78 / 159
【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第78話 京一郎
しおりを挟む
俺と夢乃は、四階の音楽室にもう誰もいないのを確認してから、三階へ向かう階段を駆けおりようとした。
そのとき。
周囲の空気が震える気配がした。
先ほど響いたジプシーのリボルバーとは別物だ。
近いものといえば、奴が術を発動させたときの感じと似ている。
俺と夢乃は無言で顔を見合わせ、一気におりた。
だが、三階には、誰かがいた気配が残っていただけだった。
俺は小さく夢乃へ声をかける。
「夢乃、廊下の向こう側、誰かいるよな?」
「もしかして、ほーりゅうとジプシーかも」
俺と夢乃は、警戒しながらも連れだって廊下を走る。
すると、夢乃が口にした通り、ジプシーと床に座りこんだほーりゅうの姿を見つけた。
「ほーりゅう、合流できて良かった!」
夢乃が嬉しそうにほーりゅうへ飛びついた。
「どうした、腰でも抜かしたか?」
少々不機嫌そうなほーりゅうに声をかけながら、俺は辺りを見回す。
そして、なぜかこの場にいる生徒会長と目が合った。
とたんに、俺の顔が険しくなったのがわかったのか、会長は面白がるような表情で両手をあげ、俺に向かって口を開いた。
「私は偶然居合わせたオブザーバーだ。気にするな」
確かめるようにジプシーの顔を見た夢乃と俺に、ジプシーは無言でうなずき返してくる。
奴がそうだと言うなら、そうなのだろう。
俺は、さっさと話題を変える。
「おまえのリボルバーの音でピアノの音がやんだが、念のために音楽室まで行ってきた。誰もいないのを確認してから降りると、偶然廊下の反対側で気配がしたから、こちらにきたんだ」
「ということは、あちら側にいた高橋麗香は、もう下へ逃げてしまったか――校舎内にいない可能性もあるな」
無表情で腕を組んで考えこむジプシーのそばで、何気なく、俺は窓の外に目を向けた。
すっかり暗闇に包まれた広い運動場。
そして、その中央に立つ人影。
俺の視線に気がついた会長も窓の外に目を向け、緊張した声で低くささやいた。
「あれ、例の彼女じゃないのか?」
全員で窓の外を見る。
そこには、校舎に向いてひとり立つ、高橋麗香の姿があった。
最初にジプシーが走りだした。
俺と会長、そして夢乃とほーりゅうもあとに続く。
一気に階段を一階まで駆けおり、運動場に走りでる。
校舎の出入り口のそばで、集まって立ち止まった俺たちへ向かって、彼女は言った。
「なぜ、わたしは駄目なの?」
言葉の意味がわからず、訝しげに彼女を見た俺たちに、続けて彼女は、ほーりゅうを指さしながら叫んだ。
「どうして、その女がそばにいて、わたしは彼のそばにいてはいけないのよ!」
俺は、それはおまえが単にジプシーの好みではないからだろうという厳しい言葉をださず、別の角度から探るように声をかけた。
「おまえ、こいつの性格知らねぇだろ。どこが良くて、こいつと付き合いたいわけ?」
不意を突かれた様子だが、彼女はすぐに答えてきた。
「だって彼、きれいじゃない?」
「女装が?」
俺の言葉に反応したジプシーから、俺の背中へ無言の膝蹴りが入った。
背中をさすりながら、俺は続けて彼女に言う。
「それはおかしい。この世でもっとも美しいのは、賛美歌と女性の裸体だと言われているぞ」
今度はほーりゅうの反対側に立っていた夢乃から、俺は頭をはたかれた。
冗談で彼女の気を削ぎ、場の雰囲気を変えようかと思ったが、どうやらお気に召さなかったらしい。
仕方なく、俺は話を戻す。
「いくらきれいったって、こいつより、ほかにもっときれいだと言われる男がいるだろう? 第一、ここまでするほどの価値が、こいつにあるのか?」
