1 / 3
1
しおりを挟む
帰りのホームルームが終わって、皆が一斉に立ちあがる。
教室の窓際の席。急いで立ちあがる気のないオレの机の前に、彼女が立った。
オレに用があるとは珍しい。
黙ったままオレは視線だけあげて、彼女の可愛らしい顔を見た。
「高雅くん。今日はどうして、左目に眼帯をしているの?」
オレは返事をしない。ただ心の中で答える。
昨日から、白目の血管が切れてしまったみたいなんだ。
鏡を見て、白目の部分全体が真っ赤に染まった自分の眼にびっくり!
我ながら震えあがった。
これは誰が見ても怖いだろうと思って、今日は朝から眼帯をしているんだ。
――眼帯しているオレ、ちょっとワケアリっぽくてカッコいいんじゃね? って思ったわけじゃない。
返事をしなかったオレに、彼女は質問を変えてきた。
「どうして高雅くんって、今日は左腕に包帯を巻いているのかな? 体育の時間に気がついたの。もしかして、怪我をしたの?」
彼女は、心配そうな表情となっている。その問いにも、オレは答えない。
だって、ウチの飼い猫のミーちゃんとじゃれているあいだに、血が滲むほどの三本のスジを鋭い爪で入れられたなんて、カッコ悪くね?
これも、ちょっと意味深な怪我っぽくて、皆の注目を浴びたいだなんて思ったわけじゃない。
たとえ、尋ねてきた相手が、学年一可愛いと言われている美姫ちゃんでも、オレはむっつりと押し黙る。
なぜならオレは、孤高の人であるという立ち位置を崩したくないからだ。
それが――世間的にはクラス内のボッチと言われているものであろうとも。
ああ、そうだよ!
オレは思ったことを口にできないコミュ障だよ!
好きで黙ってるんじゃねえよ!
「おい、美姫ちゃん。そんな中二病のヤツを相手にすることなんてないって」
「そうそう。放っておけば?」
せっかく、憧れの美姫ちゃんが声をかけてくれた、この貴重な時間なのに。
同じ中学出身の悪友であるジュンイチが、リョウと一緒に、オレと美姫ちゃんのあいだに割りこんでくる。
オレと同じように美姫ちゃんに片想いをしているジュンイチ。
こいつはクセ者だ。
中学時代。
学校からの帰宅途中で空を見上げながら「――はじまったか……」と、うっかりつぶやいたオレの言葉を、こいつは背後で聞いていやがった。
真冬に、ドアノブに手をかけたときにビリっときた静電気で、思わず「――ちっ! 結界か……」とオレがつぶやいた瞬間を、こいつに目撃されてしまった。
だから、オレの黒歴史を知っているこいつとは、別の高校に行きたかったのに。
残念ながら同じような成績であったために、一番近くの高校にそろって進学してしまった。
「え~。でも、高雅くん……。わたし、心配だもの」
心配げな表情の美姫ちゃんが、大きな瞳を潤ませた。
オレは無言で、ふいっと視線を逸らす。
だが、オレは心の中で、顔を両手で隠して叫びながら転げまわっていた。
ふおおおおおぉぉぉ! 可愛いじゃないか!
オレみたいなボッチでも、やさしい言葉をかけてくれる。
まるで天使! まさに天使!
ああ、好きと言いたい愛しているとブチまけたい!
でも、こんな自他ともに認める中二病のボッチ、フラれる未来しか見えてないから、とても口に出して言えない。
けれど、オレは美姫ちゃんのためなら、きっと死ねる。
教室の窓際の席。急いで立ちあがる気のないオレの机の前に、彼女が立った。
オレに用があるとは珍しい。
黙ったままオレは視線だけあげて、彼女の可愛らしい顔を見た。
「高雅くん。今日はどうして、左目に眼帯をしているの?」
オレは返事をしない。ただ心の中で答える。
昨日から、白目の血管が切れてしまったみたいなんだ。
鏡を見て、白目の部分全体が真っ赤に染まった自分の眼にびっくり!
我ながら震えあがった。
これは誰が見ても怖いだろうと思って、今日は朝から眼帯をしているんだ。
――眼帯しているオレ、ちょっとワケアリっぽくてカッコいいんじゃね? って思ったわけじゃない。
返事をしなかったオレに、彼女は質問を変えてきた。
「どうして高雅くんって、今日は左腕に包帯を巻いているのかな? 体育の時間に気がついたの。もしかして、怪我をしたの?」
彼女は、心配そうな表情となっている。その問いにも、オレは答えない。
だって、ウチの飼い猫のミーちゃんとじゃれているあいだに、血が滲むほどの三本のスジを鋭い爪で入れられたなんて、カッコ悪くね?
これも、ちょっと意味深な怪我っぽくて、皆の注目を浴びたいだなんて思ったわけじゃない。
たとえ、尋ねてきた相手が、学年一可愛いと言われている美姫ちゃんでも、オレはむっつりと押し黙る。
なぜならオレは、孤高の人であるという立ち位置を崩したくないからだ。
それが――世間的にはクラス内のボッチと言われているものであろうとも。
ああ、そうだよ!
オレは思ったことを口にできないコミュ障だよ!
好きで黙ってるんじゃねえよ!
「おい、美姫ちゃん。そんな中二病のヤツを相手にすることなんてないって」
「そうそう。放っておけば?」
せっかく、憧れの美姫ちゃんが声をかけてくれた、この貴重な時間なのに。
同じ中学出身の悪友であるジュンイチが、リョウと一緒に、オレと美姫ちゃんのあいだに割りこんでくる。
オレと同じように美姫ちゃんに片想いをしているジュンイチ。
こいつはクセ者だ。
中学時代。
学校からの帰宅途中で空を見上げながら「――はじまったか……」と、うっかりつぶやいたオレの言葉を、こいつは背後で聞いていやがった。
真冬に、ドアノブに手をかけたときにビリっときた静電気で、思わず「――ちっ! 結界か……」とオレがつぶやいた瞬間を、こいつに目撃されてしまった。
だから、オレの黒歴史を知っているこいつとは、別の高校に行きたかったのに。
残念ながら同じような成績であったために、一番近くの高校にそろって進学してしまった。
「え~。でも、高雅くん……。わたし、心配だもの」
心配げな表情の美姫ちゃんが、大きな瞳を潤ませた。
オレは無言で、ふいっと視線を逸らす。
だが、オレは心の中で、顔を両手で隠して叫びながら転げまわっていた。
ふおおおおおぉぉぉ! 可愛いじゃないか!
オレみたいなボッチでも、やさしい言葉をかけてくれる。
まるで天使! まさに天使!
ああ、好きと言いたい愛しているとブチまけたい!
でも、こんな自他ともに認める中二病のボッチ、フラれる未来しか見えてないから、とても口に出して言えない。
けれど、オレは美姫ちゃんのためなら、きっと死ねる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる