90 / 159
【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第90話 ほーりゅう
しおりを挟む
「――耳もとで、大声をだすな」
かすかな声が聞こえた。
そして、わたしの上に覆いかぶさっていたジプシーが、うめき声とともに両肘を床につき、わずかに身体を起こす。
「ジプシー!」
「――だから、大きな声を、だすなって……」
少しあいた隙間から、わたしは後ずさりに這いでて、改めてジプシーを見つめた。
背中一面が血の色に染まる。
そして、流れ続け、床の上に絶え間なく広がり続ける血溜まり。
やっぱり、さっきの麗香さんの切り裂き系のかまいたち、わたしをかばってジプシーが食らっちゃったんだ!
「なんで……?」
「――悪い。誰かが、復元結界に干渉してきて、そっちに気をとられた。俺のミスだ」
それって。
干渉してきた人間って、ジプシー以上の能力者ってことになるんじゃないの?
「大丈夫。結界はまだ、破られていないから。この怪我は、とっさに防御術を、おまえに飛ばせなかった、俺のせい」
荒くなってくる息のなかで、ジプシーが小さく言葉を続ける。
麗香さんも、まさかジプシーがわたしをかばって、ここまでひどい怪我をすると思っていなかったんだろう。
「こんなこと、――あなたに、こんな怪我をさせる気なんて、全然なかったのに……」
つぶやきながら、血の気の失せた顔を横に振って、麗香さんは唖然と立ち尽くす。
どうしよう。
どう見ても、ジプシーの出血が多い。
このまま時間が経てば、命にかかわってくるかもしれない。
第一、意識を失いかねない。
そうなると、こんな事態に直面したいま、意味がようやくわかったあの長ったらしい説明にあった復元結界の条件。
ジプシーが気を失った時点で、破壊され炎もあがっているこの校舎が、このまま現実世界に残るってことなんだ。
いっそのこと、ジプシーの意識があるあいだに、復元結界を術者のジプシー自身が解いたら?
それなら、校舎のダメージだけでも戻るはず。
ジプシーを、すぐに病院へ運ぶこともできる。
今回の作戦を放棄して、また改めて次の作戦を練ろうよ。
わたしは、そうジプシーに向かって言おうとした。
――そのとき。
両肘を床についてうつむいているジプシーの胸もとで、鎖を伝って滑り落ち、炎の光を受けたロザリオが揺れて反射した。
麗香さんの瞳が、ジプシーのロザリオに釘付けになる。
「――ふたり、おそろいの、ロザリオ?」
わたしは、その言葉の意味に気がついたけれど。
ジプシーとわたしの持っているロザリオは、偶然形が似ているだけで同じじゃないって説明する暇がなかった。
たぶん、これが最近どこかで聞いたフレーズだ。
可愛さ余って憎さ百倍っていうんだろうか。
好きな相手を傷つけたショックが重なって、ロザリオを凝視する麗香さんの力が、急激に膨れあがったのがわかった。
「だめ!」
思わずわたしは立ちあがり、ジプシーの前に両手を広げて立ちふさがった。
意識をぎりぎり保っている、怪我をしているジプシーに、これ以上の攻撃なんか受けさせられない。
「あなた、そこをどきなさいよ! 潰してやる! そんなロザリオなんか、なくなってしまえばいい!」
そう叫ぶ麗香さんに、それでもわたしは退けない。
ジプシーのロザリオは、彼のお母さんの形見だと知っているから。
絶対に、壊させるわけにはいかない。
彼女の放った大きな気の塊を正面から受け、自分の力の発動が間にあわなかったわたしは、ジプシーを飛び超えるように吹きあげられた。
そして叩きつけられる先は、外に面した廊下の窓ガラス。
その瞬間。
苦痛に歪んだ表情のジプシーが、それでも力を振り絞ってわたしに左手を伸ばしてきた。
吹き飛ばされるわたしの右手首をつかむ。
でも、彼の血にまみれたわたしの右手を、握力の弱くなったジプシーは、握り切れずに滑って離してしまった。
そのままわたしは、窓ガラスを割って、三階の窓から外へ、身体ごと飛びだしてしまう。
――これって。
もしかして本当にヤバい?