「価値があるわ! わたしのなかで、一番きれいで理想の人なの!」
「でも、性格の悪さで、お釣りがくるよ」
そう言ったほーりゅうに、今度は後ろからジプシーの首絞めが入った。
「まったく。貴様らは、どつき漫才グループか。緊張感のない……」
俺らの行動を黙って見ていた会長が、呆れたようにつぶやく。
「彼女のなかの、もっともきれいで理想の美しさか――黄金率でもあるまいし」
続けた会長の言葉に、ぴたりと、ジプシーの動きが止まった。
たぶん、付き合いの深い俺だけがわかるジプシーの微妙な変化だ。
でも、いまは気づかない振りをする。
なぜなら、遠くで警察らしきサイレンの音が聞こえてきたからだ。
ここでいろいろ騒ぎを起こしたから、たぶんこちらに向かってきているに違いない。
ジプシーも会長も、サイレンに気がついたように夜空を振り仰いだ。
「どうして、いま、あなたたちのそのなかに、わたしは入られないの? 彼の隣にいられないのよ!」
急にそう叫んだ彼女のほうへ、俺たちが慌てて視線を戻したとき、彼女は両手を夜空に振りあげ、そして俺たちに向かって思い切り振りおろすところだった。
場所的に俺と会長は、夢乃の手首をひっつかみ、横っ飛びに転がり逃げた。
ジプシーも、ほーりゅうの腰を腕で引っ掛けて反対側に飛びのく。
その瞬間、かまいたちのような風が起こった。
俺たちの立っていた場所の地面をえぐりながら亀裂を走らせる。
そして、俺たちの後ろにあった校舎にも、縦にひびが入るのを、なすすべもなく唖然と俺たちは眺めた。
俺たちが、ふたたび高橋麗香のほうを振り返ったときには、もう彼女の姿はなかった。
「逃げるぞ」
ジプシーの言葉に、俺たちは我に返る。
そうだ、警察が近づいている。
とりあえず、この場からは逃げたほうが賢明だろう。
会長も含めた俺たちは、全員で、裏門へ向かって駆けだした。
そのとき。
周囲の空気が震える気配がした。
先ほど響いたジプシーのリボルバーとは別物だ。
近いものといえば、奴が術を発動させたときの感じと似ている。
俺と夢乃は無言で顔を見合わせ、一気におりた。
だが、三階には、誰かがいた気配が残っていただけだった。
俺は小さく夢乃へ声をかける。
「夢乃、廊下の向こう側、誰かいるよな?」
「もしかして、ほーりゅうとジプシーかも」
俺と夢乃は、警戒しながらも連れだって廊下を走る。
すると、夢乃が口にした通り、ジプシーと床に座りこんだほーりゅうの姿を見つけた。
「ほーりゅう、合流できて良かった!」
夢乃が嬉しそうにほーりゅうへ飛びついた。
「どうした、腰でも抜かしたか?」
少々不機嫌そうなほーりゅうに声をかけながら、俺は辺りを見回す。
そして、なぜかこの場にいる生徒会長と目が合った。
とたんに、俺の顔が険しくなったのがわかったのか、会長は面白がるような表情で両手をあげ、俺に向かって口を開いた。
「私は偶然居合わせたオブザーバーだ。気にするな」
確かめるようにジプシーの顔を見た夢乃と俺に、ジプシーは無言でうなずき返してくる。
奴がそうだと言うなら、そうなのだろう。
俺は、さっさと話題を変える。
「おまえのリボルバーの音でピアノの音がやんだが、念のために音楽室まで行ってきた。誰もいないのを確認してから降りると、偶然廊下の反対側で気配がしたから、こちらにきたんだ」
「ということは、あちら側にいた高橋麗香は、もう下へ逃げてしまったか――校舎内にいない可能性もあるな」
無表情で腕を組んで考えこむジプシーのそばで、何気なく、俺は窓の外に目を向けた。
すっかり暗闇に包まれた広い運動場。
そして、その中央に立つ人影。
俺の視線に気がついた会長も窓の外に目を向け、緊張した声で低くささやいた。
「あれ、例の彼女じゃないのか?」
全員で窓の外を見る。
そこには、校舎に向いてひとり立つ、高橋麗香の姿があった。
最初にジプシーが走りだした。
俺と会長、そして夢乃とほーりゅうもあとに続く。
一気に階段を一階まで駆けおり、運動場に走りでる。
校舎の出入り口のそばで、集まって立ち止まった俺たちへ向かって、彼女は言った。
「なぜ、わたしは駄目なの?」
言葉の意味がわからず、訝しげに彼女を見た俺たちに、続けて彼女は、ほーりゅうを指さしながら叫んだ。
「どうして、その女がそばにいて、わたしは彼のそばにいてはいけないのよ!」
俺は、それはおまえが単にジプシーの好みではないからだろうという厳しい言葉をださず、別の角度から探るように声をかけた。
「おまえ、こいつの性格知らねぇだろ。どこが良くて、こいつと付き合いたいわけ?」
不意を突かれた様子だが、彼女はすぐに答えてきた。
「だって彼、きれいじゃない?」
「女装が?」
俺の言葉に反応したジプシーから、俺の背中へ無言の膝蹴りが入った。
背中をさすりながら、俺は続けて彼女に言う。
「それはおかしい。この世でもっとも美しいのは、賛美歌と女性の裸体だと言われているぞ」
今度はほーりゅうの反対側に立っていた夢乃から、俺は頭をはたかれた。
冗談で彼女の気を削ぎ、場の雰囲気を変えようかと思ったが、どうやらお気に召さなかったらしい。
仕方なく、俺は話を戻す。
「いくらきれいったって、こいつより、ほかにもっときれいだと言われる男がいるだろう? 第一、ここまでするほどの価値が、こいつにあるのか?」
「価値があるわ! わたしのなかで、一番きれいで理想の人なの!」
「でも、性格の悪さで、お釣りがくるよ」
そう言ったほーりゅうに、今度は後ろからジプシーの首絞めが入った。
「まったく。貴様らは、どつき漫才グループか。緊張感のない……」
俺らの行動を黙って見ていた会長が、呆れたようにつぶやく。
「彼女のなかの、もっともきれいで理想の美しさか――黄金率でもあるまいし」
続けた会長の言葉に、ぴたりと、ジプシーの動きが止まった。
たぶん、付き合いの深い俺だけがわかるジプシーの微妙な変化だ。
でも、いまは気づかない振りをする。
なぜなら、遠くで警察らしきサイレンの音が聞こえてきたからだ。
ここでいろいろ騒ぎを起こしたから、たぶんこちらに向かってきているに違いない。
ジプシーも会長も、サイレンに気がついたように夜空を振り仰いだ。
「どうして、いま、あなたたちのそのなかに、わたしは入られないの? 彼の隣にいられないのよ!」
急にそう叫んだ彼女のほうへ、俺たちが慌てて視線を戻したとき、彼女は両手を夜空に振りあげ、そして俺たちに向かって思い切り振りおろすところだった。
場所的に俺と会長は、夢乃の手首をひっつかみ、横っ飛びに転がり逃げた。
ジプシーも、ほーりゅうの腰を腕で引っ掛けて反対側に飛びのく。
その瞬間、かまいたちのような風が起こった。
俺たちの立っていた場所の地面をえぐりながら亀裂を走らせる。
そして、俺たちの後ろにあった校舎にも、縦にひびが入るのを、なすすべもなく唖然と俺たちは眺めた。
俺たちが、ふたたび高橋麗香のほうを振り返ったときには、もう彼女の姿はなかった。
「逃げるぞ」
ジプシーの言葉に、俺たちは我に返る。
そうだ、警察が近づいている。
とりあえず、この場からは逃げたほうが賢明だろう。
会長も含めた俺たちは、全員で、裏門へ向かって駆けだした。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる