オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの

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「大丈夫だよ。きっと目が覚めるから。あさひくん…今はゆっくりおやすみ。いい夢みるんだよ」

「ちゃんと側にずっといるから…」




誰かが頭を撫でてくれている。温かくて…大きな手で…母さんの手とは違うけど、とっても安心できる手だった。ずっとこのままでいたい…とその手に擦り寄った。 

すぐ近くでくすっと笑って「かわいいな」と聞きたくない声が聞こえてきて仕方なく目を開けた。

「なんでいるんですか?もう来ないでって言いましたよね?」

「仕事が終わって…様子を見に来た。体調はどうだ?ちょっと渡したいものがあって…よかったらこれ…」

そう言って差し出されたものは…なにかの液体が入った小さなボトルだった。
「なんですか、これ?」

「1人の時に嗅いでみたらいい。気にいるかわからないが…」
手の上に乗せられたボトルは天色あまいろみたいな鮮やかな青色をしている綺麗なボトルだった。

「じゃあまた来るから」そう言って病室から出てってしまった。もう来なくていいって言ったのに…そういえば…僕、いつの間にかベッドで寝てるけど…あれからどうしたんだっけ?そういえば頭も痛くないし、吐き気もおさまってる。でも今日も飲まないといけないんだよなーそう考えると憂鬱だけど、それにしても綺麗なボトルだなぁーと眺めていたら

「起きてたんだ。体調はどう?」北見先生が部屋に入ってきた。

「大丈夫です」

「これは?綺麗なボトルだね」

「はい。立花さんが1人の時に嗅いでみてって置いて行きました」

「そうか…うん。何かきっかけになるかもしれないけど…あさひくんのこと少し聞いてもいいかな?答えたくないことは答えなくていいから」

少し身構えていると大丈夫だよ。そう言って話はじめた。

ーあさひくんはどこから来たの?ここから遠い街かな?
ー東京です。

ーご両親は?
ー父は物心ついた時にはいなくて母も高校卒業間近に死にました。

ーじゃあ1人暮らしだったの?
ーいえっ…叔父さんと叔母さん…とです。

ー今までは学校に通ってたの?
ー働いてました。

ーあさひくんはオメガだよね?発情期が最後に来たのは何月かな?

ー来たことないです。

ーえ?来たことないって…今まで一度も?

ーはい…

ーそっか…発情期を知らないってことだよね。うん、わかった。ありがとう。

ーあのー検査とか…しますか?

ーえ?なんで?

ーいえ…発情期来ないと検査とかするのかな?って…

ーうーん無理にはしないよ。まぁ…普通よりは来るのが遅いけど…それより大事なことは、もう少しご飯が食べられるようになること。それでなくても痩せすぎだし…あと少し入院だね。

ーあの僕、あんまりお金ないのでもう退院します。

ーまだダメだよ。今のままじゃ退院させられないから。

ーでもお金が…


「金なら俺が出す」 

「幸樹…帰ったんじゃ」

「俺が出すから。達也が退院していいって言うまで入院してろ」

「いいです。見ず知らずの人からお金は借りられません。自分で働いて返します。なので分割にしてください。お願いします」先生に頭を下げた。

「見ず知らずって…」
立花さんは何かぶつぶつ言っていた。

「あさひくん。とりあえずもう少しだけ病院にいてね。ご飯がしっかり食べられるようになったら点滴外せるから、それまではこのままね」

「わかりました」

「あさひくん疲れたかな?いっぱい話したからね。教えてくれてありがとう。ゆっくりしてていいからね」

北見先生は立花さんを引っ張るように病室を出て行った。
外で2人が言い合う声が聞こえたが、会話の内容まではわからなかった。でも時たま、運命だとか今は無理とか無理じゃないとか聞こえてたけど…

日の光に当たっているボトルはキラキラとしていて綺麗だった。どんな香りがするんだろう?ちょっと嗅いでみようとボトルの蓋をそっと開けた。まるで森の中にいるようなそれでいてどこかで嗅いだことがあるような…とても落ち着く香りが広がった。その途端ドクっと心臓が音を立てた。なに?今までこんな風になったことがなかった僕は何が起こったのかわからなくて不安になった。ドクっ、ドクってなんだか身体の奥から熱が込み上げてくるような…どうしよう…どうしたら…息がだんだん苦しくなって呼吸がしにくくなってきたと思ったらドアの外が急に騒がしくなった。

「あさひくん」
先生の焦った声が聞こえたと同時に僕は意識を失った。

「おい。この匂い…」

「うん。俺もなんとなくわかるよ…幸樹、これ以上近づいたら…」

「わかってる。今、緊急用の特効薬打つから。こんなの久しぶりすぎてどうしていいかわかんない…ウッ…」

「幸樹、大丈夫?あさひくん発情期、今まで来たことないって言ってた」

「それなのに、なんであんな薬?」

「わからない。発情期が来るのが嫌だったとしか考えられないけど…理由は…本人に聞くしか…」

「もしかして、これ…嗅いだのか?」
さっき俺が渡したボトルの蓋が開いていた。

「もしかして…それで?匂いどんどん濃くなってきたね。急いで管理病棟に移さないと…他のアルファがラットになる危険がある」

「そんなことは絶対にさせない」

俺たちはオメガ専用の管理病棟に運んだ。すれ違うアルファにコイツを見られないようにシーツに包んで、俺は威嚇フェロモンを出しながら、とにかく走った。
 
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