これじゃあ、文化祭のときの、四階から落ちた強盗犯の二の舞だ。
ただし、吹き飛ばすほうじゃなくて、わたしが落ちるほうで。
そう思った瞬間、わたしの身体は重力に従って、一気に落下をはじめた。
かすかな声が聞こえた。
そして、わたしの上に覆いかぶさっていたジプシーが、うめき声とともに両肘を床につき、わずかに身体を起こす。
「ジプシー!」
「――だから、大きな声を、だすなって……」
少しあいた隙間から、わたしは後ずさりに這いでて、改めてジプシーを見つめた。
背中一面が血の色に染まる。
そして、流れ続け、床の上に絶え間なく広がり続ける血溜まり。
やっぱり、さっきの麗香さんの切り裂き系のかまいたち、わたしをかばってジプシーが食らっちゃったんだ!
「なんで……?」
「――悪い。誰かが、復元結界に干渉してきて、そっちに気をとられた。俺のミスだ」
それって。
干渉してきた人間って、ジプシー以上の能力者ってことになるんじゃないの?
「大丈夫。結界はまだ、破られていないから。この怪我は、とっさに防御術を、おまえに飛ばせなかった、俺のせい」
荒くなってくる息のなかで、ジプシーが小さく言葉を続ける。
麗香さんも、まさかジプシーがわたしをかばって、ここまでひどい怪我をすると思っていなかったんだろう。
「こんなこと、――あなたに、こんな怪我をさせる気なんて、全然なかったのに……」
つぶやきながら、血の気の失せた顔を横に振って、麗香さんは唖然と立ち尽くす。
どうしよう。
どう見ても、ジプシーの出血が多い。
このまま時間が経てば、命にかかわってくるかもしれない。
第一、意識を失いかねない。
そうなると、こんな事態に直面したいま、意味がようやくわかったあの長ったらしい説明にあった復元結界の条件。
ジプシーが気を失った時点で、破壊され炎もあがっているこの校舎が、このまま現実世界に残るってことなんだ。
いっそのこと、ジプシーの意識があるあいだに、復元結界を術者のジプシー自身が解いたら?
それなら、校舎のダメージだけでも戻るはず。
ジプシーを、すぐに病院へ運ぶこともできる。
今回の作戦を放棄して、また改めて次の作戦を練ろうよ。
わたしは、そうジプシーに向かって言おうとした。
――そのとき。
両肘を床についてうつむいているジプシーの胸もとで、鎖を伝って滑り落ち、炎の光を受けたロザリオが揺れて反射した。
麗香さんの瞳が、ジプシーのロザリオに釘付けになる。
「――ふたり、おそろいの、ロザリオ?」
わたしは、その言葉の意味に気がついたけれど。
ジプシーとわたしの持っているロザリオは、偶然形が似ているだけで同じじゃないって説明する暇がなかった。
たぶん、これが最近どこかで聞いたフレーズだ。
可愛さ余って憎さ百倍っていうんだろうか。
好きな相手を傷つけたショックが重なって、ロザリオを凝視する麗香さんの力が、急激に膨れあがったのがわかった。
「だめ!」
思わずわたしは立ちあがり、ジプシーの前に両手を広げて立ちふさがった。
意識をぎりぎり保っている、怪我をしているジプシーに、これ以上の攻撃なんか受けさせられない。
「あなた、そこをどきなさいよ! 潰してやる! そんなロザリオなんか、なくなってしまえばいい!」
そう叫ぶ麗香さんに、それでもわたしは退けない。
ジプシーのロザリオは、彼のお母さんの形見だと知っているから。
絶対に、壊させるわけにはいかない。
彼女の放った大きな気の塊を正面から受け、自分の力の発動が間にあわなかったわたしは、ジプシーを飛び超えるように吹きあげられた。
そして叩きつけられる先は、外に面した廊下の窓ガラス。
その瞬間。
苦痛に歪んだ表情のジプシーが、それでも力を振り絞ってわたしに左手を伸ばしてきた。
吹き飛ばされるわたしの右手首をつかむ。
でも、彼の血にまみれたわたしの右手を、握力の弱くなったジプシーは、握り切れずに滑って離してしまった。
そのままわたしは、窓ガラスを割って、三階の窓から外へ、身体ごと飛びだしてしまう。
――これって。
もしかして本当にヤバい?
これじゃあ、文化祭のときの、四階から落ちた強盗犯の二の舞だ。
ただし、吹き飛ばすほうじゃなくて、わたしが落ちるほうで。
そう思った瞬間、わたしの身体は重力に従って、一気に落下をはじめた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。
アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。
それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。
するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。
それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき…
遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。
……とまぁ、ここまでは良くある話。
僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき…
遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。
「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」
それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。
なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…?
2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。
皆様お陰です、有り難う御座います。


戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。
新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。【ざまぁ追加】
白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。
聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて……
母親視点でその後の話を追加しました。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる