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【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第82話 ほーりゅう
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「江沼! 顔をかしてもらうぞ!」
昼休みを告げるチャイムとともに、生徒会長が一年の教室のドアを勢いよく開いた。
「すみません。江沼くんは今日、お休みです」
申しわけなさそうな夢乃の言葉を聞いた会長は、驚いた顔をしたけれど。
すぐに、怒りあらわに叫んだ。
「親からの電話一本で、この私が納得するわけがなかろう! 絶対つかまえてやる! 今日の放課後、奴の家庭訪問だ!」
きびすを返し、足音荒く会長は、一年の教室からでていく。
――あの様子じゃあ、会長は本当にジプシーの家まで行っちゃうだろうなあ。
そう思いながら、わたしはお弁当を持って、いつものお昼を食べている自習室へ向かう。
でも、たしかジプシーって、今日は午前中だけ休むって言っていなかったっけ?
そう考えつつ、向かう途中で一緒になった夢乃と京一郎と、自習室のドアを開けた。
そして、そこで腕を組んで考えこんでいるジプシーの姿を見つけた。
いつもの昼休みのメンバーが、全員そろって椅子に座ったのを確認したジプシーは、腕を組んだ姿勢のまま、おもむろに口を開いた。
「今日、高橋麗香を呼びだして、ケリをつけたいと思う」
さらに続けようとしたジプシーの言葉をさえぎって、わたしは声をだした。
「その前にジプシー、お昼ご飯を食べようよ。ジプシーもママさん手作りのお弁当、持ってきているんでしょ?」
急に、なんのことだと言わんばかりに、ジプシーはわたしの顔をじろりと見た。
「だから、食べながらでも話って、できるじゃん」
「いや。――いまはいらない」
「そういって食べない気でしょ。あんた最近、食事量が減ってるもん」
「それは、いまは関係のない話だろ」
「でも、三食きちんと摂らないと身体に悪いって」
「俺が食事をしようがどうしようが、おまえには関係ないだろ」
「でも」
急にジプシーは、押し殺したような低い声で、静かにわたしへ告げた。
「ほーりゅう、今回の作戦は、おまえ中心に計画を立てた。おまえに頼った、おまえがメインの計画だ。だが、あまりしつこく言うと、メンバー自体から外すぞ」
「すみません。もうなにも言いません。メンバーに入れてください」
普段からいつも、こういう計画には、ないがしろで爪弾き気味のわたしだ。
メインにしてもらえると聞くと、ちょっと立場が弱い。
夢乃のお母さん。
ジプシーにご飯を食べさせようかと頑張ったけれど、どうやら無理だったみたい……。
おとなしく黙りこんだわたしを見て、一息ついたジプシーは、小さな声でつぶやいた。
「あとで必ず食べるから、おまえは心配しなくていい」
そして、改めてジプシーは顔をあげると、話を再開した。
「今日の朝、俺は高橋麗香の家に行ってきた」
――いきなり、敵のアジト襲撃ですか!
さすがに呆気にとられた全員の顔を見まわしながら、ジプシーは続けた。
「もちろん、彼女が学校へ向かうために、家をでたのを確認してからだ。彼女の母親に会ってきた。――母親は、彼女の能力に気がついてはいたが、いままで、どう対処していいのかわからなかった様子だな。母親の了解をとって、これからの計画に合意をしてもらった。というか、結果的には、彼女の母親に頼まれた形になったんだが」
ジプシーは、いったん言葉を区切ってから告げた。
「今回の計画の目的は、彼女の能力の消失だ。彼女の術自体を使えなくさせる。彼女との話し合いは、それからだ」
能力消失?
そんなこと、可能なんだろうか?
ってことは、わたしの能力やジプシーの術も、使えなくなる可能性があるってこと?
そんなわたしの考えがわかったのか、ジプシーはわたしのほうを向いた。
「これから、ほーりゅうにもわかるように説明する。なんといっても今回は、ほーりゅうメインだからな。その代わり、正しい説明ではなく、おまえが理解できる言い方や表現に変えるから」
ジプシーの言葉に、わたしはこっくりとうなずく。
「――まず、彼女の能力は、彼女の母親と話をして俺の思った通りの能力だと確信した。俺の陰陽術でも、おまえの超能力とも違う能力だ。ただ、今回の要であるおまえの闘志を落とさないために、あえていま話さない」
「なんで、わたしの闘志ってものが関係するのよ」
「それは、計画の実践方法として理由がわかるから、あとで説明する。俺の陰陽術は、練習や修行という形で身につけたものだ。おまえの超能力は、生まれつきの遺伝子レベルの能力とみている。それらは基本的に少々のことでは、なくなることはない。だが、高橋麗香の母親の話では、彼女の能力は精神に担うところが大きく、感覚的なもので不安定、あやふやで不確定に身につけたものだった。だから、今回立てた計画で消滅させることができる。だが、間違いなく、おまえの超能力で対抗できるものだということだ。それは俺を信じろ」
まあ、こんな関係の話に詳しいであろうジプシーのいうことだから、本当にわたしの力で太刀打ちできるものなんだろうな。
「目的は理解したか」
「うん。彼女の能力消失」
わたしが計画の中心だから、わたしが理解したら、説明が先に進むわけね。
「次に方法だが、俺としては一日でケリをつけたい。そのために、彼女の母親に伝言を残してきて、今日の夜に彼女をこの学校へ呼びだした。また、これと思う方法ひとつのみで闘って、はずしたときが怖い。だから、実質的な方法とあわせて精神的なトラップの、合計四つの罠の同時進行で、彼女の能力を消滅させようと思う」
わたしは、急に不安になってきた。
四つの罠を、一度に仕掛けるなんて。
はたしてわたしに、そんな器用なことが、できるのだろうか?
