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出会い

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初夏の空に立ち上る夜半の煙よわのけぶりを見ながら亡き父のことを思った。
まさかこんなにもあっという間に亡くなってしまうとは…父の癌が発覚して余命宣告をされてすぐに父の会社を継いで1年…あっという間に過ぎていったように思う。最後まで俺の結婚を望んでくれていたが…心から愛する伴侶を紹介できなかったのは申し訳なかった。
親父も今頃モモに会っているだろうか?

そんな感情に浸りながら母のことが脳裏に浮かんだ。控室に戻ろうと歩き出したところで、隅っこの方で膝を抱え、空を見上げてる少年が目に入った。可愛い顔をしたその子に目がいってしまった。年はまだ中学生くらいだろうか?背も低く、半袖の下から伸びてる腕はかなり細い。しかも頭に包帯をして右腕にも包帯をしている姿が痛々しかった。

この子も大切な誰かを亡くしたんだろうな?そう思っていたら、髪を振り乱してる女性がその少年の元にやってきて彼の左腕を掴んで揺さぶった。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…どうして?どうして私から大事なものを奪うの」と叫び出した。
俺は思わず止めに入った。
「彼は怪我をしてるじゃないですか、そんなに揺すったら…」

「アンタ誰?部外者は引っ込んでてよ。これは家族の問題です」

「早く行くよ。奈月なつき
そう言って奈月と呼ばれた子の左腕を掴んで引きずるように部屋に戻って行った。

「なんなんだ?」
それが俺と奈月との出会いだった。

包帯姿の彼の姿が浮かんだ、かわいそうに…あの奈月と呼ばれた子は大丈夫なんだろうか?あの細さだ、ご飯はちゃんと食べてないのかもしれない。あの子の心配をしながらも控え室に戻ると秘書の上原が声をかけてきた。
「社長、どこにいらしてたんですか?探したんですよ」

「悪い。ちょっと外にな」

「勝手にいなくならないでください。自分のお立場を考えてくださいね」

「悪かった」
このやけにうるさい秘書は俺の幼馴染の上原 卓也だ。仕事はきっちりとしてくれるのだが、何せ口うるさい。

いつき、卓也くんを困らせないのよ。卓也くんごめんなさいね」

「いえ…大丈夫です」
そんな話をしていたら館内のアナウンスが聞こえた。
「的場家、山田家、斎藤家のご親族の皆様方はご収骨室にお集まりください」

「行くか」
俺たちは収骨室に向かった。まだ若かった父の骨は思ったよりしっかりしていた。家族、親族と共に父の骨上げをした。無事に終わり、火葬場を後にしようと駐車場まで歩こうとしている時だった。

いた……さっきのあの子だ。俯いて、さっきの母親と思う女のすぐ後ろを位牌を持って歩いている。ふらふらとした足取りが気になった。

あの子は大丈夫なのか?と見ていたら、つまづいて倒れてしまった。
「何してるの?早く起きなさい」
そう言われて腕を引っ張るが起き上がらない。俺は胸に抱いていた父のお骨を卓也に預け駆け寄って彼を抱き起こそうとすると
「触らないほうがいいわ。早く救急車を呼んで」
母の声が聞こえた。現役の看護師である母はすぐに彼の側に行き、脈を取ったり確認をしていた。彼はぐったりとして浅く呼吸をしていたが目を開けない。
「この子のお母様ですか?」

「そうよ」

「この怪我は?」

「落ちたのよ。2階の部屋から」

「病院へは?」

「朝まで入院してたのよ。でも…連れ出してきたのよ。あの人の骨を拾わせるために。だって、あの人が死んだのは、こいつのせいなのに」

「病院の許可は取ってるんですか?」

「はぁ?そんなの取るわけないじゃない」

「救急車はまだなの?」

「母さん?」

「もしかしたら脳内出血を起こしてるかもしれない。卓也くん相原に電話して、今から検査して最悪オペできるかって」

「わかりました。今すぐ確認いたします」
それから間も無く救急隊員が到着した。母の働いてる総合病院に彼を運び出す時、母に言われて俺も一緒に同行することになった。
「母さん、悪い」

「いいのよ。それよりもちゃんと見てあげてね。心配だから」

「わかった。卓也も頼む」

「郁子さんを送ったら俺も行くから」
俺は、奈月くんの母親と救急車に乗り込んだ。

「なんであんたも?」

「心配なんでね」

「私、お金ないのよ。手術なんてお金がかかること」

「保険に入ってないのか?」

「そんなお金、こいつに出すわけないじゃない」
この親は育児放棄してるのか?だとしても、もう中学生なら自分の身は自分で守れるだろう。
救急車が到着すると相原先生が待っていてくれた。

「バイタルは?」

「徐脈で血圧低下。意識レベルも低いです」

「わかった。すぐに運ぼう。樹、この子は助けるように頑張るから」

「頼みます。相原先生」
俺たちは、診察が終わるのを待った。

「これから緊急手術をします。説明をしますので、中にお入りください」

「手術?冗談じゃない。どんだけお金がかかるのよ。そんなお金持ってないわよ」

「息子さんがどうなっても良いんですか?」

「良いわよ。この子が死んでくれたらよかったのに」
その言葉を聞いて俺は腹が立って、近くの壁を殴った。
「ゴン!」
「ふざけんなよ。どんな理由かは知らないが腹を痛めて産んだ子じゃないのかよ」

「他人のあんたにはわからないわよ。お金持ちそうなスーツ着て、苦労なんか知らないんでしょうね。こっちはこの子のせいで散々な目に遭ったと言うのに」

「どんな事情かなんて聞いてない。相原先生、金は俺が出す。だから助けてやってくれ」

「いいのか?樹…わかった。とりあえず行ってくる」

「よろしく頼む」


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