68 / 159
【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第68話 ジプシー
しおりを挟む
すっかり日の暮れたころ、家に帰り着くと、玄関先で夢乃のお母さんに言われた。
「あら? さっき学校で待ち合わせだって電話してきたんでしょう? 夢乃とほーりゅうちゃん、もう学校に向かっているわよ」
一瞬で、血の気がひいた。
そして、俺は動揺が顔にでないように、普段通りの無表情で穏やかに口にする。
「あれ、うまく連絡が伝わってなかったんだな。すれ違いになったみたいだ。カバンを置いたら、俺がふたりを迎えに行ってきます」
そう告げると、俺は足早に階段を駆けあがり、自分の部屋へと向かった。
あの女、ほーりゅうと夢乃に矛先を向けた。
俺の名前で、ふたりを呼びだしやがった。
怒りはあるが、ありがたいことに、俺はかえって頭も冷えた。
今回は最初から後手に回ったせいか、消極気味で調子も狂った。
いまも向こうのほうが、行動が素早い。
この様子なら、俺が動かなかった数日間よりも前から、――もしかしたら文化祭の直後から、すべてを計画して準備をしていた可能性もある。
まだ正体の不確かな相手だが。
この道で生きると決めたプロの意地をみせてやる。
まず俺は、夢乃の部屋の扉を開けて机の上を確認した。
やはり普段の俺と同じで、学校へは携帯を持たずに出かけている。
俺は自分の部屋に入ると、上着を脱ぎながら、京一郎に連絡をいれた。
『おう』
3回のコールで、京一郎の声が返ってくる。
「京一郎、いまどこだ」
『家』
「すぐに学校へ出てこられるか」
一瞬考える気配が伝わってきたが、返ってくる言葉は簡潔だ。
『バイクなら五分』
「OK。少し前に夢乃とほーりゅうが、呼びだされて学校へ向かった。途中で会えばその場で足止めして俺に連絡。会わなければ高校裏門で俺と合流。俺も用意が整いしだい向かう」
『了解』
すぐに電話が切れる。
相手のはっきりとした能力がまだ確認できていないので、念のために俺はホルスターを脇に吊る。
たぶん陰陽道関係の術だと踏んだのだが、彼女の術の使い方が、まず俺とは違った。
俺は、正式な修行過程を行っていないためか、真言や印契や陣、梵字や独鈷のような媒体を使わなければ、スムーズな術の発動が行えない。
従兄弟のトラは陰陽道直系で次期当主の立場であるため、厳しく修業をさせられていたが、最後に別れたころは、俺と同じような方法だった。
現在のトラは、やり方が変わってきているのだろうか。
発動法が変化しているのであれば、一度、訊いておいたほうがいいかもしれない。
あるいは、今回の彼女は陰陽道の術ではなく、例えば、ほーりゅうや――奴のような超能力と呼ばれるような、別の種類の力なのだろうか。
俺は、シリンダーのなかの弾丸チェックをして、ホルスターに戻す。
半分はお守り代わりの意味もあるリボルバーだ。
使わないに越したことはない。
もう一度、制服の上着をはおり、左袖に隠し武器の独鈷を持った俺は、一気に階段を駆けおりた。
裏門で、京一郎がひとりで待っていた。
「あいつらの通りそうな道と高校の周りを回ってきたが、いないな。もう学校に入ったんじゃねぇか?」
「校内か」
そうつぶやいて、俺は校舎を見上げた。
すっかり日が落ちたため、静寂と暗闇のなかで、妙に壁が白く浮かびあがる。
黙って校舎を見あげている俺の横顔を、京一郎は見つめてきた。
気づいた俺は、京一郎に視線を走らせる。
そして、無感情に告げた。
「大丈夫。充分頭の芯まで冷えている。いまから、こっちのペースに巻き返す」
俺と京一郎は互いに携帯やスマホを取りだすと、音を消してバイブ機能のみに切り替える。
「部活の生徒は、もういない時間帯だな。術の心得がありそうな敵の動きもわからない。式神召喚の陣を敷くより、校内を二手に分かれて探したほうが早そうだ」
京一郎も同意する。
俺と京一郎は、するりと裏門を通りぬけた。
そして、京一郎は生徒棟へ、俺は職員室棟へと、足音を消して走りだした。
「あら? さっき学校で待ち合わせだって電話してきたんでしょう? 夢乃とほーりゅうちゃん、もう学校に向かっているわよ」
一瞬で、血の気がひいた。
そして、俺は動揺が顔にでないように、普段通りの無表情で穏やかに口にする。
「あれ、うまく連絡が伝わってなかったんだな。すれ違いになったみたいだ。カバンを置いたら、俺がふたりを迎えに行ってきます」
そう告げると、俺は足早に階段を駆けあがり、自分の部屋へと向かった。
あの女、ほーりゅうと夢乃に矛先を向けた。
俺の名前で、ふたりを呼びだしやがった。
怒りはあるが、ありがたいことに、俺はかえって頭も冷えた。
今回は最初から後手に回ったせいか、消極気味で調子も狂った。
いまも向こうのほうが、行動が素早い。
この様子なら、俺が動かなかった数日間よりも前から、――もしかしたら文化祭の直後から、すべてを計画して準備をしていた可能性もある。
まだ正体の不確かな相手だが。
この道で生きると決めたプロの意地をみせてやる。
まず俺は、夢乃の部屋の扉を開けて机の上を確認した。
やはり普段の俺と同じで、学校へは携帯を持たずに出かけている。
俺は自分の部屋に入ると、上着を脱ぎながら、京一郎に連絡をいれた。
『おう』
3回のコールで、京一郎の声が返ってくる。
「京一郎、いまどこだ」
『家』
「すぐに学校へ出てこられるか」
一瞬考える気配が伝わってきたが、返ってくる言葉は簡潔だ。
『バイクなら五分』
「OK。少し前に夢乃とほーりゅうが、呼びだされて学校へ向かった。途中で会えばその場で足止めして俺に連絡。会わなければ高校裏門で俺と合流。俺も用意が整いしだい向かう」
『了解』
すぐに電話が切れる。
相手のはっきりとした能力がまだ確認できていないので、念のために俺はホルスターを脇に吊る。
たぶん陰陽道関係の術だと踏んだのだが、彼女の術の使い方が、まず俺とは違った。
俺は、正式な修行過程を行っていないためか、真言や印契や陣、梵字や独鈷のような媒体を使わなければ、スムーズな術の発動が行えない。
従兄弟のトラは陰陽道直系で次期当主の立場であるため、厳しく修業をさせられていたが、最後に別れたころは、俺と同じような方法だった。
現在のトラは、やり方が変わってきているのだろうか。
発動法が変化しているのであれば、一度、訊いておいたほうがいいかもしれない。
あるいは、今回の彼女は陰陽道の術ではなく、例えば、ほーりゅうや――奴のような超能力と呼ばれるような、別の種類の力なのだろうか。
俺は、シリンダーのなかの弾丸チェックをして、ホルスターに戻す。
半分はお守り代わりの意味もあるリボルバーだ。
使わないに越したことはない。
もう一度、制服の上着をはおり、左袖に隠し武器の独鈷を持った俺は、一気に階段を駆けおりた。
裏門で、京一郎がひとりで待っていた。
「あいつらの通りそうな道と高校の周りを回ってきたが、いないな。もう学校に入ったんじゃねぇか?」
「校内か」
そうつぶやいて、俺は校舎を見上げた。
すっかり日が落ちたため、静寂と暗闇のなかで、妙に壁が白く浮かびあがる。
黙って校舎を見あげている俺の横顔を、京一郎は見つめてきた。
気づいた俺は、京一郎に視線を走らせる。
そして、無感情に告げた。
「大丈夫。充分頭の芯まで冷えている。いまから、こっちのペースに巻き返す」
俺と京一郎は互いに携帯やスマホを取りだすと、音を消してバイブ機能のみに切り替える。
「部活の生徒は、もういない時間帯だな。術の心得がありそうな敵の動きもわからない。式神召喚の陣を敷くより、校内を二手に分かれて探したほうが早そうだ」
京一郎も同意する。
俺と京一郎は、するりと裏門を通りぬけた。
そして、京一郎は生徒棟へ、俺は職員室棟へと、足音を消して走りだした。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる