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もう離さない
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《side奏》
あれから1年半が過ぎた。
俺は大学に通いながら純平に毎日会いにいっている。結城先生や誠先生のアドバイス、大学教授にも事情を話をして色んな薬を試した。一進一退を繰り返しながら、ようやく純平に合う薬が見つかり、会話ができるまでに回復してきた。
今日もまたいつものように健太さんが純平の乗る車椅子を押して海までやってきてくれた。
「健太さんいつもありがとうございます。純平おはよう。今日の調子は?ご飯は食べた?」
「奏さん、おはようございます。ご飯食べましたよ。今日の調子はいいです」
そう。純平は俺との出来事を覚えていない…ようやく身体と心が回復するんじゃないかって期待したのに…結城先生は記憶を自分で封印してるんじゃないかって…辛かった記憶を無くす事で、今、心が安定して普通に過ごせてるのかもしれないって…本人が安定して、心から安心した時に記憶も…戻ると思うわよ…と言われた。それがいつになるか誰もわからない…
それでも俺は今のままでもいいと思ってる。毎日穏やかに過ごせている純平が、ここにいてくれるのなら…
「これから大学行くんですか?」
「そうだよ。行ってくるよ」
「頑張ってくださいね」
「ありがとう」
そんな話をして俺はいつものように純平の頭を撫で手を握りながら
「純平、また夕方くるよ。待っててね。愛してる」
そう言うと、頬を赤く染めて見上げて「待ってます。絶対に来てくださいね」と今日は珍しく念を押してきた。この穏やかな日々が続いてくれるのを願いながら大学に向かった。
大学で勉強して少しはオメガの事を理解してきたつもりだ。
番と離れて過ごすのは辛い事が多すぎて精神的にも肉体的にもどれほどの思いをたくさんしてきたんだろう。何度も、何度謝っても許されない事を自分はしたんだ…本当に情けなくて、純平にどうしたら許してもらえるのか…でも今の純平にはそれがわからない。だからこそ辛すぎたことから自分を守っているのかもしれない。頭ではわかってはいる…わかっているけど俺が愛してると言うたび、頬を染める純平を見ると俺のことを好きなんじゃないかって思う。いつか純平と愛を分かち合いたい。そして愛し合いたい。そう思ってしまう情け無い自分もいる。まだ若い俺だ。どうしても欲情してしまう時もある。1人で処理するしかないけど…他に頼ろうとは思わない。純平さえいてくれれば…純平が側にいてくれれば…でもあれから純平は発情期が来なくなった…今は…心を治すほうが優先だからな。
夕方、海に行くと純平が1人でベンチに腰掛けていた。周りを見ても健太さんも車椅子もない…どういう事?不安で「純平っ…大丈夫?」そう駆け寄って声をかけると「ふふふっ大丈夫……見ててね」とその場で立ち上がった。
「えっ…」
「ずっとリハビリしてて、少しだけ歩けるようになったんです。奏さんと一緒に歩きたいなーって、だって車椅子だと手繋げないから」
俺は思わず純平を抱きしめた。「ありがとう。純平…愛してる。いっぱい手繋いで歩こう。頑張ったな。偉いよ純平。愛してるよ。」
その時だった抱きしめていた腕に重さがかかった。「えっ…」純平は微笑んだまま意識を失っていた。
俺は純平を抱えて施設まで走った。
施設長と健太さんからの鋭い視線を受けながら「何かきっかけはありましたか?」と質問された。
「純平が…俺と手を繋いで歩きたいからリハビリを頑張ったって言われて…思わず抱きしめました…」
「そうですか…っ、リハビリ頑張ってたのは、あなたと手を繋ぎたかったのか…きっとあなたに抱きしめられた時に、あなたの匂いを…番だから…思いだしたのかもしれませんね。記憶が戻るかどうかはわからないけど…今日は様子を見ます。何かあれば電話するので…また明日、見に来てくださいね」
そう言われて施設を後にした。
俺との嫌な記憶なんか思い出さなくてもいい。何も思いださなくても、ただ穏やかに純平が過ごしていけるのなら。俺は…俺はなんだってするのに…純平、早く目を覚ましてくれよ。またいっぱい話しよ。手繋いで一緒に歩きたいよ。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
あれから1週間、純平はまだ目が覚めていない。いつ目が覚めるのか…不安な気持ちのまま今日も施設のチャイムを鳴らす。今日は健太さんが出てきてくれた。
「…純平は?」
「ぐっすっ…」
「健太さん、純平は?…純平に何かあったんですか?」
「純平っ…起きた…起きて…俺のこと…覚えてた。」
「よかったっ…目が覚めたんですねっ」
「純平…今連れてくるから…待ってて…」
そう言って健太さんは施設の中に入っていった。
そうか…目が覚めたんだ…
嫌な記憶もなく、この施設で過ごした日々を思い出したのかもしれない。
でも…俺のことは?忘れてない?少しでも覚えてるといいけど…
もしかしたら、また1から関係をやり直さないといけないかも知れない…それでもいい。それでも純平が生きてさえいてくれるのなら。
リハビリもまた1からなんだろうな。少しでも純平を支えられるようになりたい。そう思っていた…
あれから1年半が過ぎた。
俺は大学に通いながら純平に毎日会いにいっている。結城先生や誠先生のアドバイス、大学教授にも事情を話をして色んな薬を試した。一進一退を繰り返しながら、ようやく純平に合う薬が見つかり、会話ができるまでに回復してきた。
今日もまたいつものように健太さんが純平の乗る車椅子を押して海までやってきてくれた。
「健太さんいつもありがとうございます。純平おはよう。今日の調子は?ご飯は食べた?」
「奏さん、おはようございます。ご飯食べましたよ。今日の調子はいいです」
そう。純平は俺との出来事を覚えていない…ようやく身体と心が回復するんじゃないかって期待したのに…結城先生は記憶を自分で封印してるんじゃないかって…辛かった記憶を無くす事で、今、心が安定して普通に過ごせてるのかもしれないって…本人が安定して、心から安心した時に記憶も…戻ると思うわよ…と言われた。それがいつになるか誰もわからない…
それでも俺は今のままでもいいと思ってる。毎日穏やかに過ごせている純平が、ここにいてくれるのなら…
「これから大学行くんですか?」
「そうだよ。行ってくるよ」
「頑張ってくださいね」
「ありがとう」
そんな話をして俺はいつものように純平の頭を撫で手を握りながら
「純平、また夕方くるよ。待っててね。愛してる」
そう言うと、頬を赤く染めて見上げて「待ってます。絶対に来てくださいね」と今日は珍しく念を押してきた。この穏やかな日々が続いてくれるのを願いながら大学に向かった。
大学で勉強して少しはオメガの事を理解してきたつもりだ。
番と離れて過ごすのは辛い事が多すぎて精神的にも肉体的にもどれほどの思いをたくさんしてきたんだろう。何度も、何度謝っても許されない事を自分はしたんだ…本当に情けなくて、純平にどうしたら許してもらえるのか…でも今の純平にはそれがわからない。だからこそ辛すぎたことから自分を守っているのかもしれない。頭ではわかってはいる…わかっているけど俺が愛してると言うたび、頬を染める純平を見ると俺のことを好きなんじゃないかって思う。いつか純平と愛を分かち合いたい。そして愛し合いたい。そう思ってしまう情け無い自分もいる。まだ若い俺だ。どうしても欲情してしまう時もある。1人で処理するしかないけど…他に頼ろうとは思わない。純平さえいてくれれば…純平が側にいてくれれば…でもあれから純平は発情期が来なくなった…今は…心を治すほうが優先だからな。
夕方、海に行くと純平が1人でベンチに腰掛けていた。周りを見ても健太さんも車椅子もない…どういう事?不安で「純平っ…大丈夫?」そう駆け寄って声をかけると「ふふふっ大丈夫……見ててね」とその場で立ち上がった。
「えっ…」
「ずっとリハビリしてて、少しだけ歩けるようになったんです。奏さんと一緒に歩きたいなーって、だって車椅子だと手繋げないから」
俺は思わず純平を抱きしめた。「ありがとう。純平…愛してる。いっぱい手繋いで歩こう。頑張ったな。偉いよ純平。愛してるよ。」
その時だった抱きしめていた腕に重さがかかった。「えっ…」純平は微笑んだまま意識を失っていた。
俺は純平を抱えて施設まで走った。
施設長と健太さんからの鋭い視線を受けながら「何かきっかけはありましたか?」と質問された。
「純平が…俺と手を繋いで歩きたいからリハビリを頑張ったって言われて…思わず抱きしめました…」
「そうですか…っ、リハビリ頑張ってたのは、あなたと手を繋ぎたかったのか…きっとあなたに抱きしめられた時に、あなたの匂いを…番だから…思いだしたのかもしれませんね。記憶が戻るかどうかはわからないけど…今日は様子を見ます。何かあれば電話するので…また明日、見に来てくださいね」
そう言われて施設を後にした。
俺との嫌な記憶なんか思い出さなくてもいい。何も思いださなくても、ただ穏やかに純平が過ごしていけるのなら。俺は…俺はなんだってするのに…純平、早く目を覚ましてくれよ。またいっぱい話しよ。手繋いで一緒に歩きたいよ。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
あれから1週間、純平はまだ目が覚めていない。いつ目が覚めるのか…不安な気持ちのまま今日も施設のチャイムを鳴らす。今日は健太さんが出てきてくれた。
「…純平は?」
「ぐっすっ…」
「健太さん、純平は?…純平に何かあったんですか?」
「純平っ…起きた…起きて…俺のこと…覚えてた。」
「よかったっ…目が覚めたんですねっ」
「純平…今連れてくるから…待ってて…」
そう言って健太さんは施設の中に入っていった。
そうか…目が覚めたんだ…
嫌な記憶もなく、この施設で過ごした日々を思い出したのかもしれない。
でも…俺のことは?忘れてない?少しでも覚えてるといいけど…
もしかしたら、また1から関係をやり直さないといけないかも知れない…それでもいい。それでも純平が生きてさえいてくれるのなら。
リハビリもまた1からなんだろうな。少しでも純平を支えられるようになりたい。そう思っていた…
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