昼休みを告げるチャイムとともに、生徒会長が一年の教室のドアを勢いよく開いた。
「すみません。江沼くんは今日、お休みです」
申しわけなさそうな夢乃の言葉を聞いた会長は、驚いた顔をしたけれど。
すぐに、怒りあらわに叫んだ。
「親からの電話一本で、この私が納得するわけがなかろう! 絶対つかまえてやる! 今日の放課後、奴の家庭訪問だ!」
きびすを返し、足音荒く会長は、一年の教室からでていく。
――あの様子じゃあ、会長は本当にジプシーの家まで行っちゃうだろうなあ。
そう思いながら、わたしはお弁当を持って、いつものお昼を食べている自習室へ向かう。
でも、たしかジプシーって、今日は午前中だけ休むって言っていなかったっけ?
そう考えつつ、向かう途中で一緒になった夢乃と京一郎と、自習室のドアを開けた。
そして、そこで腕を組んで考えこんでいるジプシーの姿を見つけた。
いつもの昼休みのメンバーが、全員そろって椅子に座ったのを確認したジプシーは、腕を組んだ姿勢のまま、おもむろに口を開いた。
「今日、高橋麗香を呼びだして、ケリをつけたいと思う」
さらに続けようとしたジプシーの言葉をさえぎって、わたしは声をだした。
「その前にジプシー、お昼ご飯を食べようよ。ジプシーもママさん手作りのお弁当、持ってきているんでしょ?」
急に、なんのことだと言わんばかりに、ジプシーはわたしの顔をじろりと見た。
「だから、食べながらでも話って、できるじゃん」
「いや。――いまはいらない」
「そういって食べない気でしょ。あんた最近、食事量が減ってるもん」
「それは、いまは関係のない話だろ」
「でも、三食きちんと摂らないと身体に悪いって」
「俺が食事をしようがどうしようが、おまえには関係ないだろ」
「でも」
急にジプシーは、押し殺したような低い声で、静かにわたしへ告げた。
「ほーりゅう、今回の作戦は、おまえ中心に計画を立てた。おまえに頼った、おまえがメインの計画だ。だが、あまりしつこく言うと、メンバー自体から外すぞ」
「すみません。もうなにも言いません。メンバーに入れてください」
普段からいつも、こういう計画には、ないがしろで爪弾き気味のわたしだ。
メインにしてもらえると聞くと、ちょっと立場が弱い。
夢乃のお母さん。
ジプシーにご飯を食べさせようかと頑張ったけれど、どうやら無理だったみたい……。
おとなしく黙りこんだわたしを見て、一息ついたジプシーは、小さな声でつぶやいた。
「あとで必ず食べるから、おまえは心配しなくていい」
そして、改めてジプシーは顔をあげると、話を再開した。
「今日の朝、俺は高橋麗香の家に行ってきた」
――いきなり、敵のアジト襲撃ですか!
さすがに呆気にとられた全員の顔を見まわしながら、ジプシーは続けた。
「もちろん、彼女が学校へ向かうために、家をでたのを確認してからだ。彼女の母親に会ってきた。――母親は、彼女の能力に気がついてはいたが、いままで、どう対処していいのかわからなかった様子だな。母親の了解をとって、これからの計画に合意をしてもらった。というか、結果的には、彼女の母親に頼まれた形になったんだが」
ジプシーは、いったん言葉を区切ってから告げた。
「今回の計画の目的は、彼女の能力の消失だ。彼女の術自体を使えなくさせる。彼女との話し合いは、それからだ」
能力消失?
そんなこと、可能なんだろうか?
ってことは、わたしの能力やジプシーの術も、使えなくなる可能性があるってこと?
そんなわたしの考えがわかったのか、ジプシーはわたしのほうを向いた。
「これから、ほーりゅうにもわかるように説明する。なんといっても今回は、ほーりゅうメインだからな。その代わり、正しい説明ではなく、おまえが理解できる言い方や表現に変えるから」
ジプシーの言葉に、わたしはこっくりとうなずく。
「――まず、彼女の能力は、彼女の母親と話をして俺の思った通りの能力だと確信した。俺の陰陽術でも、おまえの超能力とも違う能力だ。ただ、今回の要であるおまえの闘志を落とさないために、あえていま話さない」
「なんで、わたしの闘志ってものが関係するのよ」
「それは、計画の実践方法として理由がわかるから、あとで説明する。俺の陰陽術は、練習や修行という形で身につけたものだ。おまえの超能力は、生まれつきの遺伝子レベルの能力とみている。それらは基本的に少々のことでは、なくなることはない。だが、高橋麗香の母親の話では、彼女の能力は精神に担うところが大きく、感覚的なもので不安定、あやふやで不確定に身につけたものだった。だから、今回立てた計画で消滅させることができる。だが、間違いなく、おまえの超能力で対抗できるものだということだ。それは俺を信じろ」
まあ、こんな関係の話に詳しいであろうジプシーのいうことだから、本当にわたしの力で太刀打ちできるものなんだろうな。
「目的は理解したか」
「うん。彼女の能力消失」
わたしが計画の中心だから、わたしが理解したら、説明が先に進むわけね。
「次に方法だが、俺としては一日でケリをつけたい。そのために、彼女の母親に伝言を残してきて、今日の夜に彼女をこの学校へ呼びだした。また、これと思う方法ひとつのみで闘って、はずしたときが怖い。だから、実質的な方法とあわせて精神的なトラップの、合計四つの罠の同時進行で、彼女の能力を消滅させようと思う」
わたしは、急に不安になってきた。
四つの罠を、一度に仕掛けるなんて。
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