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「美姫ちゃん。今日は俺ら、サッカー部の練習がないんだ。帰りにカラオケに寄っていこうぜ」
心配げな表情の美姫ちゃんに、横からジュンイチが声をかける。
いいよな、気軽に女子を誘える性格のヤツは。
すると、美姫ちゃんは驚きの行動にでた。
興味がなさそうな顔をして窓の外を眺めていたオレを、誘ってきたのだ。
「ねえ。高雅くんも一緒にカラオケに行かない? このあと、予定がなければ、だけど……」
「はあ? 美姫ちゃん、冗談だろ?」
「こいつがカラオケなんて、行くわけないって!」
オレが返事をする前に、ジュンイチたちが驚いたように叫ぶ。
ジュンイチたちの態度は腹が立つが、そういうオレも、心の中で「ないない!」と手を振った。
だが、美姫ちゃんがシュンとしたそぶりで唇を尖らし、小さな声で続ける。
「だって……。今日、現国の授業で教科書を読んだときの高雅くんの声、すてきだったんだもの。高雅くんって、ほとんど教室でもしゃべらないじゃない? だから、カラオケなら……。もっと声が聞きたいなって……」
瞳を潤ませた美姫ちゃんに、ジュンイチが太刀打ちできるわけがない。
ぐるっと首をまわしてオレのほうへ向くと、嫌そうな感情を隠そうともせずに言ってきた。
「おう、わかった! 高雅も行くよな? な?」
そう言われたら、オレも断れない。
何といっても、美姫ちゃんに、声をもっと聞きたいと言われてしまったんだ。
その場でくるくる回って喜びの舞を披露したい気分だ。
だが、当然そんなことをする度胸も技術もなく、いかにも仕方がなさそうな態度で、オレは椅子から立ちあがった。
彼らが向かったカラオケ店は、オレがめったに足を向けない繁華街の方角だ。
ジュンイチとリョウ、そして美姫ちゃんのあとをついて歩きながら、オレは、目下の問題で頭の中がいっぱいだった。
声をほめてもらったオレは舞い上がってしまったが、決して歌がうまいわけではない。それどころか、カラオケは初めてだ。
歌えるのかどうかも定かではないくらいだ。
それは、同じ中学だったジュンイチも、音楽の時間で知っている。
だから、オレがカラオケにまじっても、彼女の称賛を持っていかれることはないと思っているのだろう。
これは困った。これは非常にまずい。
彼女を幻滅させてしまう。
何とか、この危機を回避できる手段はないだろうか。
なんてことを考えながら、一番後ろを黙々と歩いていたオレの横まで、美姫ちゃんがススっとさがってきた。
そして、天使のような笑顔をニコッと浮かべる。
「わたし、高雅くんともっと話がしたかったの。カラオケは、ただの口実」
オレは、驚いて目を見開く。
するとその様子がおかしかったのか、美姫ちゃんは頬を赤らめて笑みを深めた。
そして、恥ずかしそうにうつむくと、さらに小さい声になって続ける。
「高雅くん、いつも寡黙でしょ。前から、その、カッコイイなあって思っていて……」
え? と、オレの口が形を作る。
これは――彼女もオレに好意があるということなのか?
そうなのか?
「今日も、怪我をしたのかと思うと、心配でいてもたってもいられなくなって。わたし、気がついたの。恥ずかしくて、教室では言えなかったけれど」
予想外の展開にオレはアタフタとしているが、うつむいている彼女は気づいていない。
そこで、ハッと我に返る。
これは、寡黙でカッコイイというオレのイメージを保たなければ……。
そう考えて、ニヤケそうになるオレは、表情をひきしめる。
だが、彼女のほうからここまで言わせてしまって、男としてどうなのだろう?
「その、わたし、高雅くんのことが好きみたい……」
真っ白い首すじをピンクに染めて、美姫ちゃんは告げた。
心配げな表情の美姫ちゃんに、横からジュンイチが声をかける。
いいよな、気軽に女子を誘える性格のヤツは。
すると、美姫ちゃんは驚きの行動にでた。
興味がなさそうな顔をして窓の外を眺めていたオレを、誘ってきたのだ。
「ねえ。高雅くんも一緒にカラオケに行かない? このあと、予定がなければ、だけど……」
「はあ? 美姫ちゃん、冗談だろ?」
「こいつがカラオケなんて、行くわけないって!」
オレが返事をする前に、ジュンイチたちが驚いたように叫ぶ。
ジュンイチたちの態度は腹が立つが、そういうオレも、心の中で「ないない!」と手を振った。
だが、美姫ちゃんがシュンとしたそぶりで唇を尖らし、小さな声で続ける。
「だって……。今日、現国の授業で教科書を読んだときの高雅くんの声、すてきだったんだもの。高雅くんって、ほとんど教室でもしゃべらないじゃない? だから、カラオケなら……。もっと声が聞きたいなって……」
瞳を潤ませた美姫ちゃんに、ジュンイチが太刀打ちできるわけがない。
ぐるっと首をまわしてオレのほうへ向くと、嫌そうな感情を隠そうともせずに言ってきた。
「おう、わかった! 高雅も行くよな? な?」
そう言われたら、オレも断れない。
何といっても、美姫ちゃんに、声をもっと聞きたいと言われてしまったんだ。
その場でくるくる回って喜びの舞を披露したい気分だ。
だが、当然そんなことをする度胸も技術もなく、いかにも仕方がなさそうな態度で、オレは椅子から立ちあがった。
彼らが向かったカラオケ店は、オレがめったに足を向けない繁華街の方角だ。
ジュンイチとリョウ、そして美姫ちゃんのあとをついて歩きながら、オレは、目下の問題で頭の中がいっぱいだった。
声をほめてもらったオレは舞い上がってしまったが、決して歌がうまいわけではない。それどころか、カラオケは初めてだ。
歌えるのかどうかも定かではないくらいだ。
それは、同じ中学だったジュンイチも、音楽の時間で知っている。
だから、オレがカラオケにまじっても、彼女の称賛を持っていかれることはないと思っているのだろう。
これは困った。これは非常にまずい。
彼女を幻滅させてしまう。
何とか、この危機を回避できる手段はないだろうか。
なんてことを考えながら、一番後ろを黙々と歩いていたオレの横まで、美姫ちゃんがススっとさがってきた。
そして、天使のような笑顔をニコッと浮かべる。
「わたし、高雅くんともっと話がしたかったの。カラオケは、ただの口実」
オレは、驚いて目を見開く。
するとその様子がおかしかったのか、美姫ちゃんは頬を赤らめて笑みを深めた。
そして、恥ずかしそうにうつむくと、さらに小さい声になって続ける。
「高雅くん、いつも寡黙でしょ。前から、その、カッコイイなあって思っていて……」
え? と、オレの口が形を作る。
これは――彼女もオレに好意があるということなのか?
そうなのか?
「今日も、怪我をしたのかと思うと、心配でいてもたってもいられなくなって。わたし、気がついたの。恥ずかしくて、教室では言えなかったけれど」
予想外の展開にオレはアタフタとしているが、うつむいている彼女は気づいていない。
そこで、ハッと我に返る。
これは、寡黙でカッコイイというオレのイメージを保たなければ……。
そう考えて、ニヤケそうになるオレは、表情をひきしめる。
だが、彼女のほうからここまで言わせてしまって、男としてどうなのだろう?
「その、わたし、高雅くんのことが好きみたい……」
真っ白い首すじをピンクに染めて、美姫ちゃんは告げた。
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