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【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第83話 ほーりゅう
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わたしの不安が顔にでたのだろう。
ジプシーが続けた。
「彼女の能力消失のための四つの罠。べつにすべて、おまえが仕掛けろといっているわけじゃない。ほーりゅうにしてもらうことは、彼女との一対一の超能力での闘いであるPK戦。これに必ず勝てってことだけだ」
それが一番難しいじゃない!
「無理! それは無理! わたしは自分の超能力、まともに制御できないんだよ?」
「いや、一昨日の様子なら、おまえは彼女に攻撃を仕掛けられる。だからおまえがメインなんだ。今回の俺は、すべてにおいての防御にまわる」
「ジプシーがひとりで、攻撃と防御の両方をすればいいんじゃないの? 絶対そのほうが勝てるって」
「今回、おまえが彼女と闘うことに意味があるんだ。――彼女にとって闘う相手が、自分の好きな男より、その男を取り合っている恋敵だと思ってみろ」
そうか。
不本意ながら、わたしは彼女の恋敵になるのか。
それが、彼女の勘違いだとしても。
「おまえが相手をしたほうが、狙いの能力消失につながる。そして、実質的な方法のひとつとして、彼女の能力をオーバーヒートさせる」
「わざと能力の限界を超えさせて、力をだせなくさせるってことか」
京一郎がそばで言う。
うん。
その意味はわかるけれど、それは実際に可能なのだろうか?
ジプシーはしばらく考えたあと、ちょっと難しいかなと言いながらも話を続けた。
「俺が使う陰陽術のひとつで、呪詛返しという技がある。相手が仕掛けてきた術を、こちらも術で相手に返す技だが、この場合、返されたほうは最初に仕掛けた攻撃よりも、かなり大きなダメージを受ける」
「なんで?」
「一の力で攻撃された術は、跳ね返すためには結果的に一以上の力じゃないと返せない。簡単にいえば、二の力で返すとするだろ」
うん。
「すると、相手もさらに跳ね返してくるとしたら、二以上の力、簡単にいえば、三の力で返すことになる」
うん。
それもわかる。
力が小さければ、跳ね返らないもんね。
――ん?
「結果、徐々に力が大きくなっていくラリーで、力負けして跳ね返せなくなったほうが、すべてのダメージを受ける」
ちょっと待って!
その闘いをわたしにやれと?
「絶対無理! わたしが負けるってわかってるじゃない。それに、結局どちらかが大怪我をするってことでしょ?」
「だから、俺が全面防御にまわるって言っているんだ。――おまえの防御はもちろん、今回は傷つけるための闘いじゃないから、相手となる彼女の防御も俺がする。おまえは安心して攻撃を仕掛ければいい。彼女のオーバーヒートが目的だから、徹底的に」
「わたしのほうが、最終的に力不足だったら?」
「それはない。俺の見立てでは間違いなく、ほーりゅうの能力のほうが上だ」
それで、わたしの闘志を落とさないために、彼女の本当の能力を教えてくれないってわけなのか。
それがどんな能力なのか、気にしないほうがいいんだな。
「それが、ほーりゅうにしてもらう実質的な攻撃だ。それと、それにともなう最大能力を駆使しながらも敗北という精神的なダメージが二つ目。彼女の能力は、精神に担うところが大きいから。いままでそういう力を持つ相手に出会わなかったんだろう。一昨日の感触では彼女、PK戦は初心者だ。――あと、予定している残りのふたつの精神的なトラップは、俺が用意して仕掛けるから、おまえは気にしなくていい」
「ふぅん……。とにかく、彼女にPK戦で勝てばいいってことね」
だけれど、本当にうまくいくのかなあ。
「あと、もうひとつ、防御の面で大技の術を仕掛ける予定だ。それが、俺がメインで攻撃できない理由のひとつだが」
大技の術。
なんだろう?
ちょっとわくわくするかも。
でも、わたしの期待満面な表情に対して、ジプシーはいまいち乗り気ではなさそうな顔で続けた。
「言葉としてわかりやすく言うなら、――復元結界とでも言おうか」
復元結界?
「この高校の校舎全体、運動場も含めて、ひとつの結界を張る。これは、術を発動してから最後に術を解くまで、そのあいだに破壊された建物や地面など、結界内すべての静物が、術を解いたときに、すべて復元される――元に戻る術だ」
「それって、すごいじゃん!」
なんでいままでそんなすごい術、ジプシーは使わなかったんだろう。
って、ただ単に使う機会がなかったからか。
「今回は、ほーりゅうに思いっきり力を使ってもらうために、この術を使用しようと思っている。これなら、校舎破壊を気にせずに闘えるだろう?」
それを聞いたわたしは、質問する。
「ねえねえ、一昨日、麗香さんが壊した校舎や運動場が元に戻っていたよね。それってもしかして、彼女もこの術を使えるってこと?」
「いや、彼女の術は、また別の違う方法だ。彼女の術に関しては、とっても難しく長い説明がいるが。いま聞きたいか?」
「いえ、遠慮します。――それにしてもジプシー、この術を使うのに、なんだか乗り気じゃない感じがするんだけれど? わたしの気のせい?」
わたしの問いに、眉間に指先をあてて少しのあいだ考えこんだジプシーは、ようやく無感情に口にした。
「この術の欠点というものが三つ。一つ目は術の性質上、術者が、かなりの力を一定してずっと出し続けないといけない。その理由もあって、今回の俺は攻撃なしで防御にまわる。二つ目は、復元されるのは静物のみで、人の怪我は治らない。だから俺が防御にまわって、おまえも彼女も絶対に怪我をさせない。三つ目は――術を発動した者が、途中で意識を失ったり、ましてや死んだ時点で術は解け、術発動内で起こったダメージがそのまますべて、現実の世界のものとなる。術を発動した術者が、意識を持って術を解かなければ復元されない」
ジプシーが続けた。
「彼女の能力消失のための四つの罠。べつにすべて、おまえが仕掛けろといっているわけじゃない。ほーりゅうにしてもらうことは、彼女との一対一の超能力での闘いであるPK戦。これに必ず勝てってことだけだ」
それが一番難しいじゃない!
「無理! それは無理! わたしは自分の超能力、まともに制御できないんだよ?」
「いや、一昨日の様子なら、おまえは彼女に攻撃を仕掛けられる。だからおまえがメインなんだ。今回の俺は、すべてにおいての防御にまわる」
「ジプシーがひとりで、攻撃と防御の両方をすればいいんじゃないの? 絶対そのほうが勝てるって」
「今回、おまえが彼女と闘うことに意味があるんだ。――彼女にとって闘う相手が、自分の好きな男より、その男を取り合っている恋敵だと思ってみろ」
そうか。
不本意ながら、わたしは彼女の恋敵になるのか。
それが、彼女の勘違いだとしても。
「おまえが相手をしたほうが、狙いの能力消失につながる。そして、実質的な方法のひとつとして、彼女の能力をオーバーヒートさせる」
「わざと能力の限界を超えさせて、力をだせなくさせるってことか」
京一郎がそばで言う。
うん。
その意味はわかるけれど、それは実際に可能なのだろうか?
ジプシーはしばらく考えたあと、ちょっと難しいかなと言いながらも話を続けた。
「俺が使う陰陽術のひとつで、呪詛返しという技がある。相手が仕掛けてきた術を、こちらも術で相手に返す技だが、この場合、返されたほうは最初に仕掛けた攻撃よりも、かなり大きなダメージを受ける」
「なんで?」
「一の力で攻撃された術は、跳ね返すためには結果的に一以上の力じゃないと返せない。簡単にいえば、二の力で返すとするだろ」
うん。
「すると、相手もさらに跳ね返してくるとしたら、二以上の力、簡単にいえば、三の力で返すことになる」
うん。
それもわかる。
力が小さければ、跳ね返らないもんね。
――ん?
「結果、徐々に力が大きくなっていくラリーで、力負けして跳ね返せなくなったほうが、すべてのダメージを受ける」
ちょっと待って!
その闘いをわたしにやれと?
「絶対無理! わたしが負けるってわかってるじゃない。それに、結局どちらかが大怪我をするってことでしょ?」
「だから、俺が全面防御にまわるって言っているんだ。――おまえの防御はもちろん、今回は傷つけるための闘いじゃないから、相手となる彼女の防御も俺がする。おまえは安心して攻撃を仕掛ければいい。彼女のオーバーヒートが目的だから、徹底的に」
「わたしのほうが、最終的に力不足だったら?」
「それはない。俺の見立てでは間違いなく、ほーりゅうの能力のほうが上だ」
それで、わたしの闘志を落とさないために、彼女の本当の能力を教えてくれないってわけなのか。
それがどんな能力なのか、気にしないほうがいいんだな。
「それが、ほーりゅうにしてもらう実質的な攻撃だ。それと、それにともなう最大能力を駆使しながらも敗北という精神的なダメージが二つ目。彼女の能力は、精神に担うところが大きいから。いままでそういう力を持つ相手に出会わなかったんだろう。一昨日の感触では彼女、PK戦は初心者だ。――あと、予定している残りのふたつの精神的なトラップは、俺が用意して仕掛けるから、おまえは気にしなくていい」
「ふぅん……。とにかく、彼女にPK戦で勝てばいいってことね」
だけれど、本当にうまくいくのかなあ。
「あと、もうひとつ、防御の面で大技の術を仕掛ける予定だ。それが、俺がメインで攻撃できない理由のひとつだが」
大技の術。
なんだろう?
ちょっとわくわくするかも。
でも、わたしの期待満面な表情に対して、ジプシーはいまいち乗り気ではなさそうな顔で続けた。
「言葉としてわかりやすく言うなら、――復元結界とでも言おうか」
復元結界?
「この高校の校舎全体、運動場も含めて、ひとつの結界を張る。これは、術を発動してから最後に術を解くまで、そのあいだに破壊された建物や地面など、結界内すべての静物が、術を解いたときに、すべて復元される――元に戻る術だ」
「それって、すごいじゃん!」
なんでいままでそんなすごい術、ジプシーは使わなかったんだろう。
って、ただ単に使う機会がなかったからか。
「今回は、ほーりゅうに思いっきり力を使ってもらうために、この術を使用しようと思っている。これなら、校舎破壊を気にせずに闘えるだろう?」
それを聞いたわたしは、質問する。
「ねえねえ、一昨日、麗香さんが壊した校舎や運動場が元に戻っていたよね。それってもしかして、彼女もこの術を使えるってこと?」
「いや、彼女の術は、また別の違う方法だ。彼女の術に関しては、とっても難しく長い説明がいるが。いま聞きたいか?」
「いえ、遠慮します。――それにしてもジプシー、この術を使うのに、なんだか乗り気じゃない感じがするんだけれど? わたしの気のせい?」
わたしの問いに、眉間に指先をあてて少しのあいだ考えこんだジプシーは、ようやく無感情に口にした。
「この術の欠点というものが三つ。一つ目は術の性質上、術者が、かなりの力を一定してずっと出し続けないといけない。その理由もあって、今回の俺は攻撃なしで防御にまわる。二つ目は、復元されるのは静物のみで、人の怪我は治らない。だから俺が防御にまわって、おまえも彼女も絶対に怪我をさせない。三つ目は――術を発動した者が、途中で意識を失ったり、ましてや死んだ時点で術は解け、術発動内で起こったダメージがそのまますべて、現実の世界のものとなる。術を発動した術者が、意識を持って術を解かなければ復元されない」
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