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【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第70話 夢乃
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――あの電話、偽の呼び出しだったんだ!
わたしは、そのことに気づくのが遅かった。
最近のジプシーの様子がいままでと違っていたから、なんとなく電話に疑いを持たなかったけれど。
普通に考えたら、あんな電話をかけてくる人じゃない。
唖然としているほーりゅう。
まだなにが起こったのか理解できていないかもしれない彼女とわたしは、暗闇のなか、学校の廊下で5人の男子生徒に囲まれていた。
目を凝らし、窓から入る街灯のわずかな明かりで、わたしは5人の顔を確認する。
全員、この高校の運動部所属の一、二年だ。なんとなく見覚えがある。たしか所属の部は、ばらばらだ。
部活が終わったあとに下校せず残ったのか、それとも部活をせずに残ったのか。
全員がユニホームではなく制服を着ている。
けれど、その内のひとりの手には、竹刀が握られていた。
まずい。
「ほーりゅう、逃げて」
わたしは、彼女を背にかばいながらささやいた。
「え? なんで?」
ぼんやりとした様子で、ほーりゅうは訊き返す。
ここで、ほーりゅうに天然ボケを発揮されても困るわたしは、簡潔にはっきりと口にした。
「この学校にいま、ジプシーはいないわ。偽の呼び出しだったのよ。そしてわたしたちは、ふたりともそろって捕まるわけにはいかない。わたしが彼らの注意を引きつけているあいだに、用務員でも警備員でも外の人間でも誰でもいいから、助けを呼んで」
「あ……。だったら、わたしも闘う! だってわたしには」
わたしは連中の動きに注意を払いながら、ほーりゅうの肩を押して叫ぶ。
「早く行きなさい! ここであなたの力が爆発したら、きっとわたしには止められない。文化祭のときのような偶然は起こらないんだから! あなたも、できる限り相手にも怪我をさせたくないでしょう?」
ほーりゅうは、文化祭のときの出来事を思いだしたらしい。
じりじりと後ずさりをはじめた。
「夢乃、ごめん! すぐに助けを呼んでくるから!」
決心がついたように叫び、背を向けて走りだしたほーりゅうのほうへ、3人がゆっくりと身体の向きを変える。
その足もとへすばやく身を落とすと、わたしは円を描くように足払いをかけた。
2人はひっかかってくれたけれど、僅かに遠くの1人には届かなかった。
しまった!
ほーりゅうは、音楽室とは逆の正門へ向かう廊下を走って、壁に突き当る。
そして、曲がって三階へおりる階段へと姿を消した。
追っていった男も、同じように消えていく。
ほーりゅうと男が消えた方向を背に、倒れた2人がゆっくり起きあがり、わたしのほうへと向いた。
わたしは、昼休みのときに聞いた、ジプシーの言葉を思いだす。
この連中の、次の行動を起こすときの緩慢な動きは、裏で操り人形のように術者が動かすという、傀儡術のためかもしれない。
ならば、おそらく彼女――高橋麗香の仕業だ。
きっと、いつもジプシーの近くにいるわたしとほーりゅうが目障りってことなのね。
そう考えながら、わたしは自分の置かれた状況を確認する。
追っ手を一人取り逃がしてしまったけれど、無事に、ほーりゅうは逃げ切れるだろうか。
けれど、ほーりゅうのことは、もう彼女自身に任せるしかない。
4人に囲まれた形で、わたしは両手の五指を広げ、ゆっくり半身になり基本の構えをとる。
わたしは、自分の合気道の実力を充分に知っている。
この4人を倒せるとは思っていない。
せいぜい4~5分の足止めが限度だ。
それでも、ほーりゅうが逃げ切れる時間稼ぎになればいい。
――いまから、道場での練習じゃない。
わたしは、ジプシーから教えられた通り、実戦向けに基本の構えからさらに腰を落とすと、両手の手刀を高めに構えた。
わたしは、そのことに気づくのが遅かった。
最近のジプシーの様子がいままでと違っていたから、なんとなく電話に疑いを持たなかったけれど。
普通に考えたら、あんな電話をかけてくる人じゃない。
唖然としているほーりゅう。
まだなにが起こったのか理解できていないかもしれない彼女とわたしは、暗闇のなか、学校の廊下で5人の男子生徒に囲まれていた。
目を凝らし、窓から入る街灯のわずかな明かりで、わたしは5人の顔を確認する。
全員、この高校の運動部所属の一、二年だ。なんとなく見覚えがある。たしか所属の部は、ばらばらだ。
部活が終わったあとに下校せず残ったのか、それとも部活をせずに残ったのか。
全員がユニホームではなく制服を着ている。
けれど、その内のひとりの手には、竹刀が握られていた。
まずい。
「ほーりゅう、逃げて」
わたしは、彼女を背にかばいながらささやいた。
「え? なんで?」
ぼんやりとした様子で、ほーりゅうは訊き返す。
ここで、ほーりゅうに天然ボケを発揮されても困るわたしは、簡潔にはっきりと口にした。
「この学校にいま、ジプシーはいないわ。偽の呼び出しだったのよ。そしてわたしたちは、ふたりともそろって捕まるわけにはいかない。わたしが彼らの注意を引きつけているあいだに、用務員でも警備員でも外の人間でも誰でもいいから、助けを呼んで」
「あ……。だったら、わたしも闘う! だってわたしには」
わたしは連中の動きに注意を払いながら、ほーりゅうの肩を押して叫ぶ。
「早く行きなさい! ここであなたの力が爆発したら、きっとわたしには止められない。文化祭のときのような偶然は起こらないんだから! あなたも、できる限り相手にも怪我をさせたくないでしょう?」
ほーりゅうは、文化祭のときの出来事を思いだしたらしい。
じりじりと後ずさりをはじめた。
「夢乃、ごめん! すぐに助けを呼んでくるから!」
決心がついたように叫び、背を向けて走りだしたほーりゅうのほうへ、3人がゆっくりと身体の向きを変える。
その足もとへすばやく身を落とすと、わたしは円を描くように足払いをかけた。
2人はひっかかってくれたけれど、僅かに遠くの1人には届かなかった。
しまった!
ほーりゅうは、音楽室とは逆の正門へ向かう廊下を走って、壁に突き当る。
そして、曲がって三階へおりる階段へと姿を消した。
追っていった男も、同じように消えていく。
ほーりゅうと男が消えた方向を背に、倒れた2人がゆっくり起きあがり、わたしのほうへと向いた。
わたしは、昼休みのときに聞いた、ジプシーの言葉を思いだす。
この連中の、次の行動を起こすときの緩慢な動きは、裏で操り人形のように術者が動かすという、傀儡術のためかもしれない。
ならば、おそらく彼女――高橋麗香の仕業だ。
きっと、いつもジプシーの近くにいるわたしとほーりゅうが目障りってことなのね。
そう考えながら、わたしは自分の置かれた状況を確認する。
追っ手を一人取り逃がしてしまったけれど、無事に、ほーりゅうは逃げ切れるだろうか。
けれど、ほーりゅうのことは、もう彼女自身に任せるしかない。
4人に囲まれた形で、わたしは両手の五指を広げ、ゆっくり半身になり基本の構えをとる。
わたしは、自分の合気道の実力を充分に知っている。
この4人を倒せるとは思っていない。
せいぜい4~5分の足止めが限度だ。
それでも、ほーりゅうが逃げ切れる時間稼ぎになればいい。
――いまから、道場での練習じゃない。
わたしは、ジプシーから教えられた通り、実戦向けに基本の構えからさらに腰を落とすと、両手の手刀を高めに構えた。
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