オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの

文字の大きさ
上 下
3 / 30

3

しおりを挟む
目の前の光がなくなった気がして薄目を開けた。すると見慣れない古びた天井が見えた。
「えっ?」と声に出したけど、その声はあまりにも小さかった…

「君、大丈夫?わかるか?」
声のする方を向くと、白衣を着た男性が立っていた。

「母…さん…は?」
僕は掠れた声で聞いた。

「母さん?君一人だったと聞いたよ。お母さんも一緒だったの?」

「母さん…は…樹の下で…待ってるって…」

「うん。わかったよ。そうか待っててくれてるんだね。ちょっと混乱してるかな?もう少しだけ眠ろうね」そう言って頭を撫でてくれた。その温かさで僕はまた目を閉じた。また母さんに会いたい。母さんに…でも僕は…母さんには…会えなかった。

「お前オメガなんだろ?それなのにまだ発情期来ないんだって?発情期が来たらもっと可愛がってやるから楽しみにしてろよ」

「駄目だよコイツは、発情期がきたら、アルファに高く売るって社長がこの前言ってたの聞いたぜ。小柄だし、まぁかわいい顔してるからな。だからそれまでは、俺達の玩具おもちゃなんだよ」
そう言って僕のことを殴ったり蹴ったりした。

「痛い、やめてー、痛いよー」

「大きい声出すな。社長にバレるだろうが…玩具は玩具らしく人形みたいに黙ってけ」
頭を叩かれ、背中を蹴られた。何回も何回も…
「痛い…ううぅ…」


「大丈夫?大丈夫だから、目開けて…」
頬や肩を叩かれた気がして目を開けた。

「ごめんね。うなされてたから起こしたよ」
僕のベッドの脇にはさっき見た男の人が立っていて、その隣には大柄な男性がいた。

「大丈夫?気分悪くない?」

「…はいっ」

「はじめまして。ここは明けの里病院。医師の北見達也です。君の名前聞いてもいいかな?あと年齢も」

「あの…僕…三浦あさひです。20歳になります」

「あさひくん、よろしくね。20歳になるんだ。かわいい顔してるからまだ未成年かと思ったよ。ごめんね。隣にいる人が、あさひくんを助けた立花幸樹。体はかなり大きいけど怖くはないから安心してね」

「大きいは余計だろ。そんなの昔からだろ。それよりお前、何で薬なんか飲んだんだ!そんなに死にたかったのか、でも迷惑なんだよ死なれたら、残された人のこと考えろよ。わかってんのか?おい!」
大きな声で怒鳴られて僕は身体が震えた。怖い怖いよ助けて…
 
「ダメだよ。幸樹、震えてるじゃないか。あさひくんごめんね。大丈夫だよ」
北見先生が肩をさすってくれた。

わかってる。迷惑かけてしまった。僕は2人の顔を見るのが辛くて布団を被った。

「あさひくん、落ち着いたら話しようね。まだ夜中だからゆっくり休みな。お前は…とりあえずこっち」
ドアの開け閉めの音が聞こえて2人の足音がどんどん遠く離れていった。僕は迷惑をかけてしまった。誰もいないと思ったのに助けられて…あの薬は効かなかったんだ。あんな高いお金で買ったのに…頑張って働いたお金だったのに…僕は被った布団の中で泣いてしまった。どうして…どうして母さんは迎えに来てくれなかったの?母さんに言われたけど、お花を摘みに行こうとしなければよかった。そしたら母さんとずっとあのまま一緒にいられたのに…僕は…また叔母さんの所に返されるの?ここ病院って言ったよね。発情期が来てないってバレちゃうのかも知れない…早く逃げないと…

僕は点滴の針を腕から引き抜いた。血がじわーっと出てきたが仕方がない。ベッドから降りて足を動かしてみた。大丈夫動ける。バックは…ベッドの隣のテーブルの上にあった。念のため中身を確認したけどちゃんとあった。首に手を当てるとチョーカーも付けてる。ここがどこなのかわからないけど、もしかしたら…あの見えた灯りだったのかも…でも早く出て行かなきゃ。じゃないとまた迷惑かけるから…真っ暗だから外に出ても誰にも会わないだろうと病室のドアを開けた。

「うわっー」さっきの大柄な男の人が壁にもたれて立っていて、こっちを睨みつけるように目を細めて僕を見ていた。
身長160㎝の僕の背よりも20センチ以上は高いだろう。見上げないと目を見れない。

「どこへいく」
低く冷たい声色で聞かれて萎縮してしまう。身体がガタガタと震えてバックを落としそうになってしまったので、慌てて力を込めて必死にバックを握った。

僕が何も答えないからか立花さんからはイライラしている雰囲気がしてきた。この人はアルファなんだろう。急に圧迫してきた空気に呼吸が少し苦しくなってきた。アルファ独特の威圧フェロモンを感じた。逃げないと…そう思って1歩を踏み出そうとしたら

「うわっ」
僕は立花さんに荷物みたいに担がれてベッドの上に戻された。バックを手から取られたその時に点滴を無理矢理外した腕から血がポタポタと滴り落ちてきたのに気づいたんだろう。何も言わずタオルで押さえられて布団を被せられた。
「まだ寝ていろ」
そう言って布団の上からトントンと胸の辺りを叩いてくる。まるで幼子を寝かしつけるように。優しく、優しく…さっきの威圧オーラなんか感じさせずに…
  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

処理中です...