キスメット

くにざゎゆぅ

文字の大きさ
上 下
70 / 159
【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』

第70話 夢乃

しおりを挟む
 ――あの電話、にせの呼び出しだったんだ!

 わたしは、そのことに気づくのが遅かった。
 最近のジプシーの様子がいままでと違っていたから、なんとなく電話に疑いを持たなかったけれど。
 普通に考えたら、あんな電話をかけてくる人じゃない。

 唖然としているほーりゅう。
 まだなにが起こったのか理解できていないかもしれない彼女とわたしは、暗闇のなか、学校の廊下で5人の男子生徒に囲まれていた。

 目を凝らし、窓から入る街灯のわずかな明かりで、わたしは5人の顔を確認する。
 全員、この高校の運動部所属の一、二年だ。なんとなく見覚えがある。たしか所属の部は、ばらばらだ。
 部活が終わったあとに下校せず残ったのか、それとも部活をせずに残ったのか。
 全員がユニホームではなく制服を着ている。
 けれど、その内のひとりの手には、竹刀が握られていた。
 まずい。

「ほーりゅう、逃げて」

 わたしは、彼女を背にかばいながらささやいた。

「え? なんで?」

 ぼんやりとした様子で、ほーりゅうは訊き返す。
 ここで、ほーりゅうに天然ボケを発揮されても困るわたしは、簡潔にはっきりと口にした。

「この学校にいま、ジプシーはいないわ。偽の呼び出しだったのよ。そしてわたしたちは、ふたりともそろって捕まるわけにはいかない。わたしが彼らの注意を引きつけているあいだに、用務員でも警備員でも外の人間でも誰でもいいから、助けを呼んで」
「あ……。だったら、わたしも闘う! だってわたしには」

 わたしは連中の動きに注意を払いながら、ほーりゅうの肩を押して叫ぶ。

「早く行きなさい! ここであなたの力が爆発したら、きっとわたしには止められない。文化祭のときのような偶然は起こらないんだから! あなたも、できる限り相手にも怪我をさせたくないでしょう?」

 ほーりゅうは、文化祭のときの出来事を思いだしたらしい。
 じりじりと後ずさりをはじめた。

「夢乃、ごめん! すぐに助けを呼んでくるから!」

 決心がついたように叫び、背を向けて走りだしたほーりゅうのほうへ、3人がゆっくりと身体の向きを変える。
 その足もとへすばやく身を落とすと、わたしは円を描くように足払いをかけた。
 2人はひっかかってくれたけれど、僅かに遠くの1人には届かなかった。

 しまった!

 ほーりゅうは、音楽室とは逆の正門へ向かう廊下を走って、壁に突き当る。
 そして、曲がって三階へおりる階段へと姿を消した。
 追っていった男も、同じように消えていく。

 ほーりゅうと男が消えた方向を背に、倒れた2人がゆっくり起きあがり、わたしのほうへと向いた。

 わたしは、昼休みのときに聞いた、ジプシーの言葉を思いだす。

 この連中の、次の行動を起こすときの緩慢な動きは、裏で操り人形のように術者が動かすという、傀儡術のためかもしれない。
 ならば、おそらく彼女――高橋麗香の仕業だ。
 きっと、いつもジプシーの近くにいるわたしとほーりゅうが目障りってことなのね。

 そう考えながら、わたしは自分の置かれた状況を確認する。

 追っ手を一人取り逃がしてしまったけれど、無事に、ほーりゅうは逃げ切れるだろうか。
 けれど、ほーりゅうのことは、もう彼女自身に任せるしかない。



 4人に囲まれた形で、わたしは両手の五指を広げ、ゆっくり半身になり基本の構えをとる。

 わたしは、自分の合気道の実力を充分に知っている。
 この4人を倒せるとは思っていない。
 せいぜい4~5分の足止めが限度だ。
 それでも、ほーりゅうが逃げ切れる時間稼ぎになればいい。
 ――いまから、道場での練習じゃない。



 わたしは、ジプシーから教えられた通り、実戦向けに基本の構えからさらに腰を落とすと、両手の手刀しゅとうを高めに構えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

処理中です...