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【第四章】対エージェント編『・・・!』
第115話 ほーりゅう
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わたしは、昨日と同じように、友人たちとの夕食をホテルの一階のレストランでとった。
昨日はクリスマスイブだったけれど、今日はクリスマス。
なので、二日間続けて、夕食タイムから深夜にかけて、大きなクリスマスツリーの下に置かれているピアノで、生演奏がある。
雰囲気が良くて、豪華な料理で、親しい友人たちとの会話。
でも、わたしは妙に落ち着かない。
理由は、ジプシーの体調が悪くて本調子じゃないってわかっているから。
なにげなくレストランの入り口へ目をやっていると、トラがひとりで入ってくるところが見えた。
周りを見渡しながら、テーブルのあいだをゆっくりと練って歩いている。
そして、わたしたちのグループに気がついたらしい。
例の人懐っこそうな笑みを浮かべながら近寄ってきた。
リーダーは瑠璃だとわかっているので、トラは、彼女のほうに向かって口を開く。
「朝は失礼したね。結局今日は、俺もこのホテルに泊まることになったんだ。その代わりに仕事を手伝わされる羽目になっちゃってさ。今回の件が終わったら、またゆっくり話がしたいなぁ。その時はよろしく」
そう告げたあと、トラはわたしのそばにしゃがみこみ、小声でささやいた。
「いまは京一郎がついているから大丈夫。あいつひとりにはしないから安心して。俺はいまからホテルを中心にした辺り一帯に、感知タイプの結界を張ってくる。だから、きみが能力を使ったり我龍が能力を使っても、場所が把握できるようになる。――この結界に敵も引っかかってくれたらいいんだけれど、能力者相手じゃないし、そう思い通りにいかないよなぁ」
早口で一気に言うと、トラは立ちあがり、手をあげて皆に挨拶をする。
そして、来たときと同じように、周囲に目を配りながら歩いていった。
トラの後ろ姿を目で追っていたわたしは、その先のフロントで係員に声をかけるジプシーと京一郎を見つけた。
いくつかの言葉のやり取りをして、フロント係かマネージャーかに、別室へ案内されるようだ。
そのとき。
突然、わたしの目線を追っていたらしい瑠璃が言った。
「わたし、気になっているから、あの方々に直接会って確かめてくるわ」
なんのことだと首をかしげたわたしたちを見渡してから、瑠璃はわたしに向かって口を開く。
「ほーりゅう、あの警察の方たちの今回の目的と仕事内容、ちゃんと聞いたの?」
「――あれ?」
そういえばわたし、聞いていないや。
ジプシーの昔の話をトラから聞いたあと、すぐにバタバタっと別の件があって、すっかり連中が今回なにをしにやってきたのか、結局聞きそびれてしまっていた。
わたしは頭を掻いて、瑠璃に告げる。
「うん。聞いていない」
「ほーりゅうは相変わらずの天然さんだから、そうだと思ったわ。なにをしに行ったんだか。わたしの父のホテルなんだから、いま、なにが起こっているのか聞くくらい当然よ。新しくできたばかりの父のホテルに、傷がつくのは嫌だわ」
すでにデザートまで終わっている瑠璃が立ちあがるのを見て、わたしも慌てて席を立つ。
「わたしも一緒についてく」
「ほーりゅう、あなたは彼らに、仕事だから関わるなって言われたんでしょう?」
「そうは言っても、瑠璃は連中のところへ行くんでしょう? それなら、やっぱりついてく」
瑠璃は、仕方がないという顔をして歩きだす。
わたしは、亮子と理沙へ向かって先に行くねと声をかけてから、瑠璃のあとについていった。
その瞬間。
わたしは、思わず瑠璃の腕を引っ張ってしまっていた。
「どうしたの、ほーりゅう?」
「あ、ごめん。人違いだと思う」
わたしは、慌てて瑠璃の腕から手を離した。
そして、足音を忍ばして瑠璃のあとについて歩きだす。
――そうだよね。
あのテーブルについている後ろ姿、夢乃に見えたんだけれど。
別のホテルに泊っているって言っていたし、そんなはず、ないよなぁ?
桜井刑事とは違う、やけに格好良い男の人と一緒だったし。
瑠璃が、その部屋のドアをノックして開けると、書類を広げて目を通していたらしいジプシーの冷ややかな視線と、パソコンのキーを叩いていた京一郎の視線が飛んできた。
でも、ふたりの視線の先は、もちろん瑠璃だった。
わたしには一瞥もなかったので、ほっとする反面、ちょっと寂しくもある。
「ここのホテルのオーナーの娘、瑠璃です。よろしく」
ああ、なるほどといった表情の京一郎に対して、ジプシーは、まったくの無表情ですぐに視線を書類に戻した。
いつものことだけれど、本当に感情が読みとれない。
体調は大丈夫なんだろうか?
