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第2章

第69話

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他の使用人に見つからないように僕は走って門じゃない垣根をくぐり抜けて外に出た。久しぶりに屋敷から出るのはものすごく怖くて今日のことを考えるだけで昨日は怖くて眠れなくてカイルにしがみついてしまった。それでもカイルは何も言わずに抱きしめてくれた。僕はまだ働くこともできなくて、みんなに迷惑をかけている。この前の事件の時も……まだ学校に行くのは怖くなってしまう弱虫だけど、でもカイルの誕生日にあげたいものがあるんだ。誰の手も借りずに自分の力だけで……働いてお金を稼ぐ方法がない僕にはそれしかないのだ。

どのくらい走ってきたのかはわからないが、ずいぶん遠くの池の辺りまで来ていた。この池の向こうのあの山に登れば……きっとあるって言ってた。

そう僕が欲しいのはこの国で幻と言われてる「きのこ」だ。僕の大っ嫌いな食べ物だけど……カイルが食べてみたいって言ってたのを昔聞いたことがある。でもそのきのこを求めて野獣も来るって言ってたけど、僕は野獣が嫌いな匂いを持ってきてるから大丈夫だ。
この前、料理長たちが話してるのを聞いてしまったんだ。野獣は山椒の匂いが嫌いだって。だから僕は昨日のお昼にこっそり持ち出してしまった。

「お腹すいたぁー」
寝不足なのに朝早かったから、あまり食欲がなくて食べられなかった。カイルは後でのんびり食べなさい。と言ってくれて頷いたけど、こんなことならサンドイッチでも持ってくればよかった。夕方までには家に帰りたい。そう思いながらどこまでも続く山道を登っていった。

「これ食べられるよね?」
山道を登ってるとアケビに似た紫色の実がついてる木があった。落ちていた棒で揺すると簡単に取ることができた。

「美味しい」
中の果肉が柔らかくて甘くて美味しい。もっと食べたいけど他のは中身が見えていたりしていて食べられそうな身はついてなかった。しばらく行くと湧き水が沸いている場所があった。手ですくって飲むとすごく冷たくて美味しかった。一休みしてから僕はまた山道を登りはじめた。ずいぶん登ったような気がするのに幻のきのこは全く見つからなかった。
見るからに食べられないような色のきのこは見つかるのに……もしかしたらもっと奥に行けば見つかるかもしれない。足が痛くなってきたのを我慢しながら僕は登り続けた。


◇◆◇◆◇


「どういうことなんだ説明しろ。場合によってはお前を解雇する」
国王に怒鳴られて俺は頭を下げたまま謝り続けた。

ことの発端は王子を見送った後、ノアがかくれんぼをしたいと言ったことだろう。昔からノアは上手に隠れていたが俺は鼻がきく獣人だ。そのことを見破ったノアはあろうことか俺に王子の匂いがついたTシャツを被せてきた。そのせいでノアがいなくなっていることに気づくのが遅くなってしまったのだ。

100まで数えおわって探そうと思っても王子の匂いが鼻についてしまって見つけられなかった。昔、隠れていた場所や木の上などあらゆる場所を探しても見つからなくて俺はだんだん焦ってきた。ようやく鼻がきいた頃にはノアの匂いが屋敷からなくなっていた。それに気が付き他の使用人たちと探しているのを騒ぎを聞きつけた国王に見つかって今に至る。

「本当に本当に申し訳ありません」
俺は必死になって謝り続けた。でも謝ったところでノアは帰ってこない。みんなでノアと何を話したか、どんなことに興味を持っていたか思い出していたが……何も思い出せなかった。

「ノアに何かあったら……」
そう国王が呟く声を聞いて俺は焦った。そして思い出したのだノアが王子の誕生日を気にしていたことに……
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