いつか愛してると言える日まで

なの

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やっと…

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いつの間にか5年もの月日が流れた。相変わらずヒートはバラバラだった。番がいないオメガはヒートのコントロールが難しいらしい…
 
僕はもう生きていたくない…
最近そう思うことが増えてきた。
ヒート症状が重くて奏との記憶が辛く僕の心をどんどん弱くさせた。
奏はもしかしたら僕なんか忘れて新しい番ができたのかもしれない。幸せな生活を送れてるのかもしれない。
それなのに…僕は…あの時、奏と番になれて嬉しかった。捨てないって言ってくれた…奏と一緒になれるって…これじゃあ、お母さんと一緒だ。薬が効かない僕はヒートのたびに自分で慰めることが辛くなってきて最近は自傷行為が増えた。

 
「純平…もうやめよう。純平、目を覚ませって…これ離そう。」健太に腕を握られ我に返るとカッターを握りしめていた。
僕の左腕には切りつけた跡がたくさんある。
自分の腕を切ると血が溢れてくる。その血を見てるだけで、まだ自分が生きてるんだと安心するようになってしまった。

「純平…また薬変えてみようか?」
「まだ試してない薬あったよね?」

何度、変えてみただろう。
それでも僕に合う薬が見つからない。番と一緒にいられない僕は…いつまでこの生活をするのだろう。

ただ息を吸ってるだけ…
最近は声を出すこともできなくなり、固形物を食べるのが難しい日もある。立ってなくなり歩くのも難しくなってきた為、車椅子に乗せてもらう。惨めだ。もう本当に死なせてほしい。自分はただの人形のようだな…

それなのに健太はいつも車椅子に乗せて外に連れ出してくれる。

「純平…海だよ。今日の海は太陽に当たってキラキラしてるね。今日はあったかいね。先生がね新しい薬ができるって言ってたよ。純平に合う薬かもしれないから、もう少しだけ頑張ろうよ…」
「いつかまた一緒に砂浜を走ろうよ。裸足で走ったら気持ちいいよね。」



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆

《side奏》



遠くから車椅子に乗った青年が見えた。
顔色が悪く頬はこけ、Tシャツから少しだけ見える手は青白く細かった。車椅子を押してる青年は健康そうで車椅子に乗る青年に話しかけていた。

どんどん2人が近づいてくる。

急にドキドキと心臓が音を立てて鳴り始めた。


まさか…

まさかだろ…

こんなところにいたのか?

純平?


俺は思わず駆け寄って、「純平だろ?わかるか?」と声をかけてしまった。
車椅子に乗った青年は俺のことも見ずに無表情のままだった。 


「純平…」思わず手を握ってしまった。
 

「やめてください」車椅子を押していた青年に言われた。


「誰ですか?純平に触らないでください。」


「俺は…」


「あなたアルファでしょ。彼は番から捨てられたオメガです。アルファに触られると発作を起こす可能性があるのでやめてください」


「捨てられた?」


「そうです。好きな人と番になれたのに、その本人は覚えてないって言ってました。それにその彼から酷い言葉を言われて逃げてきたって…1人で海を見てたんです。自殺しちゃうんじゃないかと思って俺が見つけて俺もいるあそこのオメガ専用の施設に連れてきたんです。」
「酷い話ですよね。そんなんで捨てるなんて…まぁこの施設にいるオメガなんてみんな捨てられた人達なんだけどね。」   


「まさか…他に相手のこと言ってませんでしたか?」


「すごく好きだったっていつも言ってました。だから本人が忘れてるのなら仕方ないって。きっと彼は新しい番を見つけて幸せになってると思うって…純平、薬が効きづらくてヒートの症状が重くて大変なんです。最近は自傷行為が増えてきたので目を離すと腕を切りつけるんです。」
そう言って純平の腕を少し捲ると跡がたくさん目に入ってきた。

「純平に合う薬が早くできればいいんですけどね。そのアルファを見つけられたらいいんですけど…名前も教えてくれないし、探しようがないけど…早くしないと純平…これ以上は命がもたないから…」
  
「知らない人なのに、ちょっと話すぎましたね。すみません。俺も参ってて…ここ最近は笑う事も泣く事も喋る事もできなくなってきて…オメガになんて生まれなければ…純平はきっと…幸せになれたのに…」 

涙を浮かべて、無表情に座る純平に「帰ろうか…」そう言って青年は純平が乗る車椅子を押して施設へと帰っていった。


俺はどのくらいその場に立ちつくしてただろう。2人が見えなくなってもその場から動けなかった。
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