「他言無用のお仕事だとは存じあげておりますが、ホテルの名に傷がついては困ります。どのようなことをお調べになっているか、確認させていただけるかしら?」
有無を言わせぬ瑠璃の申し出に、すぐに京一郎が反応する。
「いや、ホテル自体が問題じゃないので。こちらは人探しが今回の目的なんですよ」
そう口にすると、爽やかに京一郎は笑う。
普段茶髪で族のリーダーをしている京一郎だけれど、髪の色を黒く変えて口調を正すだけで、意外と年齢高く、頼りがいがあるように見えるから不思議だ。
「だから、いまは宿泊者の身元確認をさせてもらっている状態ですね。ホテルへは迷惑をかけません」
そうなんだ。
人探しか。
それがなんで、ジプシーが崖から転がり落ちることになったり、精神的にショックを受けたり、さらには敵と思われる存在や我龍までやってくるんだろう?
そしてわたしに、命の保障はできないから、自分たちに近づくなと告げた京一郎。
その京一郎と瑠璃が、わたしとジプシーをそっちのけで、しばらく言葉を交わしている。
京一郎のそつのない言葉に、本当かどうか探っていたような瑠璃だけれど。
急に、ジプシーへ目を向けた。
「そちらの方、具合が悪いのでは? ――どこか怪我でもされていませんか?」
視線さえあげないジプシーの代わりに、京一郎がすばやく答えた。
「昼間、裏の山を散策していたら足を滑らせて転がり落ちたんですよ。それで不機嫌なのもあるんです。ただのかすり傷なので大丈夫、心配いりません」
笑顔で口にした京一郎へ、瑠璃もにっこり笑みを返して、お大事になさってくださいねと声をかけた。
どこまで納得したのか、お邪魔いたしましたと挨拶をして、瑠璃は部屋の出口へと向かう。
瑠璃の視線がはずれたときに、わたしも黙ったまま頭をさげると、無言で京一郎もうなずき返してきた。
廊下へでた瑠璃にくっついて部屋をあとにしたわたしは、後ろ手でドアを閉める。
なんとなく、大きなため息をついたわたし。
無意識に緊張していたのだろうか。
「ほーりゅう」
急に声をかけられ、どきりと目をあげたわたしへ向かって、瑠璃はぴしりと言った。
「なにか、警察だからってわけじゃなくて、一癖も二癖もありそうな方たちね。あなた、怪我をしたくなかったら、やっぱり関わらないほうがいいわ」
うひゃ~!
瑠璃はやっぱり勘がいい。
ばれてるっぽいよ?
そう思いながら、わたしは無言で瑠璃に苦笑いを向けた。
昨日はクリスマスイブだったけれど、今日はクリスマス。
なので、二日間続けて、夕食タイムから深夜にかけて、大きなクリスマスツリーの下に置かれているピアノで、生演奏がある。
雰囲気が良くて、豪華な料理で、親しい友人たちとの会話。
でも、わたしは妙に落ち着かない。
理由は、ジプシーの体調が悪くて本調子じゃないってわかっているから。
なにげなくレストランの入り口へ目をやっていると、トラがひとりで入ってくるところが見えた。
周りを見渡しながら、テーブルのあいだをゆっくりと練って歩いている。
そして、わたしたちのグループに気がついたらしい。
例の人懐っこそうな笑みを浮かべながら近寄ってきた。
リーダーは瑠璃だとわかっているので、トラは、彼女のほうに向かって口を開く。
「朝は失礼したね。結局今日は、俺もこのホテルに泊まることになったんだ。その代わりに仕事を手伝わされる羽目になっちゃってさ。今回の件が終わったら、またゆっくり話がしたいなぁ。その時はよろしく」
そう告げたあと、トラはわたしのそばにしゃがみこみ、小声でささやいた。
「いまは京一郎がついているから大丈夫。あいつひとりにはしないから安心して。俺はいまからホテルを中心にした辺り一帯に、感知タイプの結界を張ってくる。だから、きみが能力を使ったり我龍が能力を使っても、場所が把握できるようになる。――この結界に敵も引っかかってくれたらいいんだけれど、能力者相手じゃないし、そう思い通りにいかないよなぁ」
早口で一気に言うと、トラは立ちあがり、手をあげて皆に挨拶をする。
そして、来たときと同じように、周囲に目を配りながら歩いていった。
トラの後ろ姿を目で追っていたわたしは、その先のフロントで係員に声をかけるジプシーと京一郎を見つけた。
いくつかの言葉のやり取りをして、フロント係かマネージャーかに、別室へ案内されるようだ。
そのとき。
突然、わたしの目線を追っていたらしい瑠璃が言った。
「わたし、気になっているから、あの方々に直接会って確かめてくるわ」
なんのことだと首をかしげたわたしたちを見渡してから、瑠璃はわたしに向かって口を開く。
「ほーりゅう、あの警察の方たちの今回の目的と仕事内容、ちゃんと聞いたの?」
「――あれ?」
そういえばわたし、聞いていないや。
ジプシーの昔の話をトラから聞いたあと、すぐにバタバタっと別の件があって、すっかり連中が今回なにをしにやってきたのか、結局聞きそびれてしまっていた。
わたしは頭を掻いて、瑠璃に告げる。
「うん。聞いていない」
「ほーりゅうは相変わらずの天然さんだから、そうだと思ったわ。なにをしに行ったんだか。わたしの父のホテルなんだから、いま、なにが起こっているのか聞くくらい当然よ。新しくできたばかりの父のホテルに、傷がつくのは嫌だわ」
すでにデザートまで終わっている瑠璃が立ちあがるのを見て、わたしも慌てて席を立つ。
「わたしも一緒についてく」
「ほーりゅう、あなたは彼らに、仕事だから関わるなって言われたんでしょう?」
「そうは言っても、瑠璃は連中のところへ行くんでしょう? それなら、やっぱりついてく」
瑠璃は、仕方がないという顔をして歩きだす。
わたしは、亮子と理沙へ向かって先に行くねと声をかけてから、瑠璃のあとについていった。
その瞬間。
わたしは、思わず瑠璃の腕を引っ張ってしまっていた。
「どうしたの、ほーりゅう?」
「あ、ごめん。人違いだと思う」
わたしは、慌てて瑠璃の腕から手を離した。
そして、足音を忍ばして瑠璃のあとについて歩きだす。
――そうだよね。
あのテーブルについている後ろ姿、夢乃に見えたんだけれど。
別のホテルに泊っているって言っていたし、そんなはず、ないよなぁ?
桜井刑事とは違う、やけに格好良い男の人と一緒だったし。
瑠璃が、その部屋のドアをノックして開けると、書類を広げて目を通していたらしいジプシーの冷ややかな視線と、パソコンのキーを叩いていた京一郎の視線が飛んできた。
でも、ふたりの視線の先は、もちろん瑠璃だった。
わたしには一瞥もなかったので、ほっとする反面、ちょっと寂しくもある。
「ここのホテルのオーナーの娘、瑠璃です。よろしく」
ああ、なるほどといった表情の京一郎に対して、ジプシーは、まったくの無表情ですぐに視線を書類に戻した。
いつものことだけれど、本当に感情が読みとれない。
体調は大丈夫なんだろうか?
「他言無用のお仕事だとは存じあげておりますが、ホテルの名に傷がついては困ります。どのようなことをお調べになっているか、確認させていただけるかしら?」
有無を言わせぬ瑠璃の申し出に、すぐに京一郎が反応する。
「いや、ホテル自体が問題じゃないので。こちらは人探しが今回の目的なんですよ」
そう口にすると、爽やかに京一郎は笑う。
普段茶髪で族のリーダーをしている京一郎だけれど、髪の色を黒く変えて口調を正すだけで、意外と年齢高く、頼りがいがあるように見えるから不思議だ。
「だから、いまは宿泊者の身元確認をさせてもらっている状態ですね。ホテルへは迷惑をかけません」
そうなんだ。
人探しか。
それがなんで、ジプシーが崖から転がり落ちることになったり、精神的にショックを受けたり、さらには敵と思われる存在や我龍までやってくるんだろう?
そしてわたしに、命の保障はできないから、自分たちに近づくなと告げた京一郎。
その京一郎と瑠璃が、わたしとジプシーをそっちのけで、しばらく言葉を交わしている。
京一郎のそつのない言葉に、本当かどうか探っていたような瑠璃だけれど。
急に、ジプシーへ目を向けた。
「そちらの方、具合が悪いのでは? ――どこか怪我でもされていませんか?」
視線さえあげないジプシーの代わりに、京一郎がすばやく答えた。
「昼間、裏の山を散策していたら足を滑らせて転がり落ちたんですよ。それで不機嫌なのもあるんです。ただのかすり傷なので大丈夫、心配いりません」
笑顔で口にした京一郎へ、瑠璃もにっこり笑みを返して、お大事になさってくださいねと声をかけた。
どこまで納得したのか、お邪魔いたしましたと挨拶をして、瑠璃は部屋の出口へと向かう。
瑠璃の視線がはずれたときに、わたしも黙ったまま頭をさげると、無言で京一郎もうなずき返してきた。
廊下へでた瑠璃にくっついて部屋をあとにしたわたしは、後ろ手でドアを閉める。
なんとなく、大きなため息をついたわたし。
無意識に緊張していたのだろうか。
「ほーりゅう」
急に声をかけられ、どきりと目をあげたわたしへ向かって、瑠璃はぴしりと言った。
「なにか、警察だからってわけじゃなくて、一癖も二癖もありそうな方たちね。あなた、怪我をしたくなかったら、やっぱり関わらないほうがいいわ」
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