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【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第63話 ほーりゅう
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「知ってる知ってる! 高橋麗香。あの子、この辺りでは可愛くて有名だもの」
ほかにも何人かのクラスメートの女の子に囲まれて、明子ちゃんは嬉しそうに知っている情報を教えてくれた。
「なんか芸能人的なオーラがあるでしょ? 本当に雑誌のモデルのような仕事もちょっとしているのよ。でも学校はちゃんと行けるときには行っているみたい。彼氏はいままでいないって。高校生だし事務所が認めていないらしいしね。だから、彼女の周りにいる男性は全員、ただのファンや追っかけってことよ。今日、車で送ってきたのも取り巻きのひとりだよ。でもさ、男に告りにくるのに、ほかの男の車に乗ってくるってのもさぁ」
「それにしても明子ちゃん、よりにもよって、なんで告白の相手がジプシーなんだろう?」
「ほーりゅう。それ、普通に失礼だって」
「あの彼女、文化祭にもきていたらしいよ。それでジプシーの舞台を観たんじゃない?」
「そりゃ、あのジプシーの女装はきれいだったけれどさ、ラブレターならまだしも直接告白にくるなんて」
いろいろと情報と憶測が飛び交うなか、なるほど、やっぱり思った通りじゃないかと、わたしは勝ち誇った気分になっていた。
彼女は、文化祭の舞台で観たジプシーに一目惚れして、そのあとは今日までずっと学校帰りなど、あとをつけていたんだ。
で、わたしとジプシーとの土曜日のおとりデートに引っかかって、今回まんまと姿を現した。
さっき夢乃が言っていた「動いた」って、きっと彼女がでてきたって意味なんだな。
なんだ!
今回はまったく心配していた裏の世界とも関係ないし。
ジプシーの交際の断り方が酷過ぎて、それがある意味問題だけれども。
これで一件落着じゃん!
その日の午前中の授業は、ややざわめいていたけれども、いたって平穏に過ぎた。
職員室には、今朝の騒ぎは伝わっていないということらしい。
ジプシーも、普段と変わりない態度で授業を受けている。
全然、動揺はないんだ?
チャイムが鳴って昼休みになると、わたしはお弁当を持って、さっさといつもの自習室へ向かった。
普段からジプシーに目をつけているくらいだ。
ひょっとすると、騒ぎを聞きつけた生徒会長あたりが、ここぞとばかりに冷やかしや糾弾にこないとも限らない。
同じところに向かうので、廊下を歩いていると、先にでて歩いていた夢乃に追いついた。
自習室に着くと、今度は、ちょうど扉を開けようとしていたジプシーにも出会う。
「ビンゴだビンゴ! まあ、見てみろって!」
ドアを開いた瞬間、部屋の奥ですでに机を寄せて、なにやら資料を眺めていたらしい京一郎が、わたしたちを見て嬉しそうな声をあげた。
この男は、午前中の授業をサボって、なにをしていたんだろう?
さっそく近づいて、京一郎の差しだした一枚の写真を手にとった。
これって、土曜日のおとりデートのときの写真だ。
「――あ。麗香さんが写ってる!」
「そう! しかも時間的に、ちょうどジプシーがメールを送ってきたとき、店の前の道を、男の取り巻き三人を連れて歩いている」
へぇ~! やってみるもんだね。
これで身体を張ったあのデートが、無駄じゃなかったって思えるよ。
――なんて言えるかぁ!
思いだしちゃったじゃない、ジプシーのばか!
「あと、俺の憶測をいれない事実報告だけをすると。家族構成は、製菓会社の専務の父親、専業主婦の母親、そして彼女の三人家族。先日の土日が彼女の高校の文化祭で、月曜日の今日は代休。朝からここにこられるわけだ。ちょっとだけ雑誌のモデルもしているって話だから事務所も回ってきたが、一応過去の男関係はでなかった。取り巻きとファンっていうのだけ。これが意外と曲者かもってくらいかな。でも取り巻きも含めて裏世界とのつながりはいまのところまったくなし。以上! 夢乃とほーりゅうは?」
「似たようなものね。この様子じゃ、ほーりゅうも同じでしょう」
「うん! ――なぁんだ、明子ちゃんに聞いてきてってのは、昼休みにこうやって相談するための情報収集だったんだ。ってことはさ、やっぱりこの麗香さんが、文化祭のあとからジプシーを尾行していたってことで決まりだよね。解決じゃない?」
わたしは勢いこんでジプシーに言った。
でも、それまで席についてからお弁当に手をつけず、目をつむったまま腕を組んで、皆の話を聞いていたジプシーが、ふっと顔をあげた。
「京一郎。おまえは百パーセント、本当に、ただのストーカーだと思っているか?」
すると、少しの間を置いて、真剣な顔つきになった京一郎は答える。
「俺は、いまの段階では九十パーセント、一般女子高生のストーカーだと考えている。残りの十パーセントは……。俺の勘で、ただのストーカーじゃないような気がする」
ジプシーは、かすかにうなずいた。
「俺も、残りの十パーセントのほうで、敵だと思う」
「なんでよ。敵ってなによ! どうして男ふたりがそんなこと、勘でわかるのさ?」
わたしは訝しげに訊いた。
夢乃も、わたしに同意するようにうなずく。
「あの女が俺へ向かって、自分の眼を見て返事をくれと言っただろ? あのとき……」
ジプシーが思いだしたかのように、平手打ちを食らった頬をなでながら言葉を続けた。
「眼で、俺に術をかけてきやがった」
ほかにも何人かのクラスメートの女の子に囲まれて、明子ちゃんは嬉しそうに知っている情報を教えてくれた。
「なんか芸能人的なオーラがあるでしょ? 本当に雑誌のモデルのような仕事もちょっとしているのよ。でも学校はちゃんと行けるときには行っているみたい。彼氏はいままでいないって。高校生だし事務所が認めていないらしいしね。だから、彼女の周りにいる男性は全員、ただのファンや追っかけってことよ。今日、車で送ってきたのも取り巻きのひとりだよ。でもさ、男に告りにくるのに、ほかの男の車に乗ってくるってのもさぁ」
「それにしても明子ちゃん、よりにもよって、なんで告白の相手がジプシーなんだろう?」
「ほーりゅう。それ、普通に失礼だって」
「あの彼女、文化祭にもきていたらしいよ。それでジプシーの舞台を観たんじゃない?」
「そりゃ、あのジプシーの女装はきれいだったけれどさ、ラブレターならまだしも直接告白にくるなんて」
いろいろと情報と憶測が飛び交うなか、なるほど、やっぱり思った通りじゃないかと、わたしは勝ち誇った気分になっていた。
彼女は、文化祭の舞台で観たジプシーに一目惚れして、そのあとは今日までずっと学校帰りなど、あとをつけていたんだ。
で、わたしとジプシーとの土曜日のおとりデートに引っかかって、今回まんまと姿を現した。
さっき夢乃が言っていた「動いた」って、きっと彼女がでてきたって意味なんだな。
なんだ!
今回はまったく心配していた裏の世界とも関係ないし。
ジプシーの交際の断り方が酷過ぎて、それがある意味問題だけれども。
これで一件落着じゃん!
その日の午前中の授業は、ややざわめいていたけれども、いたって平穏に過ぎた。
職員室には、今朝の騒ぎは伝わっていないということらしい。
ジプシーも、普段と変わりない態度で授業を受けている。
全然、動揺はないんだ?
チャイムが鳴って昼休みになると、わたしはお弁当を持って、さっさといつもの自習室へ向かった。
普段からジプシーに目をつけているくらいだ。
ひょっとすると、騒ぎを聞きつけた生徒会長あたりが、ここぞとばかりに冷やかしや糾弾にこないとも限らない。
同じところに向かうので、廊下を歩いていると、先にでて歩いていた夢乃に追いついた。
自習室に着くと、今度は、ちょうど扉を開けようとしていたジプシーにも出会う。
「ビンゴだビンゴ! まあ、見てみろって!」
ドアを開いた瞬間、部屋の奥ですでに机を寄せて、なにやら資料を眺めていたらしい京一郎が、わたしたちを見て嬉しそうな声をあげた。
この男は、午前中の授業をサボって、なにをしていたんだろう?
さっそく近づいて、京一郎の差しだした一枚の写真を手にとった。
これって、土曜日のおとりデートのときの写真だ。
「――あ。麗香さんが写ってる!」
「そう! しかも時間的に、ちょうどジプシーがメールを送ってきたとき、店の前の道を、男の取り巻き三人を連れて歩いている」
へぇ~! やってみるもんだね。
これで身体を張ったあのデートが、無駄じゃなかったって思えるよ。
――なんて言えるかぁ!
思いだしちゃったじゃない、ジプシーのばか!
「あと、俺の憶測をいれない事実報告だけをすると。家族構成は、製菓会社の専務の父親、専業主婦の母親、そして彼女の三人家族。先日の土日が彼女の高校の文化祭で、月曜日の今日は代休。朝からここにこられるわけだ。ちょっとだけ雑誌のモデルもしているって話だから事務所も回ってきたが、一応過去の男関係はでなかった。取り巻きとファンっていうのだけ。これが意外と曲者かもってくらいかな。でも取り巻きも含めて裏世界とのつながりはいまのところまったくなし。以上! 夢乃とほーりゅうは?」
「似たようなものね。この様子じゃ、ほーりゅうも同じでしょう」
「うん! ――なぁんだ、明子ちゃんに聞いてきてってのは、昼休みにこうやって相談するための情報収集だったんだ。ってことはさ、やっぱりこの麗香さんが、文化祭のあとからジプシーを尾行していたってことで決まりだよね。解決じゃない?」
わたしは勢いこんでジプシーに言った。
でも、それまで席についてからお弁当に手をつけず、目をつむったまま腕を組んで、皆の話を聞いていたジプシーが、ふっと顔をあげた。
「京一郎。おまえは百パーセント、本当に、ただのストーカーだと思っているか?」
すると、少しの間を置いて、真剣な顔つきになった京一郎は答える。
「俺は、いまの段階では九十パーセント、一般女子高生のストーカーだと考えている。残りの十パーセントは……。俺の勘で、ただのストーカーじゃないような気がする」
ジプシーは、かすかにうなずいた。
「俺も、残りの十パーセントのほうで、敵だと思う」
「なんでよ。敵ってなによ! どうして男ふたりがそんなこと、勘でわかるのさ?」
わたしは訝しげに訊いた。
夢乃も、わたしに同意するようにうなずく。
「あの女が俺へ向かって、自分の眼を見て返事をくれと言っただろ? あのとき……」
ジプシーが思いだしたかのように、平手打ちを食らった頬をなでながら言葉を続けた。
「眼で、俺に術をかけてきやがった」
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