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日の光が眩しくて目を開けた。トントンとしてもらってるうちに気づいたら寝てしまった…出て行こうと思ってたのに…
昨日は左腕に刺さっていた点滴は勝手に抜いたからか、包帯が巻かれていた。そして右腕には新しい点滴が刺さっていた。勝手に抜いたから怒られるよね…どうしようと思ってたら

「目、覚めたか?」足元の方から声が聞こえた。身構えると昨日の大柄な男の人がこっちに近づいてきた。昨日のことを思い出してしまいカタカタと震える身体を布団の下で抱きしめて目を瞑った。

「別に何もしない。怖がるな。昨日は……大きな声で怒鳴ったりして悪かった」

謝られても、どうしていいのかわからなくて、何も答えられずにいると
「俺が怖いか?別にお前を怖がらせるつもりはなかった。見た目がこんなんだからな。怖がる人間が多いのは昔からだ。でも命を粗末にしようとしたのが許せなかっただけだ。どんな理由があっても」

そんなことを言われて思わず目を見開き怒鳴ってしまった。
「そんなのっ、そんな思いをしたことがない人が言うことだよ。アルファのあんたなんか絶対にわからない。僕がどんな思いで大金払ってまでしてあの薬を買ったのなんか、何も知りもしないくせに…偉そうに…僕のことなんて、もうほっといて、もう出てってよ。もう二度と来んな。絶対に」
僕はそう言って布団をかぶって耳を塞いだ。涙があとからあとから流れて頬を伝った。悔しい。悔しいよ。母さん、僕はあとどれだけ我慢すればいい?僕の気持ちなんて誰もわからない。わかってなんかくれない。

僕が怒鳴ったのにも関わらず頭を撫でてくれる大きい手の感触がした。でも僕は布団から出れずに潜ったままでいた。

「悪かった。お前の気持ちを蔑ろにするつもりなんかなかった。確かに俺はアルファだが…これでも色々と辛く苦しい思いもしてる。だけどそれよりも、もっとお前の方が辛い思いも、苦しい思いもしたんだろう。それこそ自分の命を捨ててもいいと思うくらい。わかってあげられなくて悪い。ただお前の…その心の中にある重たい荷物を下ろしてみないか?俺が絶対に力になって守ると約束するから」
そんなこと言われても、どうしていいのか分からず、そのまま蹲っていると

「全く、幸樹!あさひくんに関わるなって言ったよね。何してるの?昨日だって幸樹のせいでしょ」 

「だが…この子は…」

「いいから。これから、あさひくんと話あるから、幸樹仕事は?溜まってるんじゃないの?」

「あぁ…じゃあ、また来るから…何かあったら…」 

「わかった。わかった。じゃあねー」
ドアを閉める音が聞こえた。

「ったく…ごめんね。あさひくん。顔見せてくれるかな?」
そう言われても、まだあの人がいるかもしれないと思って出れずにいた。

「あさひくん、怖かったよね。でも幸樹は悪いやつじゃないよ。まぁ…俺が言っても信用できないかもしれないけど…」
そう言って先生は自分と幸樹さんのことを教えてくれた。

先生はこの〝明けの里病院〟の副医院長先生。先生は昔、東京の病院で働いていたけど病院を継ぐために戻って来た。
先生はアルファだけど結婚していて番もいるからオメガの治療もできると…そしてさっきの大柄な男の人は立花幸樹さん36歳アルファで、先生の幼馴染。

彼の仕事は調香師、化粧品やフレグランスをはじめとする香料を調合する職業だ。普通は企業で働くのが一般的だが彼は違った。

彼は+Met(タスメット)という自分の工房をもっている。番を亡くしてしまったり、番に捨てられてしまったオメガが発情期に番の匂いを嗅いで落ち着いて過ごせるように番の匂いを一緒に調合してその人が求める香りを作ったりする。番がいなくなって心と身体のバランスを大きく崩したオメガのための一時的な処置になっている。また、長期出張になってしまって番の香りをお互いに感じたいからという人達や、自分の好きな世界に1つだけの香水を作りたいと需要はさまざまだが、どの人も香りを嗅いで落ち着きたいという気持ちには変わりはない。

立花さんは、まだ番はいない…というか番を持つ気がないらしいと先生は言った。何か事情があるのかまではわからなかったが…
立花さんの工房はこの病院から車で30分ほどの丘の上にあるそうで、僕を見つけたあの日は、贔屓ひいきにしているお客さんの家から自宅に帰る途中だったらしい。

「僕たちのこと少しはわかってくれたかな?次は…あさひくんって…まだ言えないよね?とりあえずご飯食べれるかな?胃を少し洗浄したからお粥だけど、ごめんね。今持ってくるから…」
そう言って先生は出ていった。布団から顔を出すとお日様がさんさんと降り注いでいた。起き上がってベッドの上に座った。

先生がお粥が乗ったお盆を持ってきてくれた。
「起きてて大丈夫?食べれるだけ食べてね。点滴は…外さないでね」そう言って先生は出てった。
お盆にはお粥とお味噌汁が
乗っていた。

「いただきます」
手を合わせて少しお粥をすくって食べた。美味しい。そういえば昨日の昼から何も食べてないや…お腹は空いてるはずなのに半分も食べられなかった…それでも先生は何も言わずに笑って片付けてくれた。

 
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