上 下
18 / 30

18

しおりを挟む
「春樹さん、あさひくん、このままで大丈夫なんでしょうか」

「そうね、まだ起きてくれないわね」
立花さんに会えないと聞いて不安になってしまったあさひくんは過呼吸を起こして、そのまま倒れてしまった。いつ起きてくれるのかわからないけど、2日も眠ったままだ。

「普通は運命の番と会うと、大体はすぐに番になるでしょ?でも幸樹さんは、あさひくんの気持ちを考えて我慢してる。自分の腕を噛んでまでラットにならないように理性抑えて…幸樹さんに会えなくなって、そしたら不安が募って、あさひくんは発作が起きたんだと思うの。運命の番は離れ離れはダメだってことの証明なんだけど」

「あさひくん、起きてくれるんでしょうか」

「自分の殻に閉じこもってしまったんだと思うの。大丈夫だといいけど、こればかりはいつ起きてくれるようになるかはわからないって…幸樹さんにあさひくんのこと連絡したら今日には帰ってくるって、目が覚めるといいけど…」
夕方、焦った様子で立花さんが帰ってきた。

「あさひは?」

「まだ眠ったまま…起きないの」

「そうか…あさひ、帰ってきたよ。これからはずっと一緒にいるから、もう何も心配することなんてないから、だから…目を覚ましてくれないか?」
静かな寝息を立てて眠っているあさひくんの頭を撫でてるけど、あさひくんは目を覚さない。

「幸樹さん、どこに行ってたの?」

「あぁ…あさひの住んでた所にな」

「あさひくんの?」

「警察官時代のつてで、あさひのことを調べてた」

「それで?」

「あさひの親代わりの叔父と叔母と会ってきた」

「大丈夫だったの?」

「向こうは、あさひのこと探してたよ。金持ちのアルファの元に行かせようと計画してたみたいでな。お金も前金で300万、もらってたらしい」

「そんな…」

「だから、そのもらってたお金と、あさひのお母さんの立替てた病院代、今までのあさひの養育費全て諸々で1,000万払ってきた。その代わり、もう2度とあさひに関わるなって誓約書にサインもさせた」

「そんな大金…多すぎでしょ」

「まぁな…おかげで貯金はパァーだ」

「立花さん、そんな…」

「足りない金は親に頭下げたよ。自分の持分じゃ足りなかったからな。でもこの時ばかりは金持ちの親がいてよかったって感謝したよ」

「幸樹さん、そこまでして」

「そりゃそうだろ。俺はあさひと番になりたい。好きだからな。でもあさひは番になるのを拒むだ。俺に相応しくないって、でもなんとなくわかったよ。お母さんが番に捨てられたのがやっぱり大きいんだろう。もしかしたら自分もそうなるかもって…そしたら、お母さんみたいになるんじゃないかって、それが多分、大きいんだろう。それとあの叔父と叔母、あさひの働いてたお金もほとんど取ってたらしいし、職場のやつに聞いてもオメガだから知らない所に行っても、そのうち捨てられるって所詮オメガは捨てられる運命だから、幸せになんかなれないって言われてたらしい」

「酷いよ」

「あぁ…そんなこと言われたら未来も希望もなくなるわな」

「これからどうするの?」

「どうやったら、あさひが俺のことわかってくれるか…いつか番になれるように努力するしかないよな」

「そうだね。きっとなれるよ。応援してるから」
そんな話をしてたとき達也が病室にやってきた。

「幸樹やっときたのか。あさひくんの様子は?」

「あさひくんは変わらない…幸樹さん、あさひくんの前の家に行ったって」

「そうなのか?」

「あぁ…行ってきて解決したよ。もう二度とあんな家には返さない。あさひの荷物も持ってきたけど、ほとんど荷物なんてなかったよ。大変な思いをして生きてたんだよ、あさひは出会えてよかったよ」

「あぁ…よかったな。それじゃああさひくんが目を覚ますように、誓いのキスでもしたらいいんじゃないか?」

「そんなこと…」

「おとぎ話の鉄板だろ?」

「おとぎ話って」

「運命の番もある意味、おとぎ話みたいなものだろ。一生に出会える人なんてごくわずかなんだから…真実の愛で目が覚めるなんて素敵じゃないか」

「そんな夢みたいなこと…あるわけないだろ?いつ目が覚めるかなんて医者のお前だってわからないのに…」

「そうなんだけどな。でも夢か夢じゃないかどうかは、試してみたらいい。じゃあ佐竹さん、春樹行くぞ。何かあったらナースコール押してくれ。それじゃあ」
そう言って、俺たちは部屋を出た。

「北見先生、いいんですか?」

「大丈夫だと思いますよ。運命の番は匂いで番だってわかるんです。だから、あさひくんが幸樹の匂いを感じとれば必ず目が覚めるって信じてます。もしそうだとしたら、学会で発表しないといけないですけどね」

「達也、あさひくん目が覚めるといいね」

「そうだな。今はみんなで信じよう。あさひくんが目を覚ましてくれることを」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。 [名家の騎士×魔術師の卵 / BL]

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...