライドの高い人だから……
今なんて特に、そうだろう。自分一人でふらふらしているのだから大変な事も多いだろうに、そうした愚痴は一切こぼさない。"自分で選んだ道ですから"と穏やかに微笑んで見せるのだ。
そんな彼の強さは、尊敬している。しかしそれと同時に、心配してもいた。無理をしてはいないか。体を壊してはいないか、と。
以前のように近くに居られる訳でもない。だから。
「体に気を付けて過ごせよ」
そうスファルは言う。
カルセは、普段粗雑なスファルがそんなことを言い出したことに幾らか驚いていた。しかし、自分を気遣う発言をしてくれたのは純粋に嬉しくて、穏やかな微笑みを浮かべる。そしてしっかりと頷いて見せた。
「わかっていますよ。もう若くもないですしねぇ」
そう言いながら笑うカルセは、まったく衰えた様子はないのだけれど。
「ったく……こういう時まで冗談言うなよなぁ」
やれやれ、と苦笑を漏らす。そんな彼らはいつの間にか、大切な友人が眠る場所に辿り着いていた。
「身一つできちまったから、供えるもんもねぇけど」
ごめんな、と言いながらスファルは身を屈める。
「確かにそうですねぇ」
カルセはそう言いながら、指先に花を咲かせた。
「こうした魔術は、あまり得意ではないのですが」
これで、赦してくださいね……そう言って、カルセは自身の魔力で咲かせた花をそっと白い墓石に供えた。そしてしなやかな指先で墓石をなぞり、そっと微笑んだ。
「皆、元気でやっていますよ」
「これからも、見守っててくれな」
そう言って、二人は軽く目を閉じる。二人の頬を、髪を、優しい風が撫でていった。
「……さて」
目を開けたカルセは軽く、眼鏡を上げる。
「帰りましょうか」
そうスファルに促す。
「明日も、貴方は仕事でしょう」
「あぁ、そうだなぁ……帰るか」
そう言いながら、スファルは伸びをする。そしてまた、二人で歩き出した。
平和な、城下町。静かな森。自分たちが出会ったあの頃と変わらない、穏やかな景色だ。
―― これからも……
これからも、この国で、この街で、大切な友人たちと共に過ごしていける日々が続けば良い。そう思いながら、二人は静かな街を歩いていった。
***
私たちが紡ぐ物語は、これでおしまい。
遡る過去は、楽しいことばかりではなかった。辛いこともたくさんあった。悲しいこともたくさんあった。
それでも、大切な友人たちがいるのならば……上手く乗り越えることが、出来る。それは、今も変わらない。
これからもきっと……――
Knight Another Story ― 色褪せぬ記憶 ― Fin
(XYZ:これで終わり)
からん、とドアベルが鳴る。店員に礼を言い外に出た彼らは空を見上げた。
既に日付も変わる時刻。空には星が、煌めいている。そろそろ、帰らなくては。明日もそれぞれに仕事もある。
カルセは医師として。スファルは警官として。リスタは調査局の局員として。それぞれの仕事をこなすために、あまり遅くなるわけにはいかない。
くるり、振り向いてリスタが言う。彼にしては珍しい笑顔を浮かべて。
「楽しかったよ」
本当に、楽しかった。心からそう思う、という声音。それを聞いて、スファルは橙色の瞳を細める。そしてぽんぽんとリスタの頭を撫でた。
「帰り、気をつけてな」
「送っていかなくて大丈夫ですか?」
カルセも、そう付け足すように言う。少し揶揄うような言葉に、リスタは眉を寄せた。少し頬を紅に染め、ぷいとそっぽを向きながら、言う。
「子供じゃないんだからさ……」
もう、子供ではない。そう拗ねたように言うリスタを見て、カルセはくすくすと笑う。
「確かにそうですねぇ」
確かに、そうだ。出会った頃よりずっと彼は大きくなって、頼もしくなった。不安げに城の中を歩いていたあの頃の彼ではない。騎士として、上官としての務めを果たした、力強く頼もしい友人だ。
けれど、とスファルは笑う。
「でも俺たちにとってはリスタはいつまでも可愛い後輩だからなぁ」
そう言いながら、スファルはぐしゃぐしゃとリスタの頭を撫で回した。
どれだけ大きくなっても、どれだけ頼もしくなっても、彼が自分たちにとっての後輩であることに違いはない。どれほどしっかり者になろうとも、強くなろうとも、だ。
そんなスファルの言葉にカルセもうんうん、と頷く。
「それもそうですねぇ」
確かに、違いない。そう言って笑う彼らを暫し不服そうに見ていたリスタだったが、やがて諦めたように溜息を一つ。
「……本当に貴方たちには適わないよ」
背丈は大きくなった。魔力だって強くなった。戦闘だって、得意になった。足は使い物にならなくなってしまったけれど、それでも彼らに出会ったあのころに比べれば、ずっとずっと成長したはずで。
それでも、きっと彼らには勝てない。聡明なカルセ。勇敢なスファル。そして……誰よりも優しかった、クレース。彼らにはきっと、ずっとかなわないのだろうと思う。どれほど年を重ねても、彼らはずっと自分が追いかけるべき背中なのだと、そう思っていた。
そんなリスタの言葉に、カルセとスファルは顔を見合わせる。そして、少し照れたように頬を赤く染めて。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
そう言って、二人は笑った。
優しい風が吹き抜ける。それは穏やかで、何処か暖かい。まるで、自分たちを励ますようなそれは、優しい"彼"のようだった。
***
別れ道に出る。ふうと一つ息を吐いたリスタは二人の仲間の方を見た。
「じゃあ俺はこっちだから」
彼はそう言って、手を振った。
分かれ道を歩くのにも、慣れた。一生の別れでないことは、わかっている。頻繁には会えずとも、またこうして時折顔を合わせては、昔の話をするのだ。
「また会いましょう」
そう言って、カルセはひらりと手を振る。スファルもそんな彼の隣で笑って、手を振った。
「あぁ、楽しみにしてる」
リスタはそう言って、彼らに背を向けて歩き出した。ほんの少し足を引きずるような歩き方。それでも彼は、倒れることなく真っ直ぐに歩いていく。
その背中を見送って、スファルはカルセの方へ向き直った。そして小さく首を傾げ、問いかける。
「カルセは今日は何処に帰るんだ?」
色々な街、ともすれば国さえも渡っているカルセ。勿論彼自身の家もあるけれど、城下町からは少し離れている。此処から帰るとなれば、空間移動を使うには少し遠いし、馬車で帰れば朝になってしまうだろう。
「何処かに宿をとっているのか?」
そうスファルが問えば、彼は微笑んで首を振った。
「とりあえず、あの子のところに寄ってから、城に帰りますよ」
あの子、というのはクレースのこと。きっと今日の集まりに参加できなくて拗ねているでしょうから、という彼の声は凪いだ海のように穏やかだった。
スファルはそれを聞いて、目を細める。そしてぐっと伸びを一つした。
「それなら、俺も一緒に行こう。一人で行くのも退屈だろう?」
そうスファルは言う。カルセはそれを聞いて一瞬目を丸くした後、穏やかに微笑んで頷いた。
以前ならばきっと、"私一人で大丈夫ですよ"と返してきたことだろう。そう言わなくなったのは、幾らか丸くなったからなのだろうか。そう思いながら、スファルは彼と一緒に歩き出した。
「今ディアロ城に滞在してんのか」
クレースのところに寄ったら城に帰ると彼は言っていた。世界各国を回っている彼も、今は古巣に帰ってきているらしい。カルセは小さく頷いて、穏やかに微笑んだ。
「ええ。本当にありがたいですよ」
帰る場所があるということは。そう言って微笑む彼の髪が、柔らかく風に揺れている。
「そうだなあ」
そう呟いて、スファルも笑みを浮かべて、空を見上げた。
自分は、一度もこの土地を離れていない。騎士団を辞めてからも、城下町にとどまって、警官として働き続けている。だから、ディアロ城を"帰る場所"と思うことはあまりないのだけれど、この国を離れることもある彼からするとそのありがたさは一入なのだろう。
「お前が、元気そうで良かった」
久し振りに会ったしな。そうふと思いだしたことを言うと、カルセもくすくすと笑った。
「貴方も、騎馬隊長として名を馳せているようで何よりです」
ほんの少しの揶揄いの色を灯した声。騎士団にいる時から、カルセが素直に褒めてくれた試しがない。そう思いながらスファルは眉を寄せた。
「おい嫌味かそれは」
確かに騎馬隊長として働いてはいるのだけれど、そんなに結果を残している訳ではないのだが。そうスファルが言うと、カルセは緩く口角を上げて、言った。
「まさか。心からそう思っていますよ」
相変わらず、そんな彼の表情は読めない。やれやれと首を振ったスファルは苦笑を漏らして、呟いた。
「……まぁ、良いけどさ」
それもまた、お前らしい。スファルはそういって、笑う。カルセはそんな彼の横顔を見て微笑みながら、ぽつりと言った。
「ふふ。でも、本当に……思っていますよ。貴方が元気そうにしていてよかった、と」
その言葉は、きっと心からのものだった。
スファルの仕事は決して楽なものではない。カルセが国を離れている間に彼が死んでしまうということだって、十分に在り得るのだ。だから、こうして普通に会うことが出来たというのは、幸せなことだと思う。大切な人を失った経験があるから、一層……
それを聞いて、スファルは橙色の瞳を細める。そして昔から変わらない、明るい声音で言った。
「そりゃあまぁ、元気にはしてるよ。それだけが取り柄だからなぁ」
そう言いながらスファルは隣を歩くカルセを見た。
出会った頃から変わらない、澄んだ藍色の瞳。色の白い横顔は凛としている。それを見つめたスファルは一つ息を吐き出した。
「カルセも、あんまり無理するなよ。お前は、すぐに無理するから」
カルセ自身はしばしばクレースがすぐに無理をする、と嘆いていたけれど、彼自身も大概だ。疲れていても休もうとせず、大丈夫かと声をかけても平気だと返してしまう。弱った姿は絶対に周囲に見せない、プライドの高い人だから……
今なんて特に、そうだろう。自分一人でふらふらしているのだから大変な事も多いだろうに、そうした愚痴は一切こぼさない。"自分で選んだ道ですから"と穏やかに微笑んで見せるのだ。
そんな彼の強さは、尊敬している。しかしそれと同時に、心配してもいた。無理をしてはいないか。体を壊してはいないか、と。
以前のように近くに居られる訳でもない。だから。
「体に気を付けて過ごせよ」
そうスファルは言う。
カルセは、普段粗雑なスファルがそんなことを言い出したことに幾らか驚いていた。しかし、自分を気遣う発言をしてくれたのは純粋に嬉しくて、穏やかな微笑みを浮かべる。そしてしっかりと頷いて見せた。
「わかっていますよ。もう若くもないですしねぇ」
そう言いながら笑うカルセは、まったく衰えた様子はないのだけれど。
「ったく……こういう時まで冗談言うなよなぁ」
やれやれ、と苦笑を漏らす。そんな彼らはいつの間にか、大切な友人が眠る場所に辿り着いていた。
「身一つできちまったから、供えるもんもねぇけど」
ごめんな、と言いながらスファルは身を屈める。
「確かにそうですねぇ」
カルセはそう言いながら、指先に花を咲かせた。
「こうした魔術は、あまり得意ではないのですが」
これで、赦してくださいね……そう言って、カルセは自身の魔力で咲かせた花をそっと白い墓石に供えた。そしてしなやかな指先で墓石をなぞり、そっと微笑んだ。
「皆、元気でやっていますよ」
「これからも、見守っててくれな」
そう言って、二人は軽く目を閉じる。二人の頬を、髪を、優しい風が撫でていった。
「……さて」
目を開けたカルセは軽く、眼鏡を上げる。
「帰りましょうか」
そうスファルに促す。
「明日も、貴方は仕事でしょう」
「あぁ、そうだなぁ……帰るか」
そう言いながら、スファルは伸びをする。そしてまた、二人で歩き出した。
平和な、城下町。静かな森。自分たちが出会ったあの頃と変わらない、穏やかな景色だ。
―― これからも……
これからも、この国で、この街で、大切な友人たちと共に過ごしていける日々が続けば良い。そう思いながら、二人は静かな街を歩いていった。
***
私たちが紡ぐ物語は、これでおしまい。
遡る過去は、楽しいことばかりではなかった。辛いこともたくさんあった。悲しいこともたくさんあった。
それでも、大切な友人たちがいるのならば……上手く乗り越えることが、出来る。それは、今も変わらない。
これからもきっと……――
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