キスメット

くにざゎゆぅ

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【第四章】対エージェント編『・・・!』

第123話 ほーりゅう

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 まったく、ムカつく男どもだ。

 それでも怒りを鎮めたわたしは、大きなため息をついた。
 手すりに寄りかかるようにしながら、一階のレストランをぼんやりと眺めて口にした。

「それじゃあさ、我龍、わたしと会わなくてもいいから。あんたが持っている今回の件の情報を、わたしにちょうだい」

 しばらく間があいたあと、我龍のテレパシーが頭に響いた。

『なぜ情報を教えなきゃいけない? 第一きみは、今回まったくの部外者だろう?』

 でも、わたしはいろいろな事情を知ってしまった。
 だったら、調子の悪いジプシーのために、なにかできることをしたいと思うじゃない?

「情報くれても、別に我龍から減るものって、ないんでしょ? ならいいじゃない。なにかわたしにできることをしたいのよ。だとすると、いまのわたしって情報集めくらいしかできないでしょ?」
『――本当、利用できるものはなんでもしてやろうというきみ、いい性格しているね。でも、そのストレートなところは悪くないな。――情報ね。今回の奴の敵といえる相手はふたり。ひとりは、さっききみが会った薬品使いのB.M.D.と呼ばれるランクAのエージェント』
「ランクAって、結局どのくらいの実力があるの?」
『ランクは、Sがトップとしたら、次いでA・B・Cと続く。Aって、口でどのくらいって言えばいいのかなぁ。実力的には、俺は工作員じゃないけれど、俺のレベルでランクSかな。ちなみに奴はDかEね。はっきり言ってランク外。考え方と基礎がなっていない』

 ――やっぱり我龍、強いんだ。
 って、あのジプシーがランク外なんだ。
 なんだかショック。

「ふぅん。で、敵のもうひとりは? どんな人?」

 ちょっと間があいてから、声が聞こえた。

『もうひとりは……そうだな。このホテルの中でブレン・テンを持っている人物は、普通の民間人とはいえないってこと』
「ぶれんてん? なに、それ」
『そう、その人物は幻の十四番目を持っている。まあ、奴に聞けば、知識として知っているんじゃない?』

 そう告げたあと、我龍のテレパシーが完全に途切れた気配がした。

 あとのひとりの情報は、なんだかもったいぶった言い方だったけれど。
 それでもなんとなく、輪郭だけでもジプシーの敵が見えてきた気がする。
 さっそく情報を、ジプシーに持っていこう。
 京一郎からは、危険だから近づくなと言われているけれど、もうわたしは、敵のひとりに目をつけられているんだ。
 逆に、ジプシーたちのそばにいたほうが、敵の動きがわかるかもしれない。

 わたしは、このままジプシーたちが泊まっているホテルの部屋に向かおうと思ったけれど。
 ふと、足が止まった。

 いまのジプシーは、精神的にも体調的にも、とっても悪い。

 わたしは、眼下のレストランを眺めたあと、階段を駆けおりてフロントへ向かった。
 そして、フロント前にたどり着くと、目の前のにこやかな若いフロント係の女性に訴えた。

「お願い! ミックスジュースのような栄養ドリンク、作って!」

 突然な言葉に、当然フロント係の女性は驚いたようにわたしを見つめた。

 あ、そりゃそうか。
 考えたらおかしいものね。
 訴える先が違ったかな。

 でも、そばで成り行きを見ていた別の年配のフロント係の男性が、気を利かせて言ってくれた。

水城みずきさん、ここは大丈夫だから、お客さまを調理場へ案内してさしあげなさい」

 水城さんと呼ばれたフロント係の女性は、うなずいてフロントの内側から出てきてくれた。

「お客さま、調理場へ案内いたします」

 そう告げると、前に立って案内してくれる。

「お客さま、ミックスジュースがお好きなのですか?」

 近くで見ると、意外とわたしと年齢が近そうな水城さんは、親しみやすい笑顔で聞いてきた。

「ううん。わたしのじゃないんだけれど。いま体調を崩して、たぶん食べ物が受けつけられない奴がいるから、差し入れに持っていきたいと思って」

 夢乃のお母さんが、ジプシーはストレスで食が落ちるって言っていたもの。
 あいつのことだ。
 絶対昨日からなにも食べていない気がする。

「奴って、お客さまの彼氏ですか?」
「え? 違う違う! ――うん、ただの友だちなんだけれどね」
「お友だちなのですか、お優しいんですね」

 そう言って、わたしに笑いかけてきた水城さんは、ふと思いだしたように口にする。

「そうだ。私、丁度ロッカーにマルチビタミン剤を持っていますよ。その方の栄養が気になるのなら、ご一緒にいかがですか?」

 親切にもそう言ってくれた彼女。
 なので、ありがたくわたしはもらうことにした。
 急に声をかけたこの水城さんが敵だとか、なにか仕掛けてくるなんてこと、絶対とは言いきれないけれど。
 おそらくないはずだ。



 わたしは、調理場で特別に作ってもらったミックスジュースと、水城さんにもらったビタミン剤をお盆に乗せて、ジプシーたちのいる部屋のドアをノックする。
 そして、ドアを開けた京一郎がなにか言うより早く、わたしは部屋の中へ滑りこんだ。

 ドアを閉めながら、部屋へ入ったわたしへ呆れたように京一郎が言う。

「おまえ、何度も言うようだが」
「もう、危険がどうだとか、関係なくなったんだもん!」

 わたしはそう告げると奥へ歩いてゆき、壁際に座ってノート型パソコンの画面を見つめていたジプシーの前に、お盆をつきだした。

「どうせ、栄養を全然摂っていないんでしょ? これなら飲めるよね」

 わたしの持つお盆を無言で一瞥し、ジプシーは横を向いた。

「ちょっと! いまは体力勝負のときでしょ! 飲まなきゃ無理やりでも飲ますわよ!」

 なにがなんでも飲んでもらおうと、ちょっと強気になって、わたしは言った。
 横を向いたまま、視線だけ動かしてジプシーはわたしを見る。
 いままで見たことのない突き刺すようなその冷ややかな眼に、一瞬わたしはたじろいだ。

「――無理やり? どうやって? 口移しでもしてくれるわけ?」

 挑発的に切り口上で言ったジプシーへ、負けじとわたしは対抗する。

「もちろん、口移ししてでも飲ませるわよ!」

 無言で成り行きを見ていた京一郎とトラが、「えっ?」っと、わたしを驚いたように見つめる中で、続けてわたしは言い放った。

「京一郎が!」
「俺かよっ!」

 抗議の声を京一郎があげたとき。
 パソコンの横に、音を消して置いていたジプシーの携帯が震えた